第46話 紋章と共闘と不安③


「あはは……まあまあ、雅人君。まだ、全容が解明された訳じゃないから。他にも違う能力があるかもしれないし」


「でも、マサト……お前の能力ってひょっとしたら凄まじいかもしれんぞ?」


「な、何がだよ……。慰めならいらないぞ?」


「いや! というのもな……うーん、ま、これはいいか」


「何だよ、言いかけておいて……」


「その内、マサトも分かることかもしれないが……そうだな、気が向いたら教えてやるよ」


 俺は何だぁ? という顔をするが、これ以上、この話を深追いする気にはなれなかった。

 正直、この能力の話はもういいって感じだし。


 このあと、俺は奏さんとオデットさんと見せを出て、別れ際に奏さんたちが宿泊する宿の名前を教わった。


「じゃあ、雅人君。魔王が見つかったら、すぐに連絡して。すぐに加勢にいくわ」


 俺は頷き、二人と別れると、影丸がスーと現れてびっくりした。


「あ、影丸! ごめん、今まで探してくれてたんだ。で、どうだった? そうかー、駄目だったか……。え? さっきの連中は誰かって? ああ、あの人たちは……」


 と、言いかけて俺は黙った。

 考えすぎかもしれないけど、店でのオデットさんとの怖いやり取りを思い出してしまったからだ。

 俺の今の状況と能力をマスローさんとかに話してしまわないか、心配になってしまう。

 影丸は、信用できるよな……?

 影丸は相変わらずの無表情で、俺を見つめている。


「影丸……。影丸の主人ってマスローさんだよな。じゃあ、今日の出来事をマスローさんに報告してしまうのか?」


「……」


 影丸は線のような細い目が少しだけ開いたように見えたと思うと突然、俺の前で跪いた。


「影丸?」


「~~~~!」


「……そんな、違うよ! 影丸のことは信用してるよ! でもさ、そうはいっても影丸の本当の主人はマスローさんだろ? そうしたらマスローさんにすべてのことを報告するんじゃないかって思って。それは影丸にとっては当然じゃないかって思って……」 


「~~~~!!」


「え? 今の主人は俺? 何で……影の者は二君に仕えない? 常に一人? それが影の里に生まれた者の掟って……。でも、俺は影丸に何にも与えてないよ? それじゃ影丸に何にもメリットがないじゃないか」


「~~~~」


「それなら大丈夫? 前金はマスローさんからもらってるから? そうなの!? ふんふん……給料分は必ず働くのがカッセル王国と影の里との固い誓いなのか……」


「~~~~」


「仕事中に起きたことは雇い主がいいと言わない限り秘密厳守なのは当たり前と? 影丸……」


「……~~」


「……は? 今、何て言った?」


「~~」


「言いにくいけど? 前金は七日分しかもらってない? だから、あと五日で契約は切れるから要注意……だとぉぉ? ちょっと! 一日いくらなの? うーん? 銀貨二十五枚って……それがどれくらいか分からないな」


 それってどれくらいの価値なんだ?


「ふむふむ、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚と……言われてもなぁ。じゃあ、麦酒一杯はいくらくらい? 大体、銅貨三枚? ということは……」


 麦酒の価値も曖昧だけど……庶民ぽい人たちもみんな普通に飲んでたからな。

 日本で言うと銅貨一枚百円から二百円くらいってとこかな?

 ということは銀貨一枚が一、二万円……

 ……え? じゃあ日給二十五から五十万円!?


「高ぇぇぇぇ! 影丸、高ぇぇな! 高給取りじゃねーか!」


 影丸が照れるように頭をかいている。

 ま、まあ、確かにすごいできる男だもんな。この国で会った中では群を抜いて優秀だった。

 だ、駄目だ! とてもじゃないが俺では雇えるレベルではなさそうだ。

 マスローさんはああ見えて宰相だからな。

 大金持ちなんだろう、だから俺に貸してくれたのか。しかも、数百万分をスパーンと払ってくれてるのと同じだ。


「か、影丸、一度、雇われた主人のことはペラペラしゃべらないだろう?」


「~~」


「聞かれなければしゃべらないけど、聞かれたらしゃべるのが雇われた者の務めぇぇ!?」


 絶対聞くよ! そんなの絶対聞くに決まってる!

 いや、もしかすると、そこまで織り込み済みで俺に影丸をつけたのか!?

 だとしたら、思ったより食えない爺さんだ!


「ヤバい! これは五日以内で必ず、マオを見つけなくては!!」

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