第3話 故郷との惜別とゲチス軍襲来
あれから8ヶ月の月日が経ったんだ。
悲しみなんて感情はもう失ったかと思ったけど、
2ヶ月前の両親の死、
1ヶ月前のおじさんの死、
そして2週間前のカイトの死....
泣いたよ。それはもう。人目を憚らずでも良かったけど、気配遮断を敢えて使って号泣した。慟哭といっても差し支え無いだろうね。
気配遮断を使って泣いたから、誰も気付いてはいないと思う。多分....
だってこんな世界でも泣くところを見られたくなかったんだよね。変な所でカッコつけたい自分が中々滑稽にも思える。だって仕方ないよね。泣くのを見られるのはカッコ悪いから。
そして今日ついに俺は1人ぼっちになったわけだ。
最後は奴らが来るまでは八百屋だったおじさんだった。とはいえ俺と2人でも八百屋のおじさんは話しかけてくることもなく、広場でぼーっとしていた。
これが普通なのかもしれない。
ここまで多くの人の死を見送って、まだ生きようと思っている俺がおかしいのかもしれない。
自分が特別であると。そう思い込むことにした。
夜が来る。初めての1人ぼっちの夜だ。
俺もかなり気配遮断が上達して来た気がする。
昔は数分で限界だったが、追い込まれると人は成長するというのは本当だったか。
今では動かなければ一晩気配遮断を使うことができる。
奴らについても色々とわかって来たこともある。
実は奴らはどこからともなく現れるものの、移動速度自体は決して速くは無いと言うこと。精々人が歩く程度だ。奴らは命を喰う前は綿菓子のような形でモクモクと宙を浮いているということ。
そして、命あるものに引き寄せられる性質があるということ。
そんなわけで俺はこの廃街を拠点に生き延び続けた。食料は街の中から掻き集め、毎日少しずつ食べて、19歳をを迎えた朝、ついに食料が完全に尽きた。
「去年は祝ってくれる両親がいてカイトがいて。一昨年はここに妹がいた。それが今となっては俺1人。こういう節目を迎えると寂しさも一入だね。」
奴らのせいで使えなくなった暖炉、石畳、石造りの平家。ウチは裕福じゃないから2階なんか無いし、当然お風呂の類もない。部屋は寝室とリビングの2部屋のみ。それでも。貧相でも。この部屋を見ていると色んな思い出がまるで今日起こったかのように思い出される。
「ここで感傷に浸っていると餓死してしまうね...」
俺は後ろ髪を引かれる思いに身を焦がしつつも、
生きるために一か八か乾坤一擲ともいえる命を賭けた移住を決意したんだ。
「目指すは隣街!強盗の類かもしれないし遺品の類を漁るのは気がひけるが、仕方がない。思い立ったが吉日。あとは全て凶日。」
「動かなきゃ餓死するから最早賭けは成立してないんだけど。」
俺は俺の先ほどまでの考えを嘲笑った。
その後俺は19年世話になった家族との思い出が詰まった家に別れを告げ、もう自分の庭と言っても過言では無い小川への森を走り抜け、水を汲み、また街へ戻り隣街への街道を眺める。
「よし。いくか!」
自分の生まれ育った街を一瞥し、
もう一年以上使われていない隣街への荒れた街道をひた走る。睡眠?そんなものは関係ないね!何が起こるか分からないんだから、日のあるうちに移動しなきゃね。
そして当然のこととはいえ、隣街までの道半ばといった所で夜になる。
しかし俺はここでふと気づいたんだ。奴らがいないことに。何故だ?奴らは命に引き寄せられるはず。ならば気配遮断を使っていない俺に近寄ってくる筈だろう?
だが、この地にある植物は皆もやがかかったようになっているので万が一に備えて徹夜で警戒したが、奴らが現れることは無かったんだ。
そして翌朝、俺は寝ずにまた走る。空腹には慣れてしまった。水は出発前に汲んできた分があるから大丈夫だが、食料はもうない。
それでも隣街にいけば何かしら食えるのでは?淡い期待を抱きつつ隣街に着いたのは昼過ぎだった。
俺は食料を探す前に疲れて倒れてしまったんだ。
いくら眠っていないとはいえこの体は優秀だね。
日が沈む前に目が覚めるのだから。
これも生存本能なのかと思うと色々と虚しくなるよね。
さて日が落ちきる前に少しでも街を探索しないとね。
そうして街を見てみれば1時間ほどで、保存食を10日分ほど見つけた。勿論の事だがこの街には人や生き物はいなかった。そして夜...昨夜のように奴らがいない可能性も考えてはいたが、奴らは来た。
何故街道には出ず、街には出るのか....
意味が分からない。人が常にいる場所を住処にでもしているんだろうか?でも命という括りでみれば、むしろ草木の生える街道の方が多い(多かった)と思うのは気のせいかな?
そして1週間後更に不可解な出来事が起こる。
奴らが急にいなくなったのだ。
俺が今まで1年以上隠れ続けてきた触れると死ぬ理不尽な奴ら。
俺は実は奴らに知能があって、俺が油断した隙に現れるのでは無いか?
そう思って連夜、警戒は続けた。
しかし、奴らは現れることはなかった。
「居たら居たで厄介だが、居ないなら居ないでこれほど厄介なものは無いね。」
そう呟きつつ朝を迎え、保存食であるガチガチに押し固めて乾燥させた野菜の塊を食べ、俺は眠りについたんだ。
ダンダンダン、ダンダンダンダンダンダン、
遠くから音が聞こえる。まだ眠り始めて間もないはずなんだけど。
俺は不思議に思いつつも目を覚ましたんだ。
そして異様な光景を目にしたんだ。
時間は昼過ぎ。俺はこんな生活で研ぎ澄まされた五感全てでそれを見た。
ゲチスの旗、行軍する軍、そしてなによりも目を疑ったのは、ゲチス軍に従軍する形で奴らがいたんだ!
「何故奴らは、ゲチスと行動しているんだ!何故奴らは、命を喰らわれていないのにもやと共にいる!」
ダダンダンダダン!ダダダダダン!
俺は少しずつ近づいてきたその群勢の更に不可解なことに気づいたんだ。
「何故、動物が!人が...!」
俺は言葉を失った...。
そこには普通の軍にある人、馬だけでは無い。モヤのかかった人のようなモノ、鹿のようなモノ、ハイエナ、イノシシ、ハゲタカ、ウサギ、トラ、クマ...見たことの無い生物のようなモノもある。
何故だ!何故だ?何故だ!!??
頭の中を稲妻が奔る。
今までの常識が覆され、決して相入れることのなかった生物と奴ら。その二つが正に協力していると言っていい行軍。ゲチスの旗。ゲチス軍....。
そうして数分とも数時間とも言える一瞬が俺の頭の中で巡り、考えが纏まらない。
ダダダダダダダダダ、ドンドンドンドンドンドンドンドン
そうしているうちに奴らは街まで目測数キロほどの距離まで迫っていた。
「あああああ、何故なんだ!奴らと軍が何故共に。とにかくだ。俺が奴らに見つかるのは間違いなく不味い。考えるのは今じゃなくてもいい。今はとにかくゲチスから離れないと!」
俺は気配遮断を使うと全力でゲチスから距離を取る方向へ駆けたんだ。本能がそうしたのかもしれない。
実はこの時ジンの故郷の街はゲチス軍に占拠されていたが、それは彼の知る所ではなかった。
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