第56話 急変③


 俺はここに至った経緯を説明した。

 もちろん、少しづつだが、分かってきた俺の紋章に関する能力の事とか、今、実は俺が魔王とかはすべて隠してる。

 言ったら、俺がどうにかされるかもしれないからな。

 つまり、結果的に魔王を倒そうとしていること以外は、ほぼファンタジーといっていい。

 結果、説明内容はこうなった。


 どういう理由かは分からないが、この王都に魔王が出入りしていたことを偶然突き止めたことが発端だ。

 何故分かったか? それは俺が勇者だからだ。

 それで俺はこの危険な状況を俺一人で何とかしようとしたんだ。

 敵の大軍がこちらに向かっている、今現在の状況から言えば、みんなに伝えずに勝手に一人で動いたのは悪いと思っている。

 でも理由があったんだ。

 それは第一に街の人間の混乱を避けるため。

 魔王が街にいたと知ったら市民は驚き、かつ王国の守備は大丈夫なのか? と疑念を抱いてしまうだろう? それは魔王と決戦を覚悟しているカッセル王国としては、足元が揺らぐことを意味する。それは避けたかった。

 今から大勢の市民が王都から逃げ出し始めれば、決戦どころではなくなるからな。


 第二にまた、魔王は一人で忍び込んでいたことから、うまくやれば俺一人で魔王を調べることができると考えた。魔王を感じとれるのは勇者である俺だけなんだから。

 その魔王を完全に突き止めた時に、作戦を練ってみんなに応援を頼む気でいたんだ。

 これを先にみんなに伝えれば、ことが大きくなり、結果、魔王がこちらの動きを感知して逃げるか暴発して被害が一般市民に及ぶことを危惧しての判断だった。

 だから、魔王の配下の間者だと嘘をついたんだ。

 みんなを信頼はしているけど、もし、探しているのが魔王だと先に伝えれば、マスローさんやそれ以外の人に報告がされると思った。

 いや、悪いことじゃない、それは当然だろう。みんなは俺と違って組織に属する人間なんだからな。


 それと最後に、俺は魔王のその余裕ともとれる行動から魔王軍はこちらの想定以上に軍備が整っている可能性があると感じた。そう考えれば、まだ準備途中のこちらは不利だ。

 それで今まで以上に準備を急がせて完了させる必要がある。

 でもそのためには今、余計な事を考えさせずに準備に集中させた方が良い。

 事実、準備を急ぐようにと今日伝えている。この事実は隠しながらね。


 つまり、俺の考えていたことは、下手に大人数でちょっかいをかけて、魔王の軍隊の動きを誘発させて、王国自体を浮足立たせるよりも、この事実を隠したまま少人数で……できれば俺だけで隠密裏に魔王を把握し、その上で魔王に仕掛けるというものだったんだ。

 まあ……本当はそれさえも俺だけで何とかしたいと思ってたけどな。

 え? それはだって……仲間の、ここにいるみんなの犠牲の可能性を考えてしまったから……だよ。


「だけど、俺が考えるよりも早く魔王軍が動いてしまった。それでもう隠している意味もなくなってしまった。すまない……俺がもっとしっかりしていれば……」


「マサトさん……」


「マサト……お前はそんなことまで考えて」


「……マサト殿」


 ミア、マッツ、そしてホルストの三人は神妙な顔で俺を見つめている。

 しかもミアはちょっと目を潤ませ、マッツは拳を握りしめて震えている。ホルストは目をつむり、腕を組み無言でいた。


 あ……これはヤバい。


 ファンタジーが過ぎた、格好をつけ過ぎた。

 でもちょっと、君たちは純粋すぎないか?

 こんな穴だらけの説明に感動しすぎじゃ……。


「マサトさんは馬鹿です! 考えすぎです! 私たちは、私たちだって魔王を倒すために集められたんです。自分の命が危険なことは既に覚悟もしてきました。もっと、私たちを頼ってください」


「そうだ! マサトは何でも独りで抱え込もうとするな! 私は王国の騎士だが、勇者の……マサトの騎士でもあるんだぞ! もっと私に背中を預けろ! 私だって魔王を倒すためならこの命を投げ出す覚悟もできている!」


「マサト殿がそんなことを思い悩んでいたとは……。しかも、王国にも私たちにも配慮して……自分だけで魔王に立ち向かいながら」


 も、盛り上がっている。しかも、すごい怒ってるよ!

 どう返せば……!? えーと、えーと!


「そうだったな。ごめん、みんな。でも、これだけは分かってくれ、ミア、マッツ、ホルスト。俺はみんなには魔王を倒すことばかり考えて、視野を狭くしてほしくないんだ。いいか? 俺たちは魔王と相打ちになるために戦うんじゃない。この時のための命ではないんだ! だから、みんなにはその先のことも考えてほしい」


「先のこと……ですか? マサトさん」


「そうだ。その先っていうのは魔王を倒した後のことだよ。まだ分からないが、魔王軍と戦えば、この国も疲弊するかもしれないだろ。でもな、そんな時でも誰かがこの国を支えていかなければならない。それは勇者の仲間に選ばれた……ここにいる三人がしなくてはならない大事な……とても大事な仕事だと思うんだよ」


「「「……」」」


「俺は魔王を倒せば、元の世界に帰る。それでおしまいだ。でも、この国の人は? この世界で、この国で生きていくんだろ? だったら三人は先頭に立って、この国の人たちを守って、立て直して、それで何よりも自分の夢をかなえるべきだ。ミアはこの国を代表する魔導士になる、マッツは立派な騎士になって婚約者レオノーラさんを迎えに行け、ホルストも神官としてやることがあるんだろ? 俺はみんなに楽をさせるつもりはないんだ、みんなは魔王を倒した後にこそ、活躍するんだ。だから俺は簡単には三人を危険に巻き込みたくなかった。このカッセル王国の未来のために!」


「……! マサトさん」


「マサト、そこまで」


「マサト殿……私たちは勇者を……真の勇者の姿を見ました」


 三人はそれぞれの表情で俺を見つめてきた。


 やっちゃった……。

 俺……いつからこんなに口がまわるようになったかな?

 人間、極限に追い詰められると、実力以上のものが発揮されるというやつだな。


 三人はもう、涙を隠せないほどになっている。

 あああ……これでもう俺は引き返せない。

 死んでもマオを探さなければ!


「だから、王宮に行く前にみんなの得た情報を教えてくれ!」



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