第55話 急変②


 俺はミアたちに顔を向ける。


「お、俺にはよく分からないが、この国の西側にある森に魔王の居城があったらしい。誰も近づかない広大な森だそうだ。元々、魔王はそこにいるのではないかと疑っていた場所でもあったんだって」


「あ……そ、そこは……学園で聞いたことがあります。豊かな森なんですが、魔物や魔獣も多く、一般の人は近づかないと。カッセル王国で唯一、上級の冒険者たちが探索する森だって言ってました。たしか……全貌が決して分からない“未踏の森”って言われてるって」


「その魔王軍がその森から出てきたのを近隣の村で目撃されたんだと。幸いなことに魔王軍は他の村や町に目もくれず、この王都に向かっているらしい。それでその進軍スピードから考えて、王都に到着するのは……明日って」


「こうしてはおられん! 私たちも戻らねば。騎士団には既に報告はいっているだろう!」


「はい! 私も魔法学園に念のため一報を入れます」


「行きましょう!」


 ミアたちが血相を変えて立ち上がる。


「待ってくれ!」


 俺はみんなを引きとめた。


「その前にみんなの情報を集約したい」


「え? それどころじゃないですよ、マサトさん!」


「そうだ、マサト! すぐに我々も迎撃の準備を」


「……マサト殿、我々こそが前面に出て決戦に挑まねばならないでしょう。苦しい戦いだとしても、魔王軍から魔王を探し出し、魔王を討ち果たさねば。そのために我々は集まったのです」


「そ、それはそうなんだが……」


 な、何て言えばいいんだ。

 たしかに緊急事態だ。こうしてはいられないだろう。分かっている。

 ただ、みんなが分かっていない重大なことがあるんだよ。

 それは……、


 今は……俺が魔王ってこと。


 ああ! もう、訳が分らん! なんなのこの状況!?

 もう本当のことを……いやできないな。この状況で言ったら確実に俺が殺されるわ!


「マサトさん!」


 ミア……そんな目で見ないで。こっちにも色々あるの。


「マサト! まさか、怖気づいたんじゃないよな」


 イラ! 

マッツ……お前なんか普通に剣で戦かったら瞬殺だろうが!

 どうして無駄に強気なんだよ。アホ騎士が。


「マサト殿、マサト殿には何か考えがあるのですか? 私は勇者の魔王討伐隊に選ばれた時、思いました。私はこの日のために、厳しい修行してきたのだと。さあ、行きましょう、マサト殿、私も修行の成果を存分に発揮いたしますから!」


 ホルスト……その修行の成果で、お前はホモになったんだよ? 分かってる?


「……分かった。俺の考えを言う。ちょっと座ってくれ、みんな」


 俺は真剣な顔で、ミアたちを見つめた。その俺の顔を見て、何かを感じ取ったのか全員が気圧されるように静かに座る。

 そう、俺は決心した。

 覚悟を決めたんだ。

 俺はこの世界に呼ばれて、話を聞かされてすぐに魔王を倒すつもりになった。

 それは元の世界に戻るためだ。そうすることでしか戻れないんだからな。

 理不尽だとは思ったが、それを言っても現状は何も解決はしない。

 細かいことを考えることが面倒な俺は考えるのをやめたということもある。

 それは俺の性格だからな、仕方がない。

 それにちょっとだけアンネから魔王に苦しめられている人たちがいるのを聞いたことも影響している。

 でも、死んでしまっては意味はない。それではすべてが終わりだ。

 俺は元の世界に帰ってやりたいことがある。誰も待ってはいないが、それでも見せたいものがあるんだ。だからこそ、オデットさんの申し出も断った。

 俺は今、追い詰められている。立場も命も。

 だったら……


「じゃあ、言うぞ。みんなに伝えてなかったことも含めて」


 もう……十分、嘘をついた。

 なら、いいだろう?




 もっと嘘をついても!




 元々、五日後には影丸から本当のことがバレて、命を狙われる可能性が高かったんだ。それがちょっと短くなっただけだ。

 やるぞ、俺のために。大手を振って突き進む。


「今、俺たちが追っている魔王の間者っていうのは……実は魔王だ」


「え!」

「!」

「……まさか!」


「本当だ。俺が勇者だから分かったことだ。今から俺の今までの行動の理由と目的を話す。ただ先に言っておく、そのすべてはこの国の……このカッセル王国に住む全員のためのものだった。みんなには疑問が湧くだろう、それと分からない点があるかもしれない。でも、その理由は一つだ。それは……」


 俺は鋭い視線で、まだ驚きと戸惑いから脱していない、勇者の仲間たちを見渡した。




「俺が勇者だからだ!!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る