第17話 昔日との邂逅③
突然騒がしくなったゲチス軍達を見て、俺は何か問題でもあったのかな?と特に危機感もなく考えていた。それからしばらくすると、ゲチス軍人達は滑らかな連携で、住民達を1人1人拘束し始めたのだ。
いきなりのことに俺は、いや俺だけでは無い。周囲の住人達皆がパニックになり、それを見て怖がるセリを守ることで必死だった。そんなわけで俺は抵抗することも出来ず拘束され、セリと引き剥がされるのだった。
セリと引き剥がされた俺は広場に放置された。
勿論拘束されたままだったけど。
その後少しずつゲチス軍人達は拘束した住人に声をかけ、連れてゆき、そうしてしばらく経てば戻って来るのだが、その顔は酷く青く、中には涙で顔がぐちゃぐちゃになっている者もいたほどだ。
俺は一体ゲチス軍の内部で何が起こっているのか、知りたい気持ちはあったが、喋るとゲチス軍人に睨まれる為、情報を集めることも出来なかった。
そうしてしばらくの時が経った。離されてしまったセリのことや、両親のこと、更にはこれからのことや周りの人の様子を見て混乱する情報を整理している時、
遂に俺にも声がかかった。
俺はこれからどんなことが起こるのか、内心不安で仕方がなかったが、ゲチス軍内部へと連行される。
そこでは想像も出来ないようなことが行われていた...
これからそれが行われるのかと思うと俺は体から血の気が引いていくのを感じた。
何が行われていたかって?
脅迫だ。それも人質を取った上でのね。
俺の前ではそれはもうひどいやりとりが行われていた。そこには兄弟と見える顔立ちのよく似た男達が、ゲチス軍側と、首に刃物を当てられた側とに分かれてゲチス軍によって狂気とも取れる脅迫が行われていた。
「やめろ!やめるんだ...俺がお前らゲチスの配下になれば丸く収まるんだろう。頼むから...頼むから弟には手を出さないでくれ。」
ゲチス軍側に居る男は言う。
「おい!兄貴!お前は良いって言うのかよ。それを決めちまったらお前はこれからゲチスに良いように使われちまうんだぞ!くそぅ!何とかできねぇのかよ。」
弟とみられる方はどうしようもないこの現状に怒り、涙を流していた。
「ふふっ良いのですよ?私はどちらでも。兄君が拒んで兄弟揃って殺されるか、それとも!兄君が我らゲチスに下ることで、兄弟どちらもが助かるか!どう転ぼうと我々は困りませんからね。」
ゲチス軍人の中でも異様なオーラを放つ男は嬉々としながらも言う。
見た目は60ほどであろうか。顔には立派な髭を蓄え、周りの軍人達よりも一回りほど小柄(とはいえ170cmほどの身長はある)ではあったが、着ている鎧は周囲の者が着用している鉄製のそれとは違い、明らかに金色の光沢を放っていた。つまり奴がこの軍の総大将であることは明白であった。
「く...わかった。分かったから弟には手を出すんじゃねぇ。俺はあんたらに従うことを誓うから....」
兄もまた涙を流していた。それがこの現状を変えることのできない悔し涙であったことは明白であろう。
「兄貴ィィィィィィィィィ!駄目だ!そっちに行っちゃ駄目だぁああああああああああ!!!!」
弟の方は大声で叫ぶが、取り押さえられ動くことさえも出来ない。
「良いですか?翻意が少しでもあれば一瞬で分かりますからね。本当に我々の配下に加わると誓いますか?」
「誓います。」
「よろしい。では洗脳を始めます。」
こうして、金の鎧を着たゲチス軍の総大将が男の頭に手を置くと、そこを中心に鮮やかな青い光が周囲に走る。だがその光は眩しくはなく、何か底知れぬ寒気を感じさせる青だった。
そうして青の光が止むと、金の鎧を纏った男は笑みを浮かべて尋ねる。
「貴方の所属は?」
「新生都市ゲチスです。」
「兄貴の尽くすべき者の名は?」
「ゲチス陛下であります!」
「では最後に、ここでゲチス陛下への誓いの言葉を。これを以て貴方を新生都市ゲチスの新たな民として歓迎します!」
「我が目はゲチス様の敵を見抜き、我が耳はゲチス様に反するを逃さず、我が四肢を以てこれらを殲滅す。我が体は新生都市ゲチスの更なる栄光と躍動に捧げ、我が命はゲチス様と共にあらん。」
そうして洗脳が終わった男に、総大将は許可を出すと先ほどまで睨み合っていた兵と談笑し、弟には目をくれることもなく、奥へと去ってゆく。俺は信じられない光景に目を疑っていた。
そうして目の前には先ほど広場に帰って来た者が見せていたのと同じ絶望が浮かんでいた。
俺はこれから起こるであろうことを想像し、それと同時に絶望をもしていた。どう転ぼうと最悪の未来しか起こらないのは確定だった。
俺もまた広場に戻って来た人と同じような顔色をしているであろうことは容易に想像できる。
そうして先ほどの兄弟とは少し別の場所に移動させられる。どうやらわざわざ俺にこれから起こる光景を見せつけて、絶望を与えることが目的だったようだ。
更には説明をする手間を省くといった意味でも効果的なことは間違いなかった。目の前で洗脳された男が知るはずのないゲチスの誓いを淀みなく言い切った時点で、俺は洗脳の恐ろしさを知ったのだから。
そうして目の前にいる小さな小さな、それでいて泣き疲れたような顔をした女の子を見て俺の体は反射的に暴れ、絶叫とも言える声で叫んでいた。
「セリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
俺は即座に取り押さえられ、その声は無情にもこの雲一つない夜の春空へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます