第16話 昔日との邂逅②

目が覚めると俺は、直感的な部分で平穏な日々が流れしばらく経つことに気づく。俺は17歳でもうすぐ18歳だ。とはいえここ数日の俺は戦争帰りで気が滅入っていた。


 ちょっと前に大陸都であるガイゼルに巨大な黒雲が飛来したらしい。それから一晩のうちにそこに住んでいた人々は1人残らず消え去ってしまったのだそうだ。

 そこでこの世界を統治していた者達が一斉に消え去り、それからというもの各地で大都市の長が自分達こそがこの世界の統治者であると主張し、世界は混乱した。そうしてその混乱の中で戦争が勃発した。各都市の勢力はほぼ拮抗しており、戦争は長引くかのように思われたが、半年程で一つの都市を除く全ての都市が当然白旗を上げたのである。

 結果として犠牲者は泥沼化するよりは少ない人数で済み、戦争に参加していた俺と父はなんとか生きてこの地へと戻ることができたのだ。


 そうであっても初めて目の当たりにする死や自身がいつ死ぬかも分からぬ状況で生き残るために必死で剣を振り回していた俺は帰ってきた後、緊張から解放されたことで体調を崩してしまっていた。


 ただ、今日は妹セリの入学式だ!妹の晴れ舞台は昔から楽しみにしていたのもあって、今日は早めに目が覚めたのだ。久々と言っていいほど体調は悪くない。


 寝室から出るとセリが駆け寄ってくる。


「お兄ちゃんおっはよー!!」


「ああ、おはよう。」


 セリの元気な挨拶に俺も挨拶を返す。

 そして妹の、新しいお友達ができるかなとか、学校ではこんなことを学びたいとか、色々なお話をする。

 そして食卓には朝食が並んでいた。今日は蒸しパンと野菜スープの様だ。つい先日の戦争のおかげで、働き手が減ったこともあって、現在街では食料が高騰しているのだ。よってここ数日、うちの家庭内で肉料理は出ていないのだ。


 母は俺を見て少し嬉しそうにする。というのも、ここ数日俺はずっと青い顔をしており、学校も休みがちであった。そんな俺を心配していた母は、特に何を言うでもなく俺を見守り続けていたのだ。そんな母から見てもセリと楽しそうに話している様子は嬉しかったのだろう。


「じゃあセリをお願いね。」

「行ってきます。」

「お母さんいってきまーす!」

「いってらっしゃい。お母さん入学式に出席する準備をしてから後で学校に向かうわね。」


 ちなみに父は早朝から仕事に向かっている。

 この街は、主戦場ではなかったとはいえ、各地の兵が農地のある近くの平原で激突し、少しではあったが街の方にも被害があった。それにより土地は荒廃し、

 そこをまた使える農地に戻すため、父は奔走していた。


 父は凄い。俺と同じ同級生、カイトもそうだが、戦争のショックから立ち直り、復興に向けて動いているものや、学校にいつも通り復帰できている者もいる。俺だってこのまま家に篭っているわけにはいかないのは分かってはいるんだけどね...。とはいえ、セリには本当に救われている。妹がいてくれてどれほど助かっただろうか。

 この無邪気で、強引な、底知無しの優しさは戦争から帰って意気消沈していた俺を暖めてくれたのである。


 この世界における学校は各街に配置されており、6〜18歳までの子供が、数術、技能指導、歴史、法を学び、更に、選択科目として各々が将来付きたい職業に応じた単位を選んで履修する。

 ただ、少し変わっている部分として、学校は義務ではないのだ。不思議に思うかもしれないが、この街の学校は完全無償ではあるものの、出席を取ることもなく、留年もない。ただ、6〜18歳の子供と、教職員とその他関係者以外は許可なく立ち入ることは出来ず、ステータスウィンドゥが、入学許可証となっていた。


 今年で学校は卒業することにはなっているが、俺はショックでここ数ヶ月ほど、学校に通えていなかった。

 随分久々ながらも学校の門番にステータスウィンドゥを見せてセリと一緒に門を潜る。


 学校はこの街で最も大きな建物で、なんと5階建てで、教室40、技能指導室20、職員室5、その他にもいくつか特別教室や更には巨大運動場も完備している。

 生徒数は一学年100名足らず。この街の住人は約半数が子供というわけだ。


 そうして俺は妹を妹の教室へと送り届け、俺は入学式の会場となっている1番大きな技能指導室へと移動する。まだ早いのか、人はまばらで、空席が目立っていた。俺は適当に空いている席に座ると入学式の開始を待つ。


 そうしていると入学式が始まる。沢山の子が不安緊張喜び等々、様々な表情を浮かべながら入場していた。そうして見ていると、フリルのついたスカートを嬉しそうに揺らしながらセリも入場する。俺が手を振ると、それに気付いて手を振り返してくれた。可愛い。

 天使のようだね....。おっと危なかった。

 そうして無事入学式を終えた後、俺たちの街にゲチス軍が大軍を率いてやってきた。


 こうして俺たち家族だけでなく、この街に住む全ての人が中央広場へと集められ、ステータスウィンドゥの確認がなされてゆく。普通はステータスウィンドゥは他人に見せることは個人の判断が尊重されるものではあったが、ゲチスは、各地の人間の把握と支援を謳い、人々を従わせたのだ。中にはステータスウィンドゥの開示を渋るものもいたのだが、ゲチス軍の軍勢は1万を超えており、そこを突破するのは困難であった為に、半ば強制的に街に住む人々全てのステータスウィンドゥが開示を終えた後、ゲチス軍1万が一斉に動いたのだ。


「捕えよ。この街の人全てを余すことなく。選別を開始する。」


 ゲチス軍を率いる最高指揮官【洗脳神】ハーレクイン大将は、冷たく、まるで作業のように何の感情も込めずに言うのだった。

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