第69話 開戦②


 今、ミアはまさに縦横無尽にモンスターを粉砕している。


「ああ、知らなかったです! 私の魔法はこう使えば良かったんですね! えい!」


「ごふ!」


 ミアの拳が入った大型のオーガの腹に大きな穴が開く。


「それに足に力を入れると、えい!」


「んぎゃ!」


 ミアを捕まえようとしたホブゴブリンの群れが、ミアの回し蹴りで頭部が吹き飛んだ。

 返り血がミアの全身を深紅に染め上げる。


「あはは! マサトさーん、私、足でも直接、魔力を送れますよー!」


 ミアとともに突っ込んできた力自慢の兵士たちは、怖くて参加できずにミアの後ろでガタガタ震えていたりする。

 この姿をマッツたちは呆然と見つめている。


「ミア殿……なんと凄まじい。ちょっとマサトの助言を受けただけでこれだけの……? ハッ! こうしてはおれん。ミア殿たちが引くタイミングでありったけの攻撃魔法を仕掛けるぞ、準備だ!」


「分かりました!」


 その後、好きなだけ暴れまわったミアが「気持ちよかった~」と言い残し、後ろにさがると、魔王軍は頭に血を登らせミアたちに我先にと肉迫してきた。

 そのため、逃げるミアたちの後ろでは魔王軍が密集し、元々苦手であった隊列も崩しながら魔獣やモンスターがひしめき合う。


「よーし! チャンスだ。皆の者ぉ! 私の合図で魔力が尽きるまで打ち込め。魔力を出し切った者は順次予定通り退却! いいな!」


「はい!」


 マッツの隊の横を全身返り血に染まったミアが満面の笑みで通り抜け、マッツとハイタッチした。そのマッツの背後ではホルストたちが治癒魔法を準備しており、さらにその後ろには離脱用の馬と戦用の組み立て式馬車が用意されていた。


「魔王軍よ! 私の魔法騎士としての初陣に花を添えるがいい! いくぞぉぉ! 皆も続けぇ!」


 右手で剣を抜いたマッツは、左手に魔力を手繰り寄せて迫りくる魔王軍に対し、左の掌打を叩きこむように前に出した。


「サンダー・ブラストォォォォ!!」


 マッツの左手を中心に、周囲を太陽の光よりも強い光量で包む。

 そして、巨大な電撃が魔王軍の先陣の先端に吸い込まれ……モンスターたちは蒸発するように姿を消し、三万の魔王軍の陣容を中央から切り裂くように大きな道を作った。

 その後にマッツは何故か剣を振る。


「よし、魔法剣技の完成だ。見たか魔王軍! ハハハー!」


 マッツの横に並んでいる王家お抱えの生粋の魔導士たちは、このけた外れの破壊力に顎が外れそうになるが、慌てて攻撃魔法を撃ち込んだ。

 この時、マッツのサンダー・ブラストが魔王軍指揮官のヴィネアの戦馬車を直撃しそうになった。


「ぬう!? あれは!? 舐めるなぁ、人間どもぉぉ!」


 ヴィネアは立ち上がり、戦馬車の前面に幾層の防御結界を展開し、マッツのサンダー・ブラストを受け止める。するとサンダー・ブラストはヴィネアの結界の前で霧散した。


「許さん! あの小虫どもを皆殺しにしてやる! おい! 本隊の上位モンスター部隊を前線にだせ! ストーンゴーレム、アンデットリッチ、エルダーガーゴイルもだ!」


 ヴィネアは見下していた人間に初戦とはいえ、一方的に被害を出されたことに激怒した。

 本来は個の力に劣る人間の軍隊などは、一時的に人間得意の連携によってこちらが乱されても、結果的にはこちらの圧勝になるとふんでいた。

 ところが、今、その人間が仕掛けてきた奇襲はほぼ個の力でこちらを粉砕しているではないか。これが余計にヴィネアは許せない。

 そこに部下から報告が入る。


「側面から新たな敵! こちらに大量の矢を撃ち込んできてます! その数は約5千!」


「何だと!? 猪口才な。叩き潰せ!」


 こうして先端は開かれた。

 そして魔王軍が全面的な反撃にでる直前、ロイジンガーは退却の銅鑼を鳴らして、カッセル王国軍は退却する。

 ミアやマッツ、ホルストたちも姿を消し、ロイジンガー将軍たちと合流を目指した。

 すべて事前に決めた作戦通りである。


「マッツさん! 魔王軍がロイジンガー将軍の部隊を追いかけ始めたっぽいです!」


「おお、作戦は成功だな! あとはできるだけ引きずり回すだけだ」


 馬で移動しながら喜ぶミアとマッツにホルストは声をかける。


「お二方、気を引き締めて下さい。これは元々、非常に危険な任務なのです。そして戦況はより厳しいものになります。私たちはこのあと、ロイジンガー将軍が本格的に退却できる時間を作らねばなりませんから。それに……」


 ホルストは夜空に目を向ける。


「今、おそらくマサト殿は魔王と戦っているはず……このカッセル王国の命運を背負いながら……。それに私たちはマサト殿の言うように生き残ることが先決です。マサト殿は今後のカッセル王国を支えろ、と仰っていました」


「……」

「……」


「そうだな……。おそらく今、マサトと魔王の戦いは熾烈を極めているだろう」


「マサトさん……死なないでください」


「ですから、ロイジンガー将軍の言う通り、この任務を終えて王都にマサト殿を迎えに行きましょう。確かにそれぐらいの時間はあるはずです。ですが、そのためにも私たちが力を合わせてこの魔王軍の足止めを完遂させなければ!」


「おう! やるぞ、魔法騎士マッツの全力で!」


「は、はい! 私も新たな魔導士の形、魔拳使いとしてカッセル王国を守ります!」






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