第15話 昔日との邂逅①
ジンは再生しては斬られ、再生しながら斬られ、再生する前に斬られ。ジンの体は粉々になっていた。
しかしジンは自分の持ち物である袋は事前に投げ飛ばしていた為に無事であるのは確認済みで、フウゲツの攻撃が止むのを、最早痛みに慣れた上で待っていた。
貧血と痛みとそして地面に咲く花々の芳香と。ジンは常識では考えられぬほどの様々な刺激を受け、それを楽しめる精神状態にすらなっていた。
そして時はくる。フウゲツの攻撃が止んだのだ。
「これだけ切り刻んでおけば大丈夫よね。しかし久々に驚いたわ〜全身ズタズタに斬っても再生し続けるんだから。再生速度を上回る速度で斬らなきゃ行けなかったけど、それなりに楽しめたかな〜!でもそろそろ飽きてきたし、もう復活は勘弁ね。捕縛とか面倒だから。」
フウゲツ的にはジンを捕まえて帰るのはごめんだった。何故ならば、ジンを捕らえた場合、自身がジンを拘束護送する必要があるからだ。大佐というエリートの目すら欺ける気配操作と、この異常と言う言葉では表せぬ程の生命力。幾ら殺しても死なないような相手を逃さず護送できる様な人物など、自分を置いて他に居なかった。
しかもジンをゲチスまで連行するとしてその移動手段も問題である。生きているものの転移をする場合、本人と術者双方の同意が無い場合、転移が発動しないのだ。相手が相手なだけに拷問の類も一切意味を為さないである以上、脅迫して同意させるといった手段も取ることが出来ず、最悪の場合自身がこのブルータールからゲチスまで歩いて連れてゆく必要があった。
ブラックミスターズを使うという手も無いことは無いが、これほどの攻撃をして生き延びるのであれば、恐らく厳しいというのがフウゲツの考えであった。
そんなフウゲツをバラバラになった体で俺は見る。これだけ切り刻んでおいて息ひとつ切らしていない...正直大将という奴はここまで強いのか...
大佐クラスなら、俺を倒したときでもかなり疲れていたというのにね...さて、袋は回収出来たようだし、早速使いますか。俺の体はどれだけ細切れにされようと問題なく生きられる様だからな。直接血管に流し込んでも問題無いだろう。寧ろ口から取り込む隙を彼女が与えてくれる筈がないしね。
そうして俺は魔力回復薬を体に浸透させてゆく。
心臓(勿論バラバラだが。)が高鳴るのを感じた。
「ドクン」
ああ、これが魔力を回復する感覚....
「ドドドクン」
ん?鼓動がおかしいような...
「ド、ド、ド、ド、ド、ドク、ド、ドク.....ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド」
「ぐあああああああああああああああ」
周囲に俺のつん裂く様な悲鳴が上がる。
「え、何何何!まだ生きてるの?それにしても今更なんでそんな悲鳴なの?」
そうして周囲を見渡すと、再生した少年の腕と、そこに転がる小さな容器を見つける。
そうしてその容器の中身を察する。
「なるほどねぇ。グレゾンもやる事が酷いわね。これは、ゲチス軍の中でも最高取扱注意薬じゃないの。」
そう。実はこの薬、指定した技能を消す呪いの様な毒物だった。名を【再生ヲ劉ス蛇】という。作製法は既に失われており、ゲチス内にもこれを含め3つしか残されていないものであった。ただ、普通のただの再生能力であれば、この薬を使わずとも再生を上回る速度で攻撃すれば良いわけで、この薬を使用する機会は無かったのだ。そういう意味でも作るものが居なくなり、作製法が失われてしまったのかもしれない。
ジンの持つ技能に再生系もあると読んだグレゾンが、ジンを罠にかけるため、また使い道のなかったこの薬にその様な効果があるのか、試す為に利用したのだ。魔力が足りなくなっているであろうジンが喉から手が出るほど欲しくなるであろう魔力回復薬と思い込ませて....
こうしてその薬を飲んだ(取り込んだ)ジンは周囲が引くほどの絶叫と身体の再生と分解を繰り返し続けたのだった。
そうしてどれほどの時間が過ぎただろうか。
俺は気付くと辺り一面白一色といった空間にいた。
体に痛みの類はなく、先程の体の異常が嘘であるかの様に痛みはなく、体が軽かった。
「ここはどこだ?」
立ち上がって歩き回ってみるも周囲は白一色であり、どれ程の広さがあるのかすらも分からなかった。
ジンは立ち止まり、そして深く考え込む。
どうして俺はここに来たんだ?その答えは幾ら考えても思い出すことは出来なかった。
よく考えてみると自分という存在も思い出せない。
「俺は誰で、何をしようとして、何の為に生きているんだ?ん?生きている?俺は何をいっているんだ?」
この部屋に居ると徐々に自我が薄れてゆく気がする。
「お兄ちゃん!!!ねぇ起きてよ!」
懐かしい声が聞こえる。ん?懐かしい?一体どういうことなんだ?そう思うと、自身を取り巻く永遠の白とも呼べる空間から、俺の視界には石造りの天井が見えていた。
「あー!!!!やっと起きた!遅いよー!今日はセリと遊ぶんだからね!」
俺はこの家のことを思い出す。ああ、ここは俺の家だ。酷く懐かしい気がする。今日は確か日曜だったな。街の学校が休みになったらまだ4つの妹セリと遊ぶ約束をしてたっけ?
「もう少し寝かせて...セリ。後で遊んでやるからさぁ...。」
仕事が休みの日の父親の様なことを言いながら俺は再び眠りにつこうとする。
「あああああああ!お兄ちゃんまた寝た!そんなお兄ちゃんにはお仕置きが必要だね!」
そう言うや否やベットの弾力を、まるでロイター版の様に利用すると、俺の腹に向かって可愛らしくボディプレスをかます。
「グファア....!」
俺は再び襲ってきた眠気が吹き飛ぶかの様な衝撃を全身に受ける。
「分かった....起きるからもう勘弁してくれ....」
そうして俺はまだ先程の痛みの残る腹をさすりながら起き上がる。
「えへへぇ〜。お兄ちゃんやっと起きたあ。」
目の前には満面の笑顔の妹がいる。全く。ボディプレスなんて何処で覚えたんだ。
俺は妹に危ないから今後しない様に注意すると、笑顔でこう言う。
「ならね!ならね!次起きなかったらお兄ちゃんのお鼻とお口を摘んで息を止めるね!」
俺は複雑な顔をしながらも渋々頷くしか無かった。ボディプレスよりはマシだが、気持ちよく寝ている所で無理やり息を止められる....これもまた受け入れ難い起こされ方だったからだ。それが嫌なら自分で起きれば良い話だからだ。
そうして、寝室から出ると、朝ご飯の用意がされていた。笑顔で母と父が出迎えてくれる。
「おはようジン、それにセリもおはよう。」
「おはよう。ジン、セリ」
母と父が言う。
「おっはよ〜ふふふ〜」
「おはようございます。」
セリと俺も続く。
セリは何をしても面白い年頃の様で、朝ご飯のパンの形が絵本に出てくるイモムシさんに似てると喜び(俺は芋虫を連想させられて渋い顔をし)、ベーコンと野菜のスープに浮かぶ油をつついて潰しても分裂させてもくっつく油を面白がってつついては母に注意されると言った賑やかな朝食を済ませる。
そのあと、セリに外へと連れ出され、一緒に街の外の丘で草花を積み花冠を作らされたり、鬼ごっこやかくれんぼをした。お昼になると俺と遊べて嬉しそうなセリと手を繋いで家へと戻り、お昼ご飯を食べる。
そうしてまた日が暮れるまで遊び、セリが眠るのを見届けた俺は横になる前に想いを馳せる。
「今俺は16.....ん?16だったか?いや16だな。間違いない。あと2年すれば俺は学校から卒業して、独り立ちか。2年後の俺何してんのかなあ。セリも学校に入る歳だしな。想像もつかないけど、今まで養ってくれた両親には報いてやらないとなあ。」
そんなことを考えながら俺はベットに横になり、眠りにつくのだった。
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