第8話 美菜子の恋
「僕は、今も竜一の母親を愛しています」
いいんだろうか。
いや、俺はいいんだけど。
母になるとは言え、同級生。
同年代の女子って―――
「もー信じらんない! この一休マンションってのにもう3時間もいるのよ! 絶っっ対浮気してる!! 」
美菜子がスマホを見て憤っている。
歩きスマホダメなんだぞ。
今は下校中。
途中で美菜子に会い、うちに来る途中だった珠央とも合流。
「え、美菜子ちゃんの彼氏?」
「うん! 塾の先生なんだけど。先生は私だけを見てくれる人だと思ってたのに!!」
生徒に手ー出す先生って時点でどうなんだ……。
初めて小泉珠央さんに会ってから、もう1ヶ月が経つ。
珠央は毎日うちに来る。
俺はもちろん、美菜子や直ともすっかり打ち解けた。
「もしかして……先生は、他の生徒とも付き合った例が多数な人だったり……?」
ポカンと口を開け目を見開き、驚愕の表情の美菜子。
大きな目を鋭く光らせながら、珠央はさらに続ける。
「もしかもしかしたら、結婚してる人だったり……?」
「結婚?!」
美菜子が立ち止まった。
と、思ったら
「きーてくる!!」
とどこかへ走って行ってしまった。
え、一休マンションにいるんだろ?
どこか知らないけど。
「電話でもするのかな?」
珠央も首を傾げている。
「珠央さま―――!!」
えらい形相で美菜子が走って来た。
「結婚してる上に、子供5人もいました―――!!」
「えぇ?!」
大当たりか、びっくりだ。
「美菜子ちゃん、落ち着いて」
珠央が優しく声を掛ける。
「付き合ってると思ってたの!!」
美菜子はよほどショックだったのか、聞いちゃいない。
「結婚してるだなんて! 子供5人もいるなんて!!」
「落ち着いて、美菜子ちゃん。大事なのは、美菜子ちゃんの気持ちだよ?」
美菜子がハッと、珠央を見た。
「美菜子ちゃんの気持ちはどうなの? 先生は、子供5人のお母さんになってでも一緒にいたい人なの?」
「え……」
おお、見事に美菜子を黙らせたなあ。
「授業中だけじゃないよ。ずっと毎日一緒にいるんだよ。子供5人も一緒に」
美菜子の顔がゆがむ。
「お母さんには……なれないかも」
美菜子の言葉に、珠央がパッと明るい顔になる。
「それが美菜子ちゃんの気持ちなんだよ! 先生は大好きな人だけど、子供5人のお母さんになりたい人ではなかったんだよ! 」
そりゃそーだろ。
いきなり子供5人のお母さんになりたいヤツなんているか?
「素敵な先生と、勉強を頑張る教え子の関係でいいんじゃないかなあ? 勉強して、成績上がったら先生も嬉しいと思うよ!」
それ、もはやただの塾講師と生徒じゃん。
「そうだよ……! 先生なんておっさんが多い中、おっさんでもイケメンなだけモチベ上がんじゃん!」
拳を握りしめ、希望に満ちた表情で高らかに叫ぶ美菜子。
キラッキラして……
どうしたってんだ美菜子……
ヨゴレ代表のような美菜子が……
「珠央さま! 私勉強頑張る! 頑張って成績上げて、先生を昇給させて自慢の生徒になるわ!」
どんな目標だよ。
1人の生徒の成績で給料上がるもんなの?
まあ、勉強する気になったんなら、いいのか。
美菜子、成績やべーしな。
自宅に帰る時にも、美菜子はやる気満々だ。
「じゃ! 私勉強するから!」
「うん! 頑張ってね、美菜子ちゃん」
美菜子が勉強か。何日続くかだな。
俺らも家に入る。
手洗いうがいを済ませ、リビングに行くと、キッチンで手洗いうがいをした珠央はカバンからスマホを出していた。
「おー美菜子ちゃん、早速数学の宿題してるってー」
「すごいな珠央。あの美菜子を秒で立ち直らせた上にあんなやる気にさせるなんて」
珠央は、ははっと笑って、
「なんか変だなーと思ったの。電話かなんか分かんないけど、美菜子ちゃんすぐ戻ってきて結婚してたって言ってたでしょ?」
「うん。異様に早かった」
「先生、隠してたわけじゃないのかなーって思って。美菜子ちゃんが知らなかっただけで」
「へ?」
「先生って結構、授業中に家庭の話したりもするじゃない? 先生は普通に美菜子ちゃんが結婚してること知ってると思ってたんじゃないのかなあ」
「あー……なるほど」
「ま、それでも生徒と付き合うなんて、最低だけどね」
「そうなると話変わるかもな……あいつ思い込み激しいから、付き合ってるつもりだったのは美菜子だけかも」
「え?」
「スマホの位置情報だって、先生が事務室に1人の時に普段のお礼だってコーヒー持ってって、先生がトイレ行くまで粘って席外した隙に設定したって言ってたし」
「えぇ?!」
「そん時は、浮気対策したの知られたくないのかな、くらいにしか思わかなったけど」
「まあ、彼氏のスマホの位置情報分かるようにしたって聞いたら、そう思うよね」
付き合ってもないとなると、その無駄な行動力がむしろ怖いわ……。
勉強と言う、正しい方向に意識が向いて、ほんと良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます