第47話 恨みはすべて魔王のせい!


 次の日、俺は目覚めるとアンネの用意した朝食を食べていた。

 食べていたのだが、居心地が悪い。

 何故なら、アンネの機嫌が悪いように……見える。


「アンネ? その……」


「……何ですか?」


「いや、何でもない」


 やっぱり、というよりも確実に連日、外に出かけて夕食も外でとってきたのがいけなかったのだろう。

 まずい……な。

 どう言えばいいかな? 今日も当然、マオを探しに行くつもりだ。

 でも、このままだと許可が下りないかもしれない。いや、強行突破してでも探しに行かなくては。

 一応、この点に関して言えば俺とこの国の利害は一致しているはずなんだ。魔王を倒そうとはしてるんだから。

 ただ、問題なのは今は俺が魔王ということだけ。

 仕方ない……嘘も方便か。


「アンネ、実は今日も街に行くつもりなんだ」


「……!」


 うわ、顔色が変わった。


「……マサト様は街での居酒屋がどうにも気に入られたみたいですけど、こう頻繁なのは感心しません。王都はまだ平和そうに見えても、いつ魔王が攻めてくるか分からないんです。混乱を避けるために、魔王出現は主要部署にしかまだ知らせてはいませんが、知らされた部署は緊張でピリピリしているそうです。今日は王宮で……過ごしてもらいます!」


 そりゃそうだよね。こういう反応になるわな。

 だが、これだけは引けない。俺は真剣な顔を作り、声のトーンを落とす。


「いや、聞いてくれ、アンネ」


「何を言われても駄目です! もし、行くのでしたらカルメンさんに相談します」


「う!」


 それは面倒な……。


「違うんだ。俺が街に出かけているのは重大な理由があるんだよ」


「何がですか? いつもお酒臭く帰ってきているのにですか?」


「アンネ、今から俺が言うことを内緒にできるか?」


「……?」


「実は……街の中に魔王の配下と思われる奴がいる」


 魔王その人だけど。元魔王だけど。今、俺が魔王だけど。


「……え!? それは本当ですか!? そ、それは……」


「目的はまだ分からない。この王都に攻めてくるための偵察か破壊活動か……。とにかく、そいつはこちらの情報を収集しているはずだ」


 ただのストレス解消で飲みに来てたっぽいが。


「た、大変です……それではマスロー閣下に報告して、全力で探さなくては!? モンスターがそんな知恵をつけているとなると、よほど組織としてまとまってきている証拠です! その者を倒し、こちらも準備を急がせないと!」


「あ! いや! 待ってくれ! それはまずいんだ!」


 それは動きにくい!

 こちらが派手に動いて逃げられても困る。それじゃあ、紋章を返せない。


「な、何故です?」


「え? そ、そいつは相当強いんだ。恐らく魔王の幹部かも知れない。一人で来ているみたいだからな。並みの兵では歯が立たないし、街の人間にも被害がでてしまう可能性があるから!」


「で、ですが……。それなら精鋭を選りすぐってもらえば……」


「いや、派手に動けば、察知されてしまう。今は俺と影丸で追ってるから、見つかり次第、そうするつもりだった。確実にそいつを倒すために。でも、今はその時じゃない、逃げられて、こちらの情報を魔王軍に持ってかれるのはまずい。既に報告はしているかもしれないが、こちらは魔王討伐の準備途中だ。本格的に準備を開始するこのタイミングで、これからのこちらの動きを知られるのは良くない」


「……確かに。となると、魔王軍はこちらの予想よりも早く、ここに攻め入ってくるのでは……? まだこちらは敵の本拠地を知らないというのに」


 え? そう考える?


「そ、そうだね、それは俺も考えていた。えー、えーと、そう、この潜り込んできた魔王の配下をすぐに倒そうと思ったのは、敵の動きを鈍らせて、こちらの準備の時間稼ぎをしたいというのもあったから。知らせようとしなかったのは、マスローさんたちに余計な仕事を増やさずに、準備に集中して欲しかったんだよ! だから、今日、言うつもりだったんだ。早急に魔王討伐の準備を整えてくれって」


「はッ! そうだったんですね」


 も、もう、話を合わせるしかない。


「でも、どうして、マサト様自ら行くのです? 他の者に任せていいじゃないですか。マサト様に付与された力もまだ分かっていませんし。それにどうしてマサト様はその者が魔王の手の者と分かったんですか? その魔王の間者が一人だけとか、強いとか」


「え!? そ、それは…………」


「……」


 あわわ、確かにその通りだ。何で俺が一人で何でもやろうとしてんだ? って思うよな。仲間も紹介されてるし。

 それに俺が、敵を察知した理由がない。事実は恐ろしいことに、たまたま、飲み屋で出会ったマオが魔王だっただけだし。

 うわぁ、なんか睨んでる? アンネ。

 しかも目が潤んでるよ?


「そ、それは……あ! 俺が勇者だからだよ! ほ、ほら、俺は勇者だから分かるんだよ、悪い奴とか。俺自身が行くのも勇者だからだよ。勇者が街の人を混乱させたり、みんなに危険な目にあわせたりするのはまずいだろ?」


「マ、マサト様、それは……」


 何? この理由。

 苦しすぎる。

 これじゃあ、納得してくれるわけ……。


「……あ、あなたという人は」


 ヤベー、震えてるよ、アンネ。

 よし、どうせ5日以内にマオを探して、紋章を貼り返して倒さなくちゃならないんだ。

 今は俺が魔王ってバレれば、この国がどう動くか分からない。

 多分、高い可能性で退治される。

 俺が退治される、うん、間違いない。



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