第7話 藤井寺竜一の特技

「珠央を、どうかよろしくお願いします」


「はい! あ、いえ、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 父と小泉父が共にペコペコしている。


 誠意って伝わるんだな。


 たぶん、母にも。


「竜一くん! 布団、ありがとう!」


 小泉家の皆さんも、すっかり目覚めたようだ。


 それからは、たぶん一般的な家族紹介になった。


 目を見ると倒れる相手でも、相手の鼻を見て話せば大丈夫なことに、俺は中2で気付いていた。


 顔全体を見るよりも、鼻だけを見てしゃべるのがコツだ。


 これに気付いてから、人付き合いがグッと楽になった。


 相手も目を見て話すのと変わらないくらい、違和感もないらしい。


 だから、俺は人を鼻で識別できる。


 クラスメート約30人すら、マスクをしてたって鼻だけで誰か分かる自信がある。


 ただ、テレビで一方的に見るだけの芸能人なんかは鼻では分からない。


 俺と目を合わせても大丈夫な希少な人たちも、鼻なんかだけでは分からない。


 親父、NOVA203の美菜子、NOVA205の直、そしてNOVA204の新メンバー小泉珠央さん。


 まさか、この年になって目を見ても大丈夫な人に出会えるなんて……!


 さて、小泉家の皆さんの鼻と名前もバッチリ覚えた。


 小泉孝二郎こうじろうさんは、加工業の自営らしい。

 定年もないし、体が動くうちは働くそうだ。


 妻の小泉朋子ともこさんは、その自営業に従事している。


 長男、小泉暁人あきとさんは、27歳。自営業は継がず一般企業に就職している。


 長女、小泉美羅来みらくるさんが自営業を継ぐらしい。24歳。筋が良く、順調に技術を会得しているそうだ。


 てか、美羅来て。娘フィーバーすごかったんだろうな。


 はじめこそ俺を見てボーゼンとしていた皆さんだったけど、ピザを取り、椅子が全然足りないから立食パーティーするうちに、徐々に慣れたようだ。


 大人たちは、お酒が入ったのもよかったのかもしれない。


 父と孝二郎さんも、人に仕事を教える難しさの話題で盛り上がり、すっかり打ち解けたようだ。


 2人とも山本五十六の


「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」


 と言う名言を信条としているらしく、いかに素晴らしい人物かを語り合っていた。


 名言だとは思うが山本五十六氏に興味ない俺にとっても、父の話し相手ができて良かった。

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