第58話 マッツの情報②


「…………え?」


 俺も他の二人もマッツの情報に驚く。


「お、おい、どこで?」


「マッツさん、どこです!?」


「マッツ殿……」


「そ、それが……えー、あー、その……ジャクリーンという女性の働くお店のところなんだが……」


「……あ!」


 俺は大きく目を広げて、気まずそうな顔をしているマッツ見つめた。


 そうか!

 そう言えば、お姉さんが言ってたマオを知っている女性の名前って確か、ジャクリーンだった。

 それでその女性の働くお店は……マッツが落とした名刺に書いてあった『魅惑の極楽湯』……つまり、二人は顔を合わせるほどの常連と。


「マッツ、お前、お風呂仲間か……魔王と」


「「……?」」


 ミアとホルストは俺の言っている意味がよく分からない感じで首を斜めに、大量の汗を流しているマッツを見つめている。

 まあ、良かったな、マッツ。


「そ、そういうわけでは! し、しかも、その人物が魔王などとは思っても……いや! そんなこととより! あの似顔絵を渡された時、どこかで見覚えがあると思い、聞き込みに行ったんだ。見たことがあったと思う場所に……」


「風呂屋な……」


「! そ、そこでジャクリーンという女性に聞いてみたんだが……」


 マッツはアタフタしながらも、話を続ける。


「き、昨日の夜にも姿を現したと言っていた」


「それは本当!? マッツ」


 昨日の夜!? じゃあ、まだこの王都にいる可能性がある!

 これはすごい情報だぞ、マッツ。


「あ、ああ……」


「それで!? 居場所は聞いたか!? 借りている家の場所を」


「……聞いた」


「どこだ!? というか、何でそれを早く言わなかったんだよ!」


「いや! その前に魔王軍がこちらに向かっているという話が入ったから、そちらの方がよほど重要なことだと思って! それに探しているのは敵の間者だと聞いていたから、後は他の者に任せればよいと思たんだ!」


 むう……。

 でも、本当だろうな?

 自分が風俗店に通っているのをみんなに知られたくなかっただけじゃないだろうな?


「おい! 本当だぞ、マサト!」


「……分かった、分かった。で、どこなんだ? 魔王の家は」


「どうやら飲み屋街の東にある旧市街の一軒家を借りているらしい。住所も聞いた。確か……ここだ!」


 マッツが地図に指を置いた。

 俺はすぐに立ち上がった。


「マサトさん! どうするんですか!?」


「今から行ってくる! みんなは王宮に行っててくれ」


「そ、そんな、一人で行くなんて危険ですよ! しかも何の準備もなしに……だったら私も行きます! 私も魔王を倒すために魔法学園から選ばれたんですから!」


「私も行きます。マサト殿だけ行かせる訳には参りません。相手は魔王です、ここは力を合わせて当たるか、もっと準備を整えるべきです」


「マサト! 私も行くぞ!」


「え!? だ、駄目だ!」


「何故ですか!?」


 ミアが乗り出すように真剣な顔で言い返してくる。


「う……」


 いや、来られると困るんだよ。俺が今、魔王だとバレから。

 でも、早く行かないと……昨日の夜にいたとしても、今、いるか分からないんだ。


「とにかく、まだそこにいるか確認しておきたいんだよ。昨日いたとしても、もういないかもしれないし、いたとしても今日中に出て行ってしまうかもしれない。だから悠長にしてはいられない」


「それでも危険です!」


 ぐう、駄目だ。

今のミアは決して引かないだろうと分かった。いつもの柔和な感じはなく、真剣でいてすごい気迫を感じる。


「でも、急がないと……魔王が」


「いや、マサト、まだ魔王はいると思うぞ」


 そこにマッツが間に入ってきた。


「……え? 何でそんなことが言えるんだ、マッツ」


「実は聞いたんだが……その魔王は明日もお店に来ると言っていたらしい」


「……は? お店って……えーー!? それってジャクリーンさんの?」


「う、うむ」


 ちょっと、ぎこちなく頷くマッツ。


「どうやら、マサトの懸念はある程度当たっているのかもしれないが、暫くこの王都を離れるとは言っていたらしい。だがすぐにではなくて数日以内に、と言っていた。色々と引っ越しの準備をすると。それでそれまでは気に入った店を堪能しきって行く、と上機嫌で……」


「……」


 あいつ……絶対見つけて、ぶっ倒してやる!

 人に魔王を押し付けて、解放されたようになってやがるんだな。

 しかも……ゆったりと構えやがって……まあ、そのおかげで見つけ出すことができそうなんだけどな。

 よし、後悔させてやるぞ。

 でも……そうは言っても気が変わって逃げ出されても困る。

 あ……よし。


「分かった。影丸、頼みがある。影丸は魔王がまだいるか確認して、いるなら見張っていて欲しい。それで、俺に連絡をよこしてほしいんだけど……あ、魔王に張り付いたら連絡できないか。どうしたら……え? 大丈夫?」


 影丸は口に親指と人差し指を咥えると、ピューイ! と高音の口笛を鳴らす。

 すると、影丸の後ろに小さな影丸のような二つの人影がスッと現れた。

 でもその身につけている装束は、一人は暗めのピンクに近い色ともう一人は青色をしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る