第61話 出陣③


「ほとんどの記録では、魔王を失うとモンスターたちは途端に統制を失って散り散りに四散して逃げ出すと言われていますが……」


 そうか……それは可能性が出てきた。できるかどうか分からないがやるしかないな。

 そこに突然、俺の後ろにスッと青影君が現れた。


「何者だ!? 影の里の者か?」


「おお、その者は、影丸の息子では?」


 青影君は俺の耳元に口を寄せる。

 俺は青影君の報告に耳を傾けた。


 ……!


 俺は青影君の頭をほめるように撫でると、青影君は嬉しそうな顔をして消える。

 俺は前を向き、円卓に座る全員の顔を見渡した。


「マスローさん、これから勇者としての意見を言わせてももらう」


「……それは」


「俺は、これから魔王を倒しに行く。ここにいる皆さんは、市民をすぐに避難させつつ、王都を守って欲しい」


「なんと!」


「馬鹿なことを! そんなことを信じろとでも言うか!」


「ああ、信じてもらうしかない。ただ、これから言うことは事実だ。魔王の居場所が分かった。そして、その魔王を倒せるのは俺だけだ!」


「「「!」」」


 だって、今は俺が魔王で、マオにもう一回、魔王になってもらって倒さなくてはならない。

 それが出来るのは、当然、すべての当事者である俺だけなんだからね、言えないけど。


「し、しかし……どうやって魔王の場所が……いえ、分かったとして、どうやって倒すのですか!? マサト殿の能力については何も分からない状況ですぞ。しかも、戦闘向きなのかもわかっておらんのです」


 ……む。

 まあ、マスローさんのは当然の反応だよな。

 さすがに勢いだけでは納得はしてもらえないか……。

 でも、納得してもらうしかない。

 ここは正念場、俺は手段は選ばないぞ。


「マスローさん、どうやらマスローさんや俺たちは勇者について知らないことがあるようだ。まずだけど、勇者にも紋章があることを知っているか?」


「え?」


 マスローさんは驚き、リンデマンさんに顔を向けるがリンデマンさんは首を振った。

 やっぱり知らなかったようだ。

 まだカッセル王国は勇者召喚の実績がない国だから、この辺の知識に関しては他国の情報を元にしているので、抜け漏れが多いんだろう。

 俺も奏さんに聞いて分かったことだからね。


「これが俺の勇者の紋章だよ」


 俺は右腕の袖をたくし上げて自分の勇者の紋章を全員に見せた。


「おお……」


 会議の参加メンバーたちは知らない知識を披露されて、俺に注目をする。


「そして、勇者の紋章にも魔王の紋章と同じく、その文様である程度の付与された能力が推定できるんだ。それで俺のものは特殊で今までにないものらしい。ということは、俺に付与された能力は今までにない特殊な能力の可能性が高い。それでさっきの付与された能力名『紋章の支配者』なる未知の能力が出てくるのは頷ける」


 皆は俺の話に引き込まれ始めている。

 チャンスだ。

 ここからが大博打。


「何故、このことを俺が知っているか? もちろん、そう疑問に思うだろう。実はこの知識は、つい一年前に魔王を打ち倒したオワーズの勇者から直接聞いた話だ」


「なんと! 何故、マサト殿がオワーズの勇者に? いや、何故、オワーズの勇者がいるのです!? 魔王を倒したのなら、その勇者は元の世界に帰還するのではないのですか?」


「歴史上、実は帰還しなかった勇者もいるんだよ。オワーズの勇者は……色々と理由があって帰還をしなかった。そして……勇者同士は惹きあう特性を持っているんだ。これは理由は定かではないが、何かそういう大きな運命の流れがあるんだと聞いた」


「……」


 この辺から嘘が混じっているけどな。


「そして、オワーズの勇者から俺は勇者の紋章をはじめとした色々な勇者の知識を得ることができた。更には、俺はオワーズの勇者と手を組み協力してこのカッセルに生まれた魔王に立ち向かうことを固く約束した。二年前にオワーズに現れた魔王は歴代の魔王でも最強クラスだったことは知っているか?」


 参加者がザワザワしだす。

 ミアたちも真剣に俺の話を横から聞いていた。


「信じられなければ、調べればいい。ただ、今はそんな時間はないのも分かっている。だから、信じるか信じないかはここにいる人間次第だ。よく考えてくれ、その歴代最強クラスの魔王を倒した勇者、つまり、歴代でも最強クラスの勇者が俺の仲間になっているということだ。それと、そのオワーズの勇者の仲間であった……“獅子奮迅”の二つ名を持つオデット・カーバノイレーゼも俺に協力を申し出ていることを補足するよ」


「……!」

「それは本当ですか!? マサト殿」

「まさか! あの女冒険者が!? 魔王が現れたオワーズは混乱していて、我が国との人の往来は減っていましたが……あの獅子奮迅がこの王都にいると」


「ああ、そうだ。これを疑うのなら、何故、この世界に呼ばれたばかりの俺が、ここにいる人間の知らない勇者の紋章についての知識を知っているのかを考えてくれ。また、オワーズにおいてもこれを知るものは勇者本人と勇者召喚にかかわった僅かな人間だけだろうことは分かるだろ? そして、俺はそのオワーズの勇者の紋章も確認している! 俺と文様は違うが、勇者の証である中央部の文様はまったく同じだった」


「……」


「で、状況を整理する。今のこの状況は俺たちにとって、不利なのかチャンスなのか?」

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