第71話 魔王戦②
「マ、マオ? いえ、マオさん?」
「これもマサトのおかげだな! これで俺も名実ともに本当の魔王になったぞ!」
マオが右腕を振り上げると衝撃波が俺の横を通りすぎ、背後の壁とその奥にある通りの反対側、数十軒の建物が破壊された。
「……あ、あぶねぇ。何すんだよ死んじまうだろうが!」
「俺は魔王でマサトは勇者なんだから、殺し合うのが当然だ! いくぞ、マサト!」
ヤバい、ヤバいぞ、あれは、本当にヤバい! それに目がいってるよ! マオ。
これじゃ、本当に殺される。
よし、ここは……
「あ! 逃げるな、マサト! 勇者らしく魔王の俺と戦えぇぇ!」
俺はわき目も降らず、マオに背を向けて外に出た。行くあてはないが、とにかくここから逃げなきゃ殺されかねん。
だが、パワーアップしたマオはすぐに後ろから追いかけてくる。
「勇者のくせに逃げるとは、恥ずかしくないのか!」
「ふざけんな! お前だって魔王を嫌がってたじゃねーか!」
「これだけ強かったらオーケーだ! こんなんだったら最初からやめようなんて思わなっかったわ! 諦めて俺の作る魔王の国の礎になれ!」
「グッ……なんて野郎だ、この人でなし!」
「魔王ですから!」
マオが指先から赤い光線を撃ち込んでくる。
間一髪で交わし、通りを右に曲がったが、後ろは火の海になって熱波が背中に襲ってくる。
「待てぇ! マサト、大人しくやられろ!」
「ふざけんな! やってられるか! あ~ばよ~、マッつぁん~」
「逃すかぁ!」
そうは言ったが、正直、俺に余裕は皆無。
やっぱり奏さんたちがいないのに魔王の紋章を返したのがまずかった。
このまま逃げ切れるのか? 俺の能力じゃ対抗のしようがない。
そこにマオが背後から赤く光る右人差し指をこちらに向けているのが視界に入る。
あ……ヤバい……詰んだかも。
俺はリアルに観念した。
こんなんで人生が終わるのか……
何だったんだろうな、俺の人生は。
ここまで育ててくれた人たち、俺に友達として関わった人たち、その誰にも恩返しもしていない。俺がここまでになるのにそれぞれに迷惑をかけただろうに。
それでこんな異世界に連れて来られて、ドジ踏んで、嘘ついて、格好つけて、人に頼って、甘えて、結局は自分のことだけを考えた挙句、死ぬのか。
マオから放たれる赤い光線を、そんなことを考えながら俺は見ていた。
まったく……死ぬ直前にもっと何かを残して死ぬべきだったと思うのは、馬鹿の典型なんだろうな。
俺らしいよ、本当に。俺は軽く笑えてきた。
これは自分に笑ったものだけど、せめて死ぬ時は笑ってる方がマシか……。
超高速のはずの赤い光線がゆっくりこちらに向かっているように見える。
俺は、ああ、最後はこんな風に見えるんだな、と思っていると、
「雅人君! 避けて!」
そこに大きな声が聞こえた。
「え!? あ……奏さん!」
「マサト! カナデが減速させているうちに逃げろ! はああ! お前が魔王か!」
「オデットさん!」
オデットは俺にそう説明すると大剣を振り上げて、マオに突っ込む。
俺はなりふり構わず、横にダイブすると光線は本来のスピードを取り戻し、前方にぬけていった。
減速? 本当に遅くなってたのか!
「ぬ! 何者だ、貴様らぁ! ぬわ!」
マオはオデットさんの剣を受けて、その圧力で後ろに弾き飛ばされた。
「大丈夫!? 雅人君! ごめん、遅くなって!」
「か、奏さん、来てくれたんだ。間一髪、助かったよ、ありがとう!」
「ちょっと、調べたいことがあって影丸さんと会うのが遅くなっちゃって。ああ、紋章を戻しちゃったのね、間に合わなかったわ!」
後ろに影丸がスッと現れて、心なしかホッとしたような目で俺を見ている。
「影丸、ありがとう! でも、調べたいこと? それに遅かったって……」
「おう! そうだ。お前の能力についてだよ」
オデットさんが大剣を肩に担ぎ、こちらに振り返る。
「実は、雅人君の能力ってあまりにユニークだから気になっていたの。それで、召喚を主幹した人物なら何かを分かっているかもしれないと思って。聞きに言ってたのよ」
「それってあの……爺さんに?」
「そうだ! まさか召喚主があの伝説の魔導士ヘルムート・ファイアージンガーとは驚かされたよ、本当に」
え? そんなに驚くような爺さんなの?
「それで聞きに行ったら、入れ違いでこの王都を脱出してて、それを追いかけていったら、この状況を聞いてすぐに戻ってきたの。でも……雅人君の能力の詳細も分かったわ」
「本当に!? この紋章の支配者の!?」
「うん、本当は極秘のはずなんだけど、雅人君との約束の話をしたら、分かったばかりだけどって教えてもらえた。雅人君の能力は考えようによってはすごいのよ。雅人君のその能力は……」
『紋章持ちの紋章を奪え、またその能力と称号も奪える。方法は紋章持ちから奪うか紋章持ちを殺すこと。自分の紋章に重ねれば完全に自分のものとなり、二度と戻せず、奪われた者はその紋章の保持者としての資格を失う。自分の紋章に重ねなければ所有権を奪うのみで、元の相手に返すことも相性が合えば他人に与えることもできる。紋章は重ねることで成長する』
「というものなの……」
「……え? それじゃあ、俺が魔王の紋章を自分の勇者の紋章に重ねていれば」
「それだけで魔王を消滅させられたの。それで急いで帰って来たのだけど……」
マジかよ……。
じゃあ、それが分かっていれば速攻で魔王を退治していたことに……。
「来るぞ! マサト、今はそれを言っても仕方がない! 紋章を戻してしまったからには、もう倒すしかないぞ!」
マオは怒りが増幅したのか、先ほどよりも凶悪なオーラを纏い現れた。
「貴様らぁ、勇者の仲間か! それなら丁度いい……ここでまとめて殺してくれる!」
マオが……居酒屋で初めて会ったマオの面影がもうない。
正直に言うが……今、俺は無意識に震えだしている。
俺は恐怖で……体が硬直してしまっていた。
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