第75話 魔王戦⑥
「影丸いるか?」
走る俺の横に並走するように影丸がスッと現れる。こんな時でも横に控えてくれているのは本当に凄いと思う。
「影丸は足止め部隊に行って、まだ戦っているようならすぐに退却するように伝えて」
「~~!」
「え? 俺はどうするのかって? あはは、心配しなくていいよ。これから魔王を倒すつもりだから。それよりも早く! 影丸! 頼む!」
「~~~~」
「あはは、分かった。後で必ずまた会おう!」
影丸は頭を軽く下げると、スッと消えた。
よし、それじゃあぁぁ……っと!
「うおおお! マオォォ!」
俺が走り寄ってくるのが見え、奏さんとオデットさんは驚く。
「雅人君! 駄目よ!」
「マサト! 出てくるな! 死ぬぞ!」
マオは暗い視線で俺をとらえるとニヤリと笑う。
「そこにいたか、マサト! ククク……フハハー!! のこのこ出てくるとはやっぱりお前は大馬鹿だな! 勇者のお前さえ倒せばこの女傑たちも戦う理由はなくなる! お前を殺す方が数万倍簡単なことなんだからな!」
「馬鹿はお前だ! ちょっと強くなったからってのぼせ上りやがって! 以前のお前の方がよっぽど可愛げがあったぜ!」
「ぬかせ! このボンクラ勇者が!」
「そうだ! 俺が勇者だ! ボンクラでもポンコツでも俺が勇者なんだ! つまり、俺がお前を倒さなければ駄目なんだ! その俺が女の子たちに任せて隠れていられるか!」
「だったら死ね!」
マオは奏さんとオデットさんを無視し、強引にこちらに猛進してきた。
来た!
俺はマオがこちらに来たのを見てすぐに逃げ出した。
そして、奏さんに目をやる。
俺と目が合うと奏さんは眉を顰めるがすぐに頷いた。
「マサトォ! 啖呵を切って逃げるとは恥ずかしくないのか!」
「バーカ! 今のお前と正面から戦って勝てるわけねーだろ!」
「クッ! それでも勇者かぁ!」
「魔王をやめようとしたお前に言われたかねーよ!」
マオは激怒し、俺に対して両手をかざした。
明らかに大技を繰り出す気らしい。
「マサト! あぶねー!」
「させないわ! 剣聖技、幻影裂斬!」
奏さんの姿が数人に別れ、マオの右後方から襲い掛かる。
幻なのか分身なのか分からないが、術発動直前のマオに四方八方から凄まじい剣撃が複数の奏さんから繰り出される。
「ぬおぉぉ! こ、こんなものぉ!」
マオの体で剣の当たっていない場所はないのではないか、というぐらいに分身した奏さんから切りつけられている。
そして、奏さんが一人に戻ったと思うと、奏さんが回転しながら剣を横に薙いだ。
マオはたまらずに吹き飛び、大きな屋敷に叩きつけられ、屋敷を自身の体で半壊させてしまった。
す、すげー、奏さん。
「雅人君、大丈夫!? 何で出てきたのよ!? ちょっと遅れていたら死んでいたわ!」
奏さんは俺に駆け寄り、普段とは違う声色で俺に大声を上げた。
オデットさんもこちらに来る。
「馬鹿野郎、マサト! 死ぬ気か!」
オデットさんも俺に怒鳴りつけると、吹き飛び屋敷の瓦礫の下に沈んだマオの方に目を移した。
「カナデ……倒せたのか?」
「いえ、駄目ね。手ごたえが甘かった。無傷ではないでしょうけど、致命傷にはなってないと思うわ」
「マジかよ。さっきのはカナデの奥義の一つだぞ。あの魔王……。マサト! てめーのせいでカナデの貴重な奥の手を使っちまった! どうしてくれんだ、カナデの剣聖技は一日に何度も使えねーんだぞ! ここぞというときに使うものなんだ! てめーのために戦ってるアタシたちを窮地に追い込んでどうすんだ!」
「す、すまん……でも」
「でも、じゃねーんだよ!」
「まあまあ、オデット、今はそれどころじゃないわ。雅人君……あなたさっき私に何か言おうとしていたわよね? 何だったの?」
そう言われ、俺は奏さんに真剣な顔を向けた。
「俺に考えがあるんだ、奏さん、オデットさん」
「考え?」
「ああ、魔王を確実に倒す方法だ」
「「!」」
「でも、そのためには二人の協力が不可欠なんだ。頼む! 既にこれだけ助けられて、どの面を下げて言っているのか、と思うかもしれないが、どうか力を貸してくれ! ここであいつを倒さなきゃ、外で魔王軍の足止めしている連中にも申し訳が立たない!」
俺は膝を曲げて……土下座をした。
必死に頭を下げて、地面に額をつける。
「「……」」
奏さんとオデットさんは互いに目を合わすと、オデットさんが諦めたような顔で嘆息した。
「言ってみろ、マサト。お前の言う魔王を倒す方法を」
「……!?」
俺は顔を上げた。
「勘違いするな。こちらのお人好し元勇者様が、やると言うだろうことは、分かってるから聞いてんだ。正直、私はこんな何の得にもならない戦いはとっとと退散したいんだからな」
「雅人君、時間がないわ。あの魔王はすぐに来るわよ。説明して、雅人君の考えを」
「わ、分かった! ありがとう!」
俺は二人に俺の考えた作戦を伝えた。最初、二人は驚き、真剣な顔をすると、最後には笑い出した。
「おいおい、マサト。それはちょっとした賭けだぞ! お前、そんなことを今、考えたのか?」
「でも、面白いわ。成功すれば確実に倒せる。でも……雅人君も危険なのよ?」
「構わない。いや、元々、この戦いは俺が矢面に立たなければならない戦いなんだ。だから二人には本当に申し訳ないと思ってる。結局、この作戦も他人のふんどしで戦ってるようなものだし」
「……いいわ、乗るわ。雅人君の作戦に」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます