第65話 念願の再会


「あの勇者殿は……本物だ。本物の勇者よ! ミア殿たちはこの足止め作戦参加後は、すぐに王都の勇者殿のところに向かえ」


「え!? でもロイジンガー将軍、それでは作戦と……」


「それでもし、まだ魔王と戦っているなら苦戦している証拠だ。その時は勇者を連れ出して副都エルネストに連れてくるんだ。あの勇者殿のことだ、そう簡単にはやれはしてはおるまい。もしくは本当に魔王を倒してるやもしれん、助太刀してくるオワーズの勇者たちがいることだしな。だが……苦戦しているようなら有無をも言わさず連れてこい。あの者はここで失ってはならぬ! あやつはこのカッセル王国の勇者なのだからな!」


 ロイジンガー将軍の野太い声が響き渡る。

 ミア、マッツ、ホルストは……徐々に顔を緩ませた。


「はい! ロイジンガー将軍」

「マサト、待ってろ!」

「マサト殿ばかり目立っては、私たちも集まった甲斐がありません。ましてや他国の勇者に手伝われるというのも気になっていました」


 ミアたちとロイジンガー将軍は事前に決めた作戦通りに、王都に向かう魔王軍の待ち伏せ地点に急いだ。


         ◆


「ふう~、なんとか全員を言いくるめたぞ。これで今、俺が魔王だということはバレずに済んだ。マオと出会ったらところにいられたら、すぐにバレるしな」


 俺は本当に必死だった。

 とにかく、説得できて良かったよ……。


「それにしても……俺ってこんなに口が上手かったっけ? それに戦い方までこちらから提案しちゃったよ。でも、不思議と頭に浮かぶんだよな。古代中国史は好きだったけど、そんな知識が役にたつとは思わないし……あんなこと言って大丈夫だったかな?」


 俺は街の中を案内してくれている青影君の後ろに食らいつきながら走り、不安になってしまう。


「いや! 俺にとってもこのチャンスを逃せば大惨事だ。必ず、マオの野郎に紋章を返して倒さねば! そうすれば、すべては解決だ」


 すると、青影君が止まり、路地の影に隠れる。


「お……ここか? 青影君」


 青影君が頷くと影丸がスッと姿を現した。

 そして、物陰からある建物を指し示す。

 その指し示された建物はなんと言うか……大人のにおいがする外観だ。


「うん? あれは……魅惑の極楽湯! まさかマオの野郎……俺に魔王押し付けて、今日も楽しんでやがったのかぁぁ!」


 俺は自分の血圧が上がるのを感じるが何とか息を整える。


「……よし、影丸。奏さんたちを呼んできてくれ。それと住民の避難を開始するようマスローさんに連絡! え? 奏さんたちには既にスミレちゃんが迎えに行った? マスローさんには合図を送ればすぐに動いてくれる手はずになっていると、グッジョブ! 影丸」


 影丸はどこにしまっていたのか、弓矢を取り出した。

 そしてそのまま夜空に向かい矢を放つと、その矢は上空で音は立てずに花火のように光輝く。


「これで大丈夫? よし、じゃあ、影丸と青影君はこの付近の人たちを誘導して避難させてくれ。ここは俺が見張っておく」


「~~~~」


「うん? ああ、分かっているよ。絶対、魔王を倒すよ、主に俺のために!」


 影丸と青影君は、まるで健闘を祈る、というように親指を立ててスッと消えた。


「……ありがとう! 影丸」


 俺はこの優秀な影の里の人材に心から感謝した。

 いや、実際、今回のMVPは影丸かもしれないよな、本当に。

 あとは……マオをとっ捕まえるぞ。

 俺は息をひそめて魅惑の極楽湯を見張る。

 そして……しばらくすると、見覚えのある顔が……色気たっぷりの女性と共にドアの外に出てきた。


「……あ!!」


 間違えない!

 あれは……マオだ!

 マオはこの上なく緩んだ顔でその女性と言葉を交わしている。


「あああ、あの野郎……。なんだ、その何かをやり遂げたような顔はぁぁぁ!」


 お前のせいで……俺はこの上なく危ない橋を渡ってるのに!

しかも、国全体を巻き込んで……色んなことを言ってしまったんだぞ。

あれがバレたら……俺は……俺は!

マオは一通り話を終えたのか、話している女性と別れて歩き出した。


「あ! やばい」


 俺は慌てて飛び出して、マオの後をつけていく。

 この方向は歓楽街を抜けて、飲み屋街に向かう道だ。

 あの野郎……今度は一杯、ひっかける気か。なんという脇の甘い奴。こんな奴に俺は騙されたのか……。なんか恥ずかしくなってきたぞ。

 マオのあとをついて行くと徐々に周囲の住民たちが慌ただしく移動を開始しているのが分かる。どうやら、影丸たちの誘導が始まっているのだろう。

 マオも気づいたのか小首を傾げながらも、機嫌は良さそうに歩いていく。

 そして、ある飲み屋の店の前でマオは突然、止まった。俺は驚きすぐに身を隠す。


「……王都最後の夜はやはりこの店だな。マサトに会わないように気をつけないといけないが……ここの料理を食べてからでないとな。俺も心残りを作りたくない」


 マオはフッと格好をつけるように独り言をこぼし、店の中に入っていった。

 俺は全身でイラっとして、グッと拳を握る。


「何を格好つけてやがるんだ! あの野郎は……ただの飲んだくれのくせにぃぃ! しかも、いい度胸だ。人に紋章を擦り付けた店にノコノコと顔をだすとはな。場合によっては探さなくても俺と会ってたんじゃないか!? ああん?」



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