第3話 再婚相手

 家に帰ると、父がいた。


「ただいま」


「おかえり!」


 被る勢い。


 心なしか、父のテンションが高めな気がする。


 手洗いうがいを洗面所で済ませ、着替えようか、学生の正装、制服の方がいいのか……。


 父はラフな格好してたけど、俺は初対面だし……。


 あ、4時50分だ。


 5時に来るって言ってたから、そろそろ再婚相手の人が来るかもしれない。


 着替えてて途中で来て変な間が空くのもなんだし、このまま制服で待つか。


 美菜子が絡んできたせいで、予定より帰るの遅れたからなあ。


 ♪♪ピンポーン♪♪



 来た!!!!!


 父がパタパタと、廊下を走って玄関に向かうのが洗面所から一瞬目に入った。


 来た……来た!!


 伝説のオーラを射止めた父。


 その父を射止めた女性。


 どんな人なんだろう。


 でもきっと、すごい女性だ……!


 心臓が、ものすごく速く強く打っている感じがした。


 玄関に行かないと。


 極限にドキドキしながら、玄関に行った。

 ちょうど、父がドアを開ける瞬間だった。


 そのドアの向こうにいたのは、身長150cmもなさそうな、小柄で幼い小学校高学年くらいのセーラー服の女の子。


 子供かよ……

 拍子抜けした。


 でも、そりゃそうか。

 高校生の子供がいる父と結婚しようってんだから、向こうも子供がいるんだ。


 いくらパーフェクトフェイスでも、40代で高校生の子供がいて、初婚の嫁さんと再婚なんてそりゃないか。


 女の子を迎え入れ、俺を見て父が言った。


小泉こいずみ 珠央たまおさんだ」


「あ…藤井寺ふじいでら 竜一りゅういちです」


「小泉 珠央です! あの……よろしくお願いします!」


 見た目通りの高い声で、一生懸命にあいさつしている。


 いい子そうだな……。

 妹、か……。


 母親に、妹。


 予想もできなかった展開だ。


 血のつながりはなくても、人生が大きく動いた予感がした。


 無性に、妹は俺が守るんだ!みたいな、炭治郎の心が乗り移ってきたようだ。


 うちのダイニングテーブルは4人掛け。


 ずっと父と2人だったけど、4人フルになるんだ……。


 4人掛けのテーブルに、小泉珠央さんが案内され座る。


 何飲む?

 えーと、お茶がいい。

 冷たいのでいい?

 うん!途中で走って来たから、結構暑いんだよね。


 てな会話が繰り広げられている。


 3つのカップにお茶を入れた父が、テーブルにお茶を置いていき、小泉珠央さんの隣に座る。


 父の正面の位置に置かれたお茶に釣られるように、俺は座った。


 すっと、沈黙が流れた。


 えーと、母親は……?


 顔を上げて、小泉珠央さんを改めて見た。


 ちょっとくせっ毛なのか、軽くうねった肩くらいまでの黒髪、パッツンな前髪の下の大きな目が印象的だ。


 体が小さくて目が大きい。チワワみたいだ。


 水色の襟のセーラー服。

 …気付いた。


 セーラー服……

 小学生じゃないわ。


 中学生だ。


 そう思った時、小泉珠央さんが照れながら笑顔で言った。


「同い年なのに、お母さんになるのかな…? えーと、よろしくお願いします!」


 ……………………



 同い年?! 誰が?!


 お母さん?! 誰が?!


 よろしく……

 できね――――――よ。

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