第67話 開戦前②


「……あ! ああ! そんなことが! それで、オーガは私が触ったら粉々に砕けたんですね! そう言われてみれば、心当たりがあります。修行のために使った大岩も触ると粉々になったり、ドアーフの鍛冶師の方が持ってきた非常に硬い鉱石も私が触れると、ぐにゅって変形したり! すごい、マサトさん! たった一度見ただけで、私の特徴を見抜いたんですか!? 学園でもそんなこと教えてくれませんでした!」


「お……おう。俺はあの時見てすぐにピンときた。勇者の俺にしか分からなかっただろうことだけどな。まあ、つまりだな……ミアは最前線で戦う近接戦闘型の魔法使いだったんだ!」


「……ハッ!」


「それは言うなれば……えーと、そう! 魔法の拳を扱う魔拳使いだ! だからミア。ミアは最前線で戦うんだ。最初は怖いかもしれない……慣れないかもしれない。でも! その膨大な魔力を含んだ拳を敵に叩きつけろ! それでミアはこの王国の大いなる戦力になるんだ。散々、蹴散らしたら体力……じゃなくて魔力の回復のために後ろにさがるんだ、分かったね」


「……はい!」


「次はマッツ!」


「おう」


「お前も言っても無駄そうだから結論から言う」


「お、おう……なんか適当だな」


「お前は魔法を剣技の補助とか言っていたな」


「そうだ。騎士はあくまで剣で敵を……」


「馬鹿野郎!」


「は?」


「お前の魔法はわき役じゃないんだ! 魔法も含めて剣技だ!」


「……!?」


「いいか? 言うぞ。お前は魔法騎士になれ! それは剣技と魔法を同時にこなす、どちらが補助でもない、剣と魔法を融合させた、強力な騎士のあり方だ!」


「なんと! それは……魔法騎士とは」


「というのは、ミアとマッツは魔導士、騎士はこうあるべきだ、と考えすぎている。魔導士は後方からの遠距離攻撃、騎士は剣を振るい前線で戦う。なるほど、そのために修練してきたのだろう。だから二人がそのように考えても仕方がない。でもね……俺は本当にそれだけなのか? と思ってしまうんだ。伝統はある! それはとても重要だ。だが、もっと強いあり方があって、それになれるのにならないのは駄目だと俺は思う」


「……」

「……」


「マッツ! お前は挑戦しろ。新しい騎士の姿を見せろ。騎士が騎士たる所以はその魂にある。より強くなる可能性を示して、このカッセル王国に貢献するんだ! それをこの国の最大の危機に示さなくて、何が騎士か!」


「! ……クッ、マサト」


「いいか? マッツはミアが後ろにさがったら、剣を振るうように魔法を振るえ! お前の撃てる限りの魔法を叩きこめ! それで瀕死のモンスターに剣をちょっと当てればいい。ちょっと敵が多かったら、あとでやればいい。とにかく魔法……そうだ、魔法を放つときに剣を振れ。そうすれば完璧な魔法騎士だ。帰ってきたら婚約者のレオノーラが待ってるぞ!」


「おお……おおお! 分かったぞ、マサト! 俺はやるぞ」


「うん、死ぬまで頑張るんだぞ」


「おお!」


「ホルスト、二人の補助と万が一の時は回復を頼む。特にマッツには入念に丹念に頼む。それと他の男の兵士も怪我した時は好きに回復を頼む。多分、よく鍛えた筋肉を持つ兵士が多い……ぞ?」


「はあ……何故、そのようなことを? ですが……不思議と力が湧いてきますぞ。分かりました、全力で取り組みます!」


「フッ……おいおい、ホルスト、鼻血を拭けよ」




 今、勇者マサトのもとに集められた仲間たち、魔導士のミア、騎士のマッツ、ハイプリーストのホルストは互いの顔を見つめ、大きく頷く。

 そして、自分の定位置に向かった。

 その三人の役割は……


 初撃の肉弾戦を魔導士のミア。

 後方からの魔法攻撃を騎士のマッツ。

 怪我をした仲間の兵士(主に男)の回復に目を血走らせるハイプリースのホルスト。


 そして、この謎の布陣が後に語られ、カッセル王国の歴史に刻まれる最強の布陣となったりする。



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