第72話 魔王戦③
「カナデ!」
「分かってるわ!」
マオが紋章のある右の掌をこちらに向ける。
「あれは!? あぶねーぞ! カナデ避けろ! マサトも!」
「うん!」
「え!?」
奏さんがその細い腕からは想像もできない力で俺を片手で抱えるとジャンプした。
数十メートルも飛び跳ねた奏さんの腰あたりに抱えられている俺は驚きで息が止まる。
すると、下方に凄まじい爆音が鳴り響いた。
「あいつ相当強いぞ! さすがは魔王だ!」
オデットさんと俺を抱える奏さんは建物の屋根の上を、右に左に跳びまわり、俺をひときわ大きい屋敷の庭に飛び降りた。
「雅人君はここで待ってて」
「え!? 奏さんとオデットさんは!?」
「お前がいたって、なんの役にも立たねーだろ! アタシたちがあいつを倒すまでここで隠れてろよ、マサト」
そんな……だって、今のあいつは、マオはもう普通じゃない。
それに奏さんたちは関係ないはずなのに。
「いや、もういい! 奏さん、オデットさん、逃げよう! いや、逃げてくれ! こんなことに巻き込んでごめん! 二人がこんな危ないことをする必要なんて」
「……ふふふ、大丈夫よ、雅人君。私はこう見えても強いんだから」
「か、奏さん……いや、そうじゃなくて奏さんたちに何のメリットもないじゃないか! この戦いに勝ったって俺は奏さんに何もしてやれない。それじゃあ俺は女の子をただ危険に巻きこんだだけの大馬鹿野郎だ!」
「そんなことはないわ……雅人君。だって約束したでしょう? 魔王を倒すのを手伝ってあげるって」
「……! でもそれが!」
それが奏さんたちに何のメリットもないんだよ!
「雅人君、心配しないで。じゃあ、雅人君に教えてあげるわ」
「な、何を?」
「私に付与された力、スキルを」
そう言い奏さんは微笑を浮かべている。でもどこか影を感じさせる笑みにも見えた。
「私に付与された力は見事に戦闘向きなものばかりなの。だから、こんなことでしか誰かの役に立てないのよねぇ。まいっちゃうわ、私、これでも、か弱い女の子なのに。それでね、私の能力は……十一個」
「じ、十一個!?」
それって……
拓也兄さんが召喚された場合で確か八個だった……よな。
しかもそれで歴代の勇者の中でも最上位クラスだって……。
「うん、私の能力は【剛腕】【疾風】【剣聖】【武技開眼】【体術網羅】【金剛の体】【獅子の心】【心眼】【状態異常無効】【精霊の祝福】……そして、【時空魔法】よ」
「よ、よく分からないけど、凄そうなものばかり……」
「実際、すごいぞ! 正直、人間離れしたものばかりだ! 言ったろ? カナデはな、この力で最上位クラスの魔王を倒したって」
「オデット、あれはみんなの力を合わせたからよ。私一人では倒せなかったわ」
「……あ、さっきのマオの光線が遅くなったのは?」
「あれが時空魔法。空間に干渉して、そのものの持つ物体の運動をコントロールするの……といっても、そのメカニズムは分かってないんだけどね。まあ、魔法だから、って理解してるわ」
「お、来たな」
「ッ!」
オデットさんがそう言うと、睨んだ方向の今いる屋敷の大きな門が吹き飛び……マオが現れた。
「ここにいたか……もう観念しろ」
「マ、マオ……」
マオはもう俺の知っているマオではなかった。体は巨大化し、顔も変化し、出会ったときのような面影はもうない。そのマオが明確な殺気を放ちつつ、赤く光った瞳のない目でこちらを睥睨(へいげい)している。
「お、おい、あいつ……さっきよりも圧力が増している! まずいな、どんどん覚醒している感じだ! カナデ行くぞ! 時間をかければもっと厄介な相手になりそうだ」
「分かったわ! 雅人君は隠れてて!」
奏さんとオデットさんはそう言うと、俺を残しマオに左右から同時に仕掛けた。
「そうら! 魔王さん、くらいな!」
「行きます!」
「ぬう! また貴様らか!」
マオを中心に三人が激突すると衝撃波が俺のところまで走り抜けていき、俺は立っているのもやっとだった。
俺はどうすることもできず屋敷の広い中庭の中を走り後方にさがると大きな木の後ろから三人の戦闘を伺った。
「こ、こりゃあ、とんでもねーよ……」
俺は思わずそんな言葉を漏らしてしまった。
それだけ、この女性二人の戦いぶりは想像の上の上にいっていた。
オデットさんが大剣を振るうとその刃風が俺の隠れている大木を揺らす。
奏さんに至っては、あまりに動きが早く俺は目で追うのがやっとだった。
ミアやマッツの能力にも驚いたが、それとはまた次元が違うように感じる。
それぞれの行動に無駄がないというか、圧縮された力を互いにぶつけ合っているような戦闘……。俺なんかが横にいたらあっという間に五体をバラバラにされてる。
元の世界でいえば映画のCGをリアルに目の前で見せられているようだった。
魔王として覚醒したはずのマオが二人に翻弄されて、徐々に押し込まれているのが分かる。
「こぉの小娘どもが調子に乗りおってぇぇ!」
「ハッ! なりたての魔王が! 一気に決めてやる! カナデ、アタシに合わせられるか!?」
「いいわ! 好きなタイミングでやって!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます