第48話 恨みはすべて魔王のせい!②


 だったら、もう……ままよ!


「分かった、アンネには心配させたくはない。誰にも迷惑をかけずに俺だけで倒して、できれば敵の本拠地を吐かせようとか思ってたけど、マスローさんとカルメンさんにはアンネが今、俺が言ったことを報告しておいて。それとマスローさんたちには魔王討伐のための準備を急ぐようにと。敵は思ったよりも早く全軍でここに来る可能性がある」


 ああ……言っちゃったよ、話をでかくしちゃったよ、俺。


「それとマッツたちにも協力してもらうよ。すぐに俺のところに集めて欲しい。こちらの情報を持っているだろう、そいつを倒して魔王軍を迎え撃つ」


 もう、こうなりゃ仲間は多い方がいい。みんなで探すぞ。どちらにしろ魔王を倒そうとしているのは本当だ。


「……分かりました」


「うん、お願い。俺は先に影丸と街に行って、マオ……じゃなくてその敵を探してくる。マッツたちには街に直接来るように言っておいて」


 もう、行こう。

 この場にいるのがつらい。

 とにかく早く、マオを探す。これもすべてあいつのせいだ。

 あの野郎がちゃんと魔王やってれば……俺に魔王を押し付けなければこんなことにはなってないんだ。


「いえ、違います。分かったのはそれだけじゃありません……」


「え!?」


 ギクゥゥ!!

 ヤバい、嘘がバレた!?

 いや、バレるよな、明らかに無理があった。

 ということは……アンネは相当、怒ってることに……。

 あ、足がガクガクしてきた。


 よし、逃げるか!?


 ここにはもう戻れないが、魔王を倒せば許してくれる……はずだ!

 俺は、俯いているアンネをそのままに少しずつ……ドアの方に移動をしようとした時、


「マサト様! 申し訳ありません! 私は……私たちは……」


 突然、アンネが大きな声をあげて跪いた。

 俺はヒッ! と驚いて飛び上がる。

 って、あれ?

 見ればアンネは涙を両目にためて俺を見上げている。


「マサト様に伝えなければならないことがあります。そして……謝らなければならないことも……」


「ア、アンネどうしたの? そ、それに謝るって……?」


「私は……私はただ、ここで給仕をするだけの仕事をしているわけではないんです」


「……え? 何それ」


「私の本来の役目は……マサト様の監視役でもあり、この国のために、マサト様がすべてをかけてでも魔王と戦ってもらうために派遣されました」


 何だそりゃ。

 何の話してんだ? アンネは。


「……私たちは、いえ、これはどの国でも同じらしいのですが、勇者召喚術にはどうしても思い通りにならないものがあるんです。ですので、どの国にも、召喚された勇者様にはまず私みたいな者が必ずつけられます。そして、多くの特別な待遇を受けるのです」


「思い通りにならないもの? それは何?」


「はい、それは勇者の心……気持ちです。具体的に言えば、勇者が魔王と命がけで戦ってくれるかどうか分からないんです。何故なら、勇者にしてみれば世界の違う他人の国のために戦う理由などありません。ましてや、勇者によっては戦いを知る国から来たわけではない者も多いと、召喚するにあたり、注意書きがあるくらいなんです」


 ははーん……なるほどね。召喚されても真剣に戦ってくれない奴もいると。それで、アンネみたいな者をつけるって……えげつねーな、しかも注意書きって、説明書かよ。

 つまり、異世界から来た勇者が戦わないかもしれないから、戦う理由を作ってしまえ、と。

 でもさ、魔王を倒さなければ、元の世界には帰れないんだろう? それじゃあ、普通は戦う……いや、そうとも限らねーか。

 俺はどうしても帰りたいけど、別に帰りたいと思わない奴がいてもおかしくない。それに、帰りたくても命にかかわると分かれば、諦めてもおかしくはない……か。

 だから、アンネか。男勇者の俺には。


「なるほどな……ひでーことをしやがる。やり方も汚い。それでアンネみたいな可愛い子を俺につけたのか……」


 俺みたいな女の子に縁のない奴の対策としては、完璧だ。


「ぬぬう、俺がアンネに惚れるようにしようとは……汚い。そんなの余裕で引っかかるに決まってんじゃん。ハッ! よく考えればおかしいよな。アンネみたいな美少女が俺のこと、素敵って言うわけがない……」


「はい、すべて使命のためでした。私が選ばれたのも歳が近い方がいいと……」


 あ、否定はしないのね。

 ちょっとだけ傷ついたよ? 俺。

 分かってても傷ついたよ?

 ただ……今、アンネは目を伏せて辛そうにしている。

 そりゃそうだろ、勇者とはいえ、人を騙して戦わせるんだから。

 やっぱり、アンネは優しいんだろうな、そんな人間にはきついよな。


「でも……何でそんなことを今、暴露したんだ? アンネ」


「はい……。私はマサト様にこんな姑息なことをするなど、まったく必要ないということが分かったんです!」


 アンネは潤んだ瞳で俺を見上げた。

 そして、まるで贖罪するように訴えてくる。


「先ほどの魔王の間者の話……そのマサト様のお考えを聞き、マサト様は……まさしく私が子供のころに思っていたような本物の勇者でした!」


 あ、ヤバい……これはヤバい感じがする。——だって、

 止まらないんだわ………………汗が。

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