第19話 創造神

俺は辺りを見回す。

 ここには俺以外誰もいない筈だ。

 俺は不思議に思って再度辺りを見回すも謎の声の持ち主は見つからず、俺は気のせいかと思い始めた時、


「何処を見ているんだ。上だよ上。上を見たまえ。」


 また同じ声がする。

 俺はその声に従って上を向く。

 すると真っ白な顎髭を1m程であろうか。蓄えた男の顔がそこにはあった。


「うおおおおっっ!!」


 俺は驚きで尻餅をつく。そりゃそうだろう。上を向いたらいきなり顔があるんだから。心臓破裂するかと思ったよ。


「ファッファッファファ〜。やはり人を驚かすというのはいつの時代も面白いのう!」


 さぞ面白そうに彼は高笑いする。俺はその姿を尻餅をついたまままじまじと見つめる。

 髪や髭は完璧と言っていい白髪であるのに30代ほどの壮健な顔つきで、

 顔は1m程の真っ白な髭を蓄えているのだが、不思議なことに男がいくら動こうとも、顎からまっすぐと伸び、折れ曲がることはなく、彼の周囲には重力が働いていないかのようであった。

 服は綺麗でいかにも価値のありそうな布をローブのように体に纏っていながらも質素でありかつ優しい印象を受けた。

 しかしながら、この男から伝わってくる圧力は只者ではないということがはっきりと分かるほどには強かった。


 俺は恐る恐る尋ねる。


「お前は何者だ?俺はあったことがないですし、この場所に俺以外が居るのはおかしいと思うんだけど...。」


「ファッファッッファ!これだから人間は面白い。ファッファッッファッッファ!」


 意味がわからない。俺は尋ねただけで、大笑いされてしまった。何が面白かったんだ?

 そうして数分、彼は高笑いした後で俺に向き直る。


「ああ、すまない。何分数千年ぶりに人という存在と話したものでな。つい楽しくて笑ってしまったのだよ。」


「数千年.....。」


 俺は冗談かと思ったが、それは目の前の彼が醸し出す雰囲気が否定していた。


「我が何者かは先ほど語りかけた時にも言った筈なのだが、忘れてしまったのか?神じゃよ。神。この世界を想像した神。」


「ああ、神様だったんですね....神....神ィ!!!???」


 俺は確かに先ほど語りかけた声は覚えていたが、あまりに突飛なことだったが故に忘れていた。そのため俺は再度驚いて腰を抜かしていた。


「ファッファッッファッッファッッファ!少年よ。お主中々おもしろいやつじゃ。お主に会えてよかった。」


 しかし俺は、不死身と自動回復で抜けた腰を回復すると、そうやって笑う神を名乗る男から距離を取る。


「神ということはお前もゲチスなのか!!!??こんなとこにまで俺を追い込んで殺す気なんだな?」


 その言葉に神はまたも高笑いしながらも答える。


「ファッファッッファッッファッッファ!あんな人間共と同じ扱いを受けるとは。我は神なのに。いや、斬新!斬新!ファッファッッファッッファ!」


 そうして俺はしばらくの間、神の笑いが収まるのを待ち続けた。

 笑いが収まったのを見計らって俺は尋ねる。


「貴方が神だって証拠はあるのか?仮に空を飛べて重力が操れたとして、俺に声をかけて来ただけでは貴方が神様だって証拠にはならないよ。」


「すまんな少年。では神である証拠をお主に少しだけ見せるとしようかの。」


【跪け】


 神を名乗る男が一言発した時俺は体全身から汗を流し、彼の前でかたひざを地面についていた。俺の意思と体が切り離されたように、俺の五感は奪われ、体は全く言うことを聞かなくなっていた。


【頭を垂れよ】


 彼が二言目を発した時、俺は神の前に首を差し出していた。俺は心の奥底から感じていた。

 やばい!こいつはやばすぎる。今まで会ったことのあるゲチス六神将のハーレクインや、フウゲツとはモノが違うじゃないか!

 俺は今まで忘れていた死の恐怖を思い出した。同時に脳は震えていたが、体はこの場に釘付けとなり、指一本動かすことは出来ない。


 そうして神は3言目を発する。


【捌け】


 その瞬間、俺の首の両側には距離にして数百m、幅1m、深さは分からないほどには深い地割れが走っていた。俺は青ざめた。間違いない。これが本物の神だと、心の底から思った。

 そうして俺は神の言葉から解放されたことを知るとその場にへたりこんだ。


「信じて貰えたかの?時間が多くはない故に少々手荒な手段を取らせて貰ったが許せよ。」


「今までの非礼申し訳ありませんでした!」


 俺は不本意ではあったが目の前の男が気分を害すれば自分の身が滅ぶことを本能的に理解してしまったので丁寧に謝罪する。


「良い良い。少年よ。普段の口調で良いのだ。お主がかしこまろうとそうでなかろうと、その気になれば考えておることは全て読めるからの。」


 俺は内心でどう足掻いてもこの男には敵わぬと諦めて、ぶっきらぼうに尋ねる。


「で、どうして俺なんかに会いに来たんだ?俺なんかよりももっと神に会うべき人物がいるだろうに。」


「そういうものでは無い。今回はこの世界が滅びる兆候がおきての。それで我はお主へと接触を図ったのだ。というよりも、お主しか我と会う条件を満たすものがいなかった。」


「条件?そんなものが?」


「ああ。我に会うには精神力が500を超えているものでなければならず、それ以下だとそもそもの存在すら認識できぬのだ。だからお主には精神力が我に会うに値する所まで引き上げさせて貰った。というか、お主しか精神力500を超えることができるものがこの世界には存在しなかったというのもあるな。」


「じゃあ、さっきまで見ていたあれは....。」


「我が少年の記憶からお主の過去を再現させてもらった。本当はこんなにも手荒な真似はしたくなかったし、お主がこの術の中で壊れてしまう可能性も大いにあった。そういった意味では成功してくれて助かったという部分もある。我が少年と会えねば、この世界はなす術なく崩壊していたからな。」


「ふざけるな!!!!」


 俺は反射的に叫んでいた。いくら神と俺が会うためとはいえ記憶を勝手に見た?セリの苦しみをもう一度再現?冗談もほどほどにしとけよ。俺の心にはドス黒い闇が溢れていた。

 しかし神が頭を下げたことで俺は怒りの行き場を失う。


「本当にすまなかった。話だけでも聞いてくれぬか?こうまでしてでも少年には話さねばならぬことがあるのだ。」


 俺は怒りを何とか沈め、頭を巡るセリが必死で助けを求める姿が過ぎるのを何とか打ち払い、神の話を聞くことにするのだった。

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