第68話 開戦


「ロイジンガー将軍! 敵が来ました。予測進路のままです!」


 ロイジンガーは頷き、副官たちには緊張が走る。


「そうか、では……先陣が仕掛けるころか。先陣の作戦は勇者殿に任せてある。どのようになるか……」


「報告します! 将軍、先陣が仕掛けました! まずは肉弾戦による奇襲です!」


 矢継ぎ早に先発隊の使者が来てロイジンガーに報告が入る。


「そうか、早いな! よし、全員馬に乗れ! 行くぞ! 化け物どもが混乱しているところに弓兵、強弓兵、弩兵を前にだす。急げ!」


「おお!」


「初撃に肉弾戦とは勇者殿は大胆だな! それではこちらより数の多い魔王軍が群がって来ように! ということはマッツ殿が切り込んだのか?」


「いえ! 将軍、初撃の切り込み隊長はミア殿のようです!」


「……な!? 魔導士のミア殿が!? 魔導士が切り込んだ!?」


「はい! ミア殿が兵士を従えて敵に襲い掛かりました」


 月明りの中、遠方の平原で大きな轟音が鳴り響いた。


「あれは!? なんという威力の魔法か!? 至近であのような魔法を放ったのか、それでは仲間も巻き込むぞ」


「い、いえ! ホルスト様の話では、ミア殿が拳で戦っているようです!」


「は?」


「はい……ホルスト様が言うにはミア殿が肉弾戦で続いてマッツ様が魔法で攻撃と……」


「……。えーい! 訳が分からんが行くぞ! もう戦いは始まっておるのだ!」


「は、はい!」



 魔王軍の後方で指揮をしている魔象に引かせた軍用馬車に乗っているヴィネアは、敵襲の報に驚きはしなかった。


「ふん、いつ仕掛けてくるかと思っていたが、ここでとはな。ここまで王都に近づいて人間どもの音沙汰がないのは、籠城か逃げ出すかを選択したのかと思ったがな。まあいい、脆弱な人間の奇襲などたかが知れている。おい、ア……魔王様はまだ王都にいるのか?」


「分かりません。あれから魔王様の力の波動が出ていませんので……今、ヴィネア様、魔王様をアホと言いそうになってませんでした?」


「むう……こちらの陣容の弱点が出たな。数は多く戦闘向きの魔物は多いが、人間に変化する術などの小技が使える駒がない。変化の術も使え、人間の姿に近い魔族は私だけだ。唯一の指揮官が一人王都にアホを迎えに行くわけにもいかん」


「もう、アホって言っちゃってるよ、この人」


「まあいい。とりあえず死んでいないのは確実だ。それが分ればいい。どうした、早く人間ごときすぐに片付けろ!」


 そこに月明りのみの視界でよくは見えないが、魔王軍の前衛の方から轟音が鳴り響く。


「ぬ! 何だ!? 大規模攻撃魔法か? いや、人間にそんな魔力など……もしや複数の魔導士による合体魔法か!」


「いえ! それにしては閃光が見えません! あのぼんやりとした光は……」


 ヴィネアの言葉に、部下が反応し短距離の通信ができる魔法術式を埋め込んだ魔石に手にし、耳を当てる。


「おい、どうした、どうなってる? 何ぃ!? 我が軍の前衛に左側面から人間どもが突っ込んできた? そんなものすぐに皆殺しに……は? 異常な強さで、オーガどもがまるで歯が立たない? なんだそいつは!? まさか勇者か!」


 ヴィネアはこの通信のやりとりを聞きつつ、目を一瞬大きくするがすぐに元の顔に戻る。


「ヴィネア様、人間どもはまず、広範囲の対アンデット魔法を放ってきた直後に、突っ込んできたとのことです! その突っ込んできた奴はとんでもなく……」


「数で押し切れ。見たところ少数の人間による奇襲のようだ。体力のない人間はすぐに息切れしよう……他の右翼、中央のモンスターで取り囲め」


「は!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る