第62話 出陣④


 俺は会議に参加するカッセル王国の中枢にいる人物一同を見つめる。


「ちょっと聞いてもいいか」


「ああ。……えーと、ロイジンガー将軍、何でも聞いてくれ」


「お前……いや、勇者殿は何故、そこまでしてくれたのだ。勇者殿にとってそこまで熱心に魔王討伐のための行動をとったのか……」


「……そうだな。確かに俺はとにかく元の世界に帰りたいと考えている。それには嘘をつけない。そして、そのためには魔王を倒さなくてはならないことが大きい……」


「そこだ。勇者殿は帰りたいだろう。当り前のことだ。故郷に帰りたい気持ちは誰でも同じもの。だが……そうはいっても死んでしまっては意味がない。であれば、勇者なる者が本当に魔王と命をかけてまで戦うことなど……。私のようにこの国に仕える軍人であるならばいざ知らず……ましてや、縁もゆかりもない、知らない国の勇者ともてはやされたとて、真剣に魔王と戦うことなどあり得んと思っていた。だからわしは勇者などに頼らず……我々だけで……」


「ロイジンガー将軍。そこはちょっとだけ違う。いや、言っていることはすべて正しい、でも、俺にとってはちょっと違うんだ」


「それは……何だ?」


「俺にはこの国と縁もゆかりもできたってことだよ。たとえそれがどんなに小さいものであっても……」


「……」


「もちろん、この国に生まれ、この国の禄をはむあなたに比べればそれは小さなものだろう。でもね……それでも、俺がこの国で出会った僅かな人たちが魔王なんて訳の分からない奴に理不尽に苦しみ、ましてや家族や自分自身の命まで散らすところは見たくはないんだ!」


「……!」


「だから、俺は自分の付与された能力が分からないことに苦悩した。だけど、魔王は待ってはくれない。じゃあ、どうすれば、俺はこの国の……いや、出会った人たちを救えるのかを考えていた……一人でね」


 しかし、自分のこの演説には呆れるな。

 本当にどうしてこんなに口がまわるんだろう?

 みんな黙って俺に顔を向けている。

 あ、俺の横で……ミアもマッツも感動で涙ぐんでるよ。

 ホルストまで体を震わせているし。君たちはちょっとちょろすぎるよ?

 そんなんじゃ、厳しい世の中を渡っていけないから。


「そ、それで……勇者殿は連日、街に行っていたのか……。わしはてっきり、やけ酒かと……わしの目は節穴であったか……」


「そんなことはない、ロイジンガー将軍。将軍じゃなくてもそう思われても仕方のないことだから」


 実際、大体あってる。


「ただ、俺は俺なりにこの現状を変えるには……魔王を倒すには、と、考えをまとめたかったんだ。ただ、そこで俺はオワーズの勇者に出会うという奇跡を得ることができた」


「……」


「そして重要なことは今、魔王は魔王軍と合流していないんだ。魔王は別のところに一人でいる」


「……! 本当ですか!?」


 さすがのカルメンさんも声を上げる。

 カルメンさんが驚く顔は珍しいんじゃないかな?


「本当だよ。それが何故、分かったかは説明が難しいけど、それは俺が勇者だからとしか言えない。どうやら、俺には魔王が近づくと感じる能力があるらしいんだ。これがどの勇者にもある能力なのかは分からない」


「で、では、どこに?」


 あ、そうなるよね。

 居場所が気になるわな。

 言いたくはないけど仕方ない。


「この王都内……」


 重鎮たちが驚きのあまりに目を剥く。


「何ですと!?」

「馬鹿な! いつの間に!?」

「そんなことが! こうしてはおられんぞ! 魔王に内側から暴れられたら兵も国民も混乱をきたす! 戦いどころではない!」

「まさか、魔王軍の動きはこれに連動しているのですか」


「落ち着いてくれ、みんな。だから、俺が行く」


 俺は立ち上がって全員を見下ろす。


「みんなの言う通り、今、魔王が内側から暴れればこの王都はあえなく陥落するだろう。だけど、もしそうするとしたら、そのタイミングは魔王軍がここに到着したタイミングになるはずだ」


「た、確かにそうだが……。だが、であればこそ、今のうちにその居場所の分かった魔王を倒さなくてはならんぞ!」


 あ、やばい。みんな来たらまずい。


「そ、その通りだよ。ロイジンガー将軍。だから言ってるだろう? 勇者である俺が行くと……」


「何故だ!? 勇者殿! 何故、一人で行こうとする!」


「一人じゃないよ。でもまあ、理由は……ある。一つは王都にいる国民のためだ」


「な! 何を言っておる! それは我らとて同じこと!」


「ロイジンガー将軍……さっき、あなたは王都を見捨ててでも、カッセル王国全軍を集結し、魔王を倒すことを想定していたろう?」


「!」


「いや、それが間違いと言ってるんじゃない。ましてや責めているわけではないんだ。魔王はそれだけの存在なんだから……。国全体を見ているロイジンガー将軍にとって、苦渋の決断でもあったと思う」


「……」


「だから、俺が行くんだよ。俺が魔王と対峙したところで、国民を退避させつつ、魔王軍の足止めをするんだ。魔王軍の足止めは全軍でなくていい。ただの足止めだけに終始する。それで主力は国民たちと共に王都を脱出させろ」


「……! 勇者殿は……何故……そこまで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る