第2話 NOVA

 水曜日の放課後。


 1人下校していると、小走りに人が寄ってくる音がした。


「竜一! イオンの映画館行こーよ!」


 このブレザーの制服を着た女子生徒は、水曜日はレディースデーで自分は安く済むからよく誘ってくる。


 短めのストレートボブの髪、女子にしては身長高めで、165cmある。


 しかも、1年でめっちゃ伸びた!という成長期らしきものもないのに、着々とずーっと伸びてるので、まだ伸びそうだ。


 俺は170cmでほぼ止まってるから、もしかすると抜かれるかもしれない。


 手足が長く真っ平らな体型で、モデル系だと女子からは羨ましがられるそうだ。


「悪い美菜子みなこ。今日親父の再婚相手が来るんだよ」


「再婚!? 竜パパ再婚すんの?!」


 今日イチびっくりしたーって様子で、驚いている。


「どんな人?! てか、私も同席させてよ! いいじゃん、兄妹みたいなもんなんだから!」


「なんでお隣さんが再婚相手と初めて会うって時に同席してんだよ」


「初めてなの?! 私も同席させてよ!」


 話が堂々めぐりである。


「新しいお母さんかー。楽しみだね!」


 お母さん。


 新しいもなにも、ほぼほぼ初体験なんだが。


 お母さんか……

 緊張してきた。


 半ば上の空で美菜子をあしらいつつ歩き、自宅マンション《NOVA》に着いた。


 駅までは徒歩15分くらいと結構離れているけれども、電車で3駅行けばターミナル駅や大型施設がある繁華街が広がる。


 この辺りは住宅地だ。


 古い一軒家も新しめのマンションも混在し、5分も歩けばスーパーやコンビニや百均がある。


 そこそこ都会だとは思うが、NOVAの近くには田んぼがあり、カエルの声が聞こえてきたりすると、この辺も田舎だよなーと思ったりもする。


 NOVAは、聖天坂三丁目に建つ賃貸マンション。


 13階建てで茶色の外壁の地味なマンションながら、玄関ロビーの警備室には24時間警備員さんがいるし、防犯カメラ完備、もちろんオートロックのセキュリティ万全なマンションだ。


 というのも、聖天坂のとなりの地域、天神森には歓楽街がある。


 NOVAには現役キャバ嬢なども多く住んでいるようだ。


 セキュリティと個人情報保護に重点を置いたマンション、それがNOVAなのだ。


 今思えば、母の事件もあって、父はここに住むことを決めたのかもしれない。


 駅から遠いくせに、恐ろしく家賃は高い。


 でもそれでも、NOVAに住みたい人間が住んでいるのがNOVAなのだ。


 そして、賃貸だから万が一の時には引越しも容易い。


 住民のうち単身者が多数なので、4階から13階は全部屋広いワンルームのようだ。


 1階から3階は、2LDKと3LDK。


 俺が住んでいるのは、2LDKの204号室。


「あ! 新しいお母さん何時に来るの? 絶対うちの前通るからさ、ドアの覗き穴から見る!」


 203号室のドアに鍵を差しながら、美菜子さんはうざいことを言っている。


 心の中がなかなかに荒れているのに、こんなウザ絡みに構っていられない。


 204号室のドアの鍵を開け、俺は無言で部屋に入った。

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