第70話 魔王戦


 その頃、王都では住民の避難の大半が終わり、飲み屋街も閑散としていた。

 その中、一軒だけ非常に騒がしい店がある。


「この野郎、紋章受け取れよ! 元々、お前のだろうが!」


「嫌だ! 俺は魔王なんて真っ平なんだ! これからは自由に生きるんだ! マサトもそう言ってたろうが! そんなものに縛られず自分らしく生きろと!」


 こ、こいつ!

 俺はマオを逃がさないように追い掛け回すが、マオは上手くテーブルとか障害物を使って中々、捕まらない。

 何でこんな逃げ足の速いだけの奴が魔王になったんだよ。

 奏さんたちは、中々来ないし。どこに行ったんだ?


「うわ! あぶね! この野郎……」


 マオが皿を投げてきた。

 俺も茶碗を投げ返す。


「のわ!」


「マオのせいで、俺は勇者なのに魔王にもされてヤバいんだよ!」


「すごいじゃん! 勇者で魔王ってすごいじゃん!」


「すごくねーよ! 自分で自分を倒すって、アホか!」


「いや、うん! かっこいいよ! かっこいいじゃん! まるで、その以前の自分を超えていく感じ?」


「ふざけんなーー!! 実際に自分を倒すなんてことあるか!! どこの勇者だよ!」


「あんたが勇者でしょ」


「あああ! 面倒くせー!! てめー、ぶっ殺す!」


「なんだとこの野郎! 俺だってな、強く生まれてきたかったよ! すんげー強い魔王に! 仕方ねーだろ! そっち強すぎんだよ! 反則なんだよ! お前の仲間の強さありえねーだろ! きたねーぞ!」


「きたねーってなんだ!? あいつらの面倒さも知らないくせに! 俺だってチート欲しかったよ! こんな使えん能力だけで、一般人のまま召喚ってありえねーだろ! 俺のハーレムを返しやがれ!」


「お前の顔じゃ、無理だろうがよ!」


「言ったな! お前、言ったな! 俺でも気づかないようにしてたこと言ったな!」


 俺とマオは近くにある店の備品を投げ合いつつ、ののしり合う。

 そうしつつも奏さんとオデットさんが中々来ないのを心配してきた。

 青影君の話だとスミレちゃんが迎えにいったはずだが、中々、来ないので影丸と青影君にも探しに行ってもらった。

 二人が来ないとマオに紋章を返しても倒せないんだ。しかも魔王軍もここに向かってきている。

頼む、早く来てくれ!



 魔王の紋章のなすりつけ合い……もとい勇者と魔王の戦闘が始まって約一時間経つ。


「ゼーゼー、いい加減、観念して紋章を受け取れ」


「はあはあ、そっちこそ、もう諦めろ。もうマサトが魔王でいいじゃん」


 俺は焦り始めていた。何故ならあまり時間をかければ魔王軍が来ちまう。

 そうなったらそれこそややこしいどころか、事態がどう転ぶか皆目見当もつかない。

 王都には前魔王と現魔王がいて、現魔王は勇者でもあって……それを見た魔王の手下たちはどう思うのか?

 ええい、奏さんたちが来るまで待てん! いや、奏さんたちにも何か用事があってのことかもしれない。元々、これは俺に起きた俺の問題だ。

 俺は再び皿をマオに向かって投げた。


「おっと! もうそんなものは通じないぞ、マサト!」


 かまわず俺は、次々に食器を投げた。

 マオは食器を器用に交わしつつ、顔には余裕がある。

 すると、マオは俺の投げた食器を右手で受け止めた。


「通じないと言っているだろう! フッ、疲れが見えてるな、マサト。食器のスピードが落ちてるぜ」


「……ククク、ハッハハー! それはどうかな? マオ君」


「何? 何だと?」


「お前の掴んだそれを見てみろ、マオ」


「……? うん? ああああー!! これはぁぁぁ!」


「フハハー!! そうだ! 俺はな、この時を狙ってたんだよ……お前が受け止めやすいようにわざとスピードを落としてな!」


 マオが掴んだもの、それは……

 食器に混ぜて投げた魔王の紋章だった。


「ヒャッハー! これでお前が魔王だね! バーカ、バーカ! マオが魔王! イエーイ!!」


 俺が馬鹿にするように飛び跳ねて喜んで見せる。


「ざまあみろ! ようやくあるべき姿に戻してやってぜ! どうだ……頭の出来が違った……な? うん? おい、マオ?」


「……頭にきた」


 マオがよっぽど悔しかったのか下を向き、プルプル震えている。


「分かったよ……俺が魔王でマサトが勇者だってんだな? よーく分かった。……じゃあ、やってやるよ」


「お……? 何だって?」


「やってやる! って言ったんだ! お前ぐらい魔王の力でぶっ殺してやる! アチョー!!」


「うわー!」


 マオが突然、ちょっと潤んだ瞳孔の開いた目で、飛び蹴りを繰り出してきた。何となく警戒していたので横に回避することができた俺だったが、正直、奇跡に近い。

 それぐらい速かった。そして、俺はそこにとんでもないものを見てしまう。

 というのは、マオは飛び蹴りで店内の壁をぶち破り、しかもそれだけではなく隣接する建物群も破壊したのだ。店内にできた穴の向こうは、大げさでなく一帯が廃墟のようになっている。


「ええーーーー!? 何、その破壊力!?」


 俺がその紋章の力を試したときに、そんな破壊力はなかったぞ。何なんだ!?

 すると瓦礫の中から、凄まじい邪悪なオーラを吹き上げたマオが現れる。


「なるほど……俺の魔王の紋章は俺の怒りによって力が数倍に増幅するのか。道理で普段は弱いわけだ。おかしいと思ったんだよ。部下より弱い魔王って何なのかなって……」


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このまでお読みいただきありがとうございます!

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