第8話 ジン、アブカスの前に散る
サルベキアの街に到着した当初はこの街を抜ける方法が思いつかなかった。
1日ほど悩み、敢えて姿を現す案は妙案だと思ったし、これしか無いと思った。
だが、俺如きの為に大佐のような大物が出てくるだと!!??どうしてだ!何故だ!最後の1人だからって張り切って止めを差しにきたとでもいうのか?
しかも俺の気配遮断に気付かれるとは....
初めての人に対する実戦で上手くいったから、
調子に乗りすぎていたのかもしれない。
この辺り、やはり大佐たる所以なのだろう。
俺は後悔した。
もっともっと慎重に動くべきであったと。
そうは言っても戦闘経験の差はどうしようもないからね。
まずはこの場を切り抜ける方法を考えないとね。
縦横無尽に飛び回りいや、跳ねると言った方がこの場合適切か。大剣を振るうアブカスの攻撃を躱し、躱しきれず傷を負い、それでも自動回復と精神力でなんとか凌ぎ、ジリジリと削られながらも俺は打開策を考える。
そうして躱し続けてはいたものの、
一向に良い案は思いつかず、
一方的にダメージを負った俺は、突然足がふらつく。回避行動を取ろうとしていた時に生じた一瞬はアブカスにとってみれば、致命的な一瞬であった。
「貰ったあああああああ。」
アブカスは叫びながら大剣で俺の体を突き刺し、貫通し、吹き飛ばす。
「ぐああああああああああああああああああああ。」
俺は吹き飛びながら、体力が物凄い速度で減っていくことに気づく。
くそっ!奴に勝つ方法は!勝てなくてもいい。奴から逃げる方法は....!
痩せ細った俺の体はいともたやすく吹き飛ばされ、地面を跳ねる。2、3度バウンドしたあたりで止まる。
俺は、死の痛みとはこういうものなのかと思った。
普通ならば即死の致命傷であっても不死身の俺は死ぬことは無い。にも関わらず、痛みは襲ってくるのだ。
理不尽なことだ。技能に痛覚をなんとかする効果もつけて置いてくれよ!と悪態をついてみるも痛みが消える事は無い。
くそっ!体全体が暑くなってきやがった。何か無いか....このままだと捕まってしまう。
朦朧とした意識の中俺は傷だらけで胸は大剣が貫通した体を無理矢理立たせた。
大佐は驚きながら近づいてくる。
「おやおや?まだ立つか。一体どんな技能を持てばその体で、あれだけの私の攻撃を受けて、その傷で立ち上がるというのだ!全く勘弁してほしい。」
実はアブカスの方もかなりギリギリであった。
容姿を見て恐らく、まだ成人はしていないだろうに到達者となった目の前の少年。
自分の肩にも届かない小さな体。
それでも半裸でかのサルマイア山脈を踏破するその技能。
油断して討ち取れるような相手では無いと最初から全力で攻撃し続けていた。
それは実際に正しく、のらりくらりと型も何もない無駄の多い姿勢であってもアブカスの大剣と跳躍による突撃を致命傷を避ける形ではあってもボロボロになってでも避け続けた。
そして、体をふらつかせた一瞬を見逃さず、アブカスは最高の一撃をたたき込んだ。
にも関わらず奴は立ったのだ。
アブカスは目の前の少年に恐怖を抱き始めていた。
(かの少年は確実に摘まねば!)
アブカスは立ち上がった少年に向けて残り全魔力を注いだ一撃を繰り出す。
実はこの世界では魔力の持ち主に限り魔力を用いて独自の技を使う者がいた。
この大陸の常識として、大抵の者の場合、技能を使うだけで魔力に余裕がなくなる為、このような技の開発はしないのだが、大佐ともなれば話が変わってくる。
「いくぞ。少年!覚悟せよ。我が技を受けて立ち上がったその精神力。驚嘆に値する。だがこの一撃を以てその命刈り取ってくれる!!!」
アブカスは体に魔力を漲らせる。
そしてアブカスの大剣が青白く発光する。
するとアブカスの持つ1.5m程あった大剣は、刃が魔力によって拡張され、3mほどにまで伸びる。
そして、ジンへ向かって横薙ぎの一閃を放ったのだ。
「蒼命断空!!!!」
アブカスが放った横薙ぎの一閃は、周囲の空間を巻き込み斬撃は彼から半円を描くように飛ぶ。
アブカスから100m程の空間が揺れ動き避けるかのような一閃。
その刃はやっとの思いで立ち上がったジンの体を無情にも両断したのであった。
ジンは言葉を発する間もなく上半身と下半身を分断される。
「なっ...えっ...?」
ジンが気づいた時、自身の目には地に立つ自分の足のみが見えていた。自分を巡る時間がひどくゆっくりになったような気がする。
そうして今まで生きてきた光景が頭の中で再生される。
両親と楽しく遊んだり話したりした幼き日々、
生まれたばかりの妹を初めて抱いたあの日、
幼なじみのカイトと話した日々。
そして何も出来ず奴らによって蹂躙されてゆく日々...
なるほどこれが死の間際に見える走馬灯か...
ジンはそう思った。そうして自身の体が地に落ちた。
アブカスは内心とても安堵していた。
それもそうだろう。なんせ、これで自身の首は繋がったも同然なのだから。たしかに失態をしてしまった以上、自身の軍の内部での発言力は低下するであろうし、階位も下げられるかもしれない。
だが、死んでさえいなければ、それも些細なことだ。
また実績を積んで返り咲けばいいだけなのだから。
そうしていると少年の体が宙を舞ったのを確認した部下が門からアブカスに駆け寄ってくる。
「お疲れ様です!アブカス大佐!大佐の大技は初めて見ましたがそれほどの敵だったのでしょうか?」
遠くに上半身と下半身が分裂した少年を部下が見て言う。
「ああ、見た目通りにかなり身軽な奴であった。更に気配の技能もレベルが高かったのだろう。向こうが戦闘経験や訓練をしていないが故に気配が消えていてもぼんやりと察知する事は出来たが、それでも技能を使わねば攻撃を当てることさえできなかった。それほどの相手ではあった。」
アブカスは疲れ切っておりながらもしみじみと言う。
「なるほど...サルマイア山脈を頂上を通過して越えていくのは冗談かと思っておりましたが、アブカス大佐程のお方が苦戦する。それほどの相手だったとは....」
部下もその言葉に同意する。
そうして少し言葉を交わした後アブカスは部下に指示を出す。が、ここでアブカスは疲労から致命的な判断ミスを犯す。
「すまんが俺は魔力が空だ。しかも全力で戦ったが故にかなり疲れた。ベットがあれば即座に倒れてしまうだろうというほどにはな...とはいえ、これから報告に向かわねばならん。後の処理は頼めるか?」
「はっ。了解です。あとはお任せください!」
こうしてその部下はジンの遺体を片付ける為の道具と人を手配すべく、アブカスはゲチス中央へと報告する為に街へと戻る。
彼らの頭の中には露ほども無かっただろう。ジンがまだ生きているという可能性など。
他に生物がこの大陸にはいないということも影響していた。多少処理が遅れたところで今この大陸にはジンの遺体を荒らすものや盗む者などいないのだから...
そうしてジンの上半身から下半身へ向けて、糸のようなものが現れ、下半身を引き寄せ始めるのであった。
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