第7話 激突!ジンVSゲチス軍大佐アブカス

あれから1日が経った。

 俺は悩み続けていた。

 恐らく俺の存在はバレている。出なきゃこんな隠れる場所を敢えて取り除くような真似はしない。

 どこへ逃げるにしろまずはこの包囲を突破しなきゃいけない。

 いくら不死身といえども俺の力はF。Fでは捕まってしまえば逃げることは難しいだろう。

 かと言っていい案が思い浮かぶわけでもなく時間だけが過ぎてゆく。

 これ以上は流石に不味い。時間があればあるほどゲチスはこの近辺に仕込みをするだろうからね。


 するとその時俺は一つの考えに思い至る。


「そうか。罠の位置がわからないのなら、敵に教えて貰えばいい。」


 それ以外にはいい案が思い浮かばなかったこともあって、俺はそれを実行する。


 まずはここ6日ほど解除していなかった気配遮断を解除する。


 すると俄かに街が騒めいたのが見えた。

 俺は気配遮断を発動しないままじっとしていると、ゲチス軍が様子見であろうか?街から出てくる。

 俺はそれを観察する。

 俺へと向かってくる足取り、視線、経路、呼吸、会話。その全てをだ。そしてゲチス軍の斥候とも言っていいであろう者達と俺が向き合った時俺は気配遮断を発動する。


 ゲチス軍の斥候達は驚きターゲットを見失って動揺する。どうやら気配遮断は目の前で使用しても認識されないほどの優れものらしい。


 あとはゲチス軍の斥候の通ってきた経路を通りあからさまに避けていた場所を避け、時に兵達の肩を借り街へと入る。

 勿論俺の速度に斥候といえども武装しているゲチス軍は追いつくことは出来なかったため、街の中は急に消えた俺の反応が伝わりきっていないようだった。


 俺は周りを歩く兵の動きを具に観察しながら街の中を右へ左へ時に建物の屋根伝いに山脈とは真反対にある門へと駆け抜けた。そうして門から飛び出した時不意に目の前に1人の筋肉の鎧を着ていると言う表現が1番似合うだろうか...それほどまでに鍛え上げた肢体を持つ男が目の前に立っていることに気付く。


「焦ったよ。この街に着いた途端に君がこの街に入ったと言う報告を受けたものでね。彼には無理をさせたけど、南門の外で待機して正解だった。姿を現しなよ。君がそこにいることは分かっているんだよ。」


 時は数分前に遡る。


 サルマイアからサルベキアへと一瞬で移動したアブカスは転移技能を使った男に軽く礼を告げると急ぎ情報の把捉と指揮系統の引き継ぎに動く。この速さが大佐たる所以なのであろう。そして迅速な行動から、奴に出し抜かれたことを知る。


「やってくれますね...まさか兵達の動きから罠の位置や発動を悟り全て回避して街への侵入を許すとは。彼には私自らが制裁を加えねばなりませんね。」


 自前の愛用の大剣を担ぎ、転移技能を持つ男に再度頼む。


「事は急を要します。転移したばかりで辛いとは思いますが急ぎ私を南門の外へと転移させてください。」


「分かりました。とはいえこれで私は動けなくなります故帰りはよろしくお願いしますね。」


「ああ、それは大丈夫だ。よろしく頼む。」


 そして南門へと一瞬で転移したアブカスは僅かに風が動く音を感じて声をかけるのであった。



 最初はハッタリだと思った。

 そうして筋肉男を迂回して移動しようと思った瞬間、身体が切り落とされるイメージが湧き動きを止める。

 どうやらハッタリでは無いようだね。

 俺は気配遮断を解いた。


 すると筋肉男は驚いたような表情をわざとらしく見せつつも言う。


「ほう?物分かりがよくて何よりだよ。とはいえまさかここまで小さな少年だったなんてね。驚きだよ。こんな小さな少年にこの俺が翻弄されるなんてな。」


 目の前の男からはかなり濃い殺気が滲み出ている。実際にこうして人と戦うのは件のゲチスが大勝した戦争以来だけど、その時だって俺みたいな雑魚は殆ど役に立たずただ剣を振り回して目の前にいる相手と低レベルな戦いをしただけだったのだからこういう本格的な対人戦闘は初めてのことである。


「さて、どうやってお前のようなヒョロヒョロおちびちゃんが無傷で山脈を越えてきたのか。色々気になる事はあるが、それは俺と戦って運良く生き延びれば聞かせて貰おうか!」


 笑顔の狂気と言えるだろうか。筋肉男は大剣を振りかぶり尖った笑みを浮かべながら地面を蹴ったかと思うと地面が30cmほど沈み砲弾の如く俺に向かって突撃する。

 俺は驚く。


「ちぃっ!何だよそれは!!」


 俺は筋肉男のあり得ない速度を持った動きに驚き悪態をつく。そして一瞬の間に気配遮断を使いその一撃を紙一重で躱したかと思ったが、腹には大きな切り傷が付いていた。

 そして気配遮断が解除され俺は地面に膝をつく。


 その時の筋肉男はといえば、俺の後方にある門に空中で宙返りしつつ壁に足で着地しゴリゴリとその勢いで男の足はめり込む。筋肉の鎧を纏った男が今度は大剣を振りかぶるのではなく胸に構え突きのようにして俺へ向かって飛んでくる。

 膝を付いていた俺は回避行動が遅れ肩を切り裂かれる。


「ぐあああああああああああああああ。」


 俺は痛みから悲鳴を上げる。これは吹雪での凍傷とも怒りに身を任せて全身の筋肉が断裂した時の痛みとも違った。準備ができていない痛みとはこれほどまでに違うのか!!!???


「おやおや。この一撃でまだ立っているとは....これは名を名乗る必要がありますね。私は、ゲチス軍ブラックミスターズ統括隊長アブカス・グラドラス大佐だ。」


 アブカスは驚いた表情を見せつつも自己紹介をした。勿論その笑顔は崩さぬままに....


 俺は驚く。

 大佐....大佐だと。

 大佐なんてエリート中のエリートじゃねぇか!

 俺は気づけば絶望の表情を浮かべていた。

 軍とはあまり縁のない街に住んでいたとはいえ大佐がどれほどの地位なのかは知っていたのだ。


「あ、もう一つ。ついでに私のステータスウインドゥもお見せしましょう。」


 どうやらそれに気を良くしたようで、彼は頼んでもいないステータスウインドゥを表示した。


 名前:アブカス・グラドラス lv:62 年齢:42

 身長:193cm 体重:124kg

 称号:大剣の達人

 技能1:刀身拡張

 技能2:脚力強化

 状態:良し


 ステータス(評価)

 力: 150(B)

 魔力:90/100(D)

 耐久力:85(D)

 敏捷力:53(E)

 精神力:170(B)

 体力:200/200(A)

 総合:758(C)


 それを見た時、俺は思わず言葉を発していた。


「到達者....」


「おやおや?その言葉を知っているという事はあなたも到達者ですか。まああの山を超えてくるくらいです。あなたの気配操作以外の技能。見せていただきますよ!」


 アブカスは再び振りかぶりながら、俺へと照準を合わせ、地面に脚をめり込ませ、砲弾の如く超高速で射出するのであった。

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