11:皆の幸せを探す俺と、俺の幸せを願う君と
世界を救うためにと、さんざ手を尽くした結果、
「未来で邪悪な思想を持つ犯罪者と認定され、正義を謳う過激派が我々警察の逮捕を待たずに、巻・栄の私刑を目論むわけだ」
「幸ちゃんは、どういう状況でも私を庇って死んじゃうの……」
なるほど、未来の俺は変っていなくて、大変誇らしい。
だけど、そこから世界破滅のシナリオが見えてこない。せいぜい、その私刑執行者たちが捕まるくらいではないかと思うのだけど、
「幸ちゃんが死んじゃうとね、すごく悲しいの。それはね、私だけじゃない。岳ちゃんもだし、水奈ちゃん、天ちゃん、安ちゃんも」
こんなありきたりな命を尊んでくれるというのは、とてもありがたい話で、
「それに、これから出会う金星人さんとかイエティさんとか転生者さん、あと悪魔とか妖精とか……半魚人さんとタコの神様も」
おい。未来の俺、おい。
「みんな悲しくって、幸ちゃんに感謝していて」
だから、と悲鳴のように、
「弔い合戦だ、って連合軍が総攻撃しちゃうんだよ!」
未来っておっかねぇな。
操作盤から身を起こした先生が、
「少し補足をすると、虹珠の死によって、それまで君が築いた人脈を基礎に『ハッピーエンド原理主義』を掲げる思想団体が実体化。主要な構成員が私刑執行者の引き渡しを要求するも、政府は法に基づき処罰すると声明を出し、反発した幹部たちが実家に協力を要請したためにエスカレートしていき、ということだ」
人狼と、カッパと、天津神と、アンドロイドの連合軍か……いや、栄の話を聞くに、まだまだイカレたメンバーが控えているようだしな……
けれど、そうであるなら、
「だから、この逮捕は君らの保護も目的なんだよ……寒くないか?」
いや、寒いです。プールに飛び込んでずぶ濡れなところ、動性に流れる夜の秋風に洗われているのだから、体温はだだ下がりしている。
震えを覚えながら、
「あとは、状況が膨らむ前に、ってことでしょう?」
懸念をぶつける。
最終地点が連合軍による侵攻であるなら、その連合軍が小さいうちに、という判断であるのは透けて見える。
「私がいなくなれば、幸ちゃんは時間を修正なんかしなくなるの! 連合軍も大きくならないし、なにより死んじゃわないの! だから、先生は私だけ捕まえればいいの!」
「ここまで事情を話して? それこそ違法だ、ここで見逃せば私が捕まるよ」
「それなら」
俺に、考えがある。
二人の視線が集まるのを確かめ、伝える。
「俺が消えればいい。実行する手が無くなれば、栄には現状の罪状しか適用されないでしょ。先生が目こぼしできる、と言った程度の罪だ」
ハッピーエンドに至るために、アンハッピーを排除しなけれならないのだと。
※
巻・栄がハッピーエンドに辿り着くための障害が自分であるとわかり、
「それなら俺と栄は一緒にはならない。あとは先生に目こぼししてもらえれば、栄は家に帰ることができる」
許しがたい事実に、己に怒りを覚えていた。
「幸ちゃん、何言ってるの!」
「自死など認めんぞ。大人して、教諭としても」
などと、非常識な存在が常識を語るから、
「いや、やるね! 俺はハッピーエンド至上主義だ! その俺の今現状の最ハッピーは、栄と家に帰って、好きだって伝える! そのうえで栄がハッピーエンドに立っていることだ!」
そのためなら、
「手段なんざ、下策も上策もありゃしない! 最短で、最上を目指すぞ!」
だから。
※
「覚悟しろよ未来人めが! 可能性がどれだけ小さな隙間であろうと、ハッピーエンドをねじ込んで笑顔の形にしてやる! 未来からしか観測できない⁉ たわけたこと言うなよ! 不幸という不幸の破れ目全てに、幸福を詰め込んで目張りして、逃げられないようにしてやるからな!」
※
俺の全力の宣言に、
「ダメなの! 幸ちゃん、それじゃあダメなんだよ! 幸ちゃんがハッピーエンドになれないじゃない!」
「ん? おい、巻! 勝手に操作盤を触るな!」
駆け出した幼馴染が、デタラメにスイッチやらレバーやらをいじると、
「これかな?」
俺を挟み込んでいたスライド式ドアが開いていき、
「え?」
自然、体が滑り落ち、
「いつか、私も帰るから、幸ちゃんは幸せになっていて!」
体が、中空に投げ出された。
羽の無い非凡な体は、落ちるに任せるしかなく。
彼女を乗せた船が遠のいていく。
掻くように手を伸ばそうとも、それより速く。
高い夜空を泳ぐ月が、やけに綺麗で、現実味がないままに。
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