聖天坂三丁目NOVA黄金の風

ミケ ユーリ

第1話 父の再婚

 母は、なんの霊力もない人にも、その神々しい黄金のオーラが全身からあふれ出していたのが見えたらしい。


 写真で見た感じでは、細い目に細長い顔で、お世辞にも顔が美しいあまりオーラが見える、という訳ではなさそうだ。


 だが、とにかく光り輝いた人だった。


 18歳で俺を産んだ母が生後半年の俺と砂浜を散歩中、40代女性が包丁を手にベビーカーへ突進。


 ベビーカーの中の俺を守ろうと母が戦ってくれたおかげで、俺は無傷で保護された。


 母は……凶行の犠牲になってしまった。


 女性は逮捕後、赤ちゃんが欲しかったと供述したそうだ。


 母の黄金のオーラは死してもなお輝きを増し、悲しみに暮れる斎場で、その棺すら光り輝き、辺りはまばゆい光に包まれたという。


 それから父と2人で暮らすこと18年。


 俺は、物心ついた頃には、父と2人で海からは遠い、比較的都会で暮らしていた。


 父も祖父母も親戚たちも、母との思い出はたくさん話してくれるのに、母の最期については誰も何も言わなかった。


 俺も聞かなかった。


 高校入学直後、何も聞かず、何も言わず、ふと思い立って高校合格を機に買ってもらったiPhoneで母の名前を検索してみた。


 事件の記事を見つけた。


 母は、「伝説のオーラ」と評されていた。


 なんとなく、尋常じゃないことが起こっていたのは分かっていたけど想定外で、父に未だに検索したことは話していない。


 そんな伝説のオーラを放つ母を射止めた父は、世界共通で美しいとされる完璧な顔パーツがバランス黄金比で並んだ、パーフェクトフェイス。


 もう40歳を過ぎているが、整った顔はキープされている。


 どちらかというと童顔だが、髭を伸ばして整えているので、年相応に見える。


 そんな父が、話があると言う。


 俺、高校3年生のことだ。


竜一りゅういち。父さん、再婚しようと思う……いいか……?」


 父が不安そうに、照れてるように、微妙な顔で聞いてくる。


 大きな悲しみにも負けず、仕事をしながら男手ひとつで育ててくれた父。


 反対する気持ちなんて、湧いてくるわけがない。


「もちろん!」


 俺の顔からも思わず笑顔が溢れた。


 父は、安心したようにはにかむと、一瞬間を置いて、破顔の笑顔になった。


「じゃあ、次の休みに家に来てもらうから、紹介するよ。平日になるけど」


「わかったー」


 父の休みは、基本水曜日だ。

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