第45話 紋章と共闘と不安②


「ちょ、ちょっと! 何をしてるの!? 雅人君」


「仕方ないじゃん! 見たことないってことは多分……後ろじゃないかって思ったんだよ」


 俺は上着を脱いで上半身裸になると、背中の辺りを無理な体勢でのぞき込もうとすると、


「お、あった、あった、これじゃないか? 背中にあるぞ、マサト」


「え、本当!? どこ、どこ?」


「ここだ、ちょっと触るぞ?」


 俺はオデットさんに触れられた場所、左肩甲骨の辺りに手を伸ばした。


「こんなところに?」


 するとベリッと音が鳴り、俺の手の指にワッペンのようなものが引っかかった。


「え!? と、取れるの?」


「おいおい!」


「え? 何?」


 奏さんとオデットさんが驚きの表情を見せたので、俺も驚いた。

 そして、俺の手には勇者の紋章らしきものが摘ままれている。


「自分の紋章もとれんのかよ!」


「本当に……どういう能力なのかしらね、雅人君の能力は」


「あはは……」


 俺にもなんだか分からんのだけど……まあ、いいや。

 俺は取った紋章をテーブルの上に置いた。

 奏さんはその俺の勇者の紋章を呆然とみるが、チラッと俺の方を見る。


「触っても大丈夫かな?」


「大丈夫だと思うんだけど……魔王の紋章も何ともなかったし」


 奏さんはおそるおそる俺の勇者の紋章を摘まんだ。

 そんな汚いものを触るようにしなくても……。


「た、確かに勇者の紋章だけど……これ……」


「え? 何かおかしいの?」


「ううん、中央の文様は間違いなく勇者の証よ。でもこれ、さっきの魔王の紋章が薄く背後に混じっている……。それに元来、その周りにあるはずの付与されただろう力を表す文様が……ほとんどないの」


 オデットさんが奏さんに寄り添って紋章にのぞき込む。


「うわ、本当だ。これはどういうんだ? あ、でも上のところにポツンと見たことのない文様があるな。これは魔王の紋章にもなかった。ということは、これだけが元々あるマサトの紋章のものだな」


「うん、でもそれだけなの。私のや、私が過去の勇者の紋章を見せてもらったものと比べてもすごいシンプルね」


「そ、そうなの? そんなに違う?」


「そうね、じゃあ、私のを見せるわ」


 奏さんは右腕の袖をまくる。


「これが私の紋章。ね、全然、違うでしょう?」


「あ、本当だ」


 中央にある文様は同じだが、その外側を包むようにある文様がまったく違う。

 俺の紋章は上の部分に小さな円があり、その円の内側には円の中心点を通るようにうねった線が円の面積を等分に分けている。そして、その半分が塗りつぶされたようになっていた。

 でも、奏さんのは複雑な文様が何重にも塗りつぶされたようになっている。


「それにこの雅人君のにある小さな丸い文様は何かしら? まったく見たことないわ。何を意味するのかもまったく分からない」


「ふむう……そうなのか。やっぱり特殊なのか……な」


 俺は何気なく、自分の紋章を奏さんの紋章の近くに移動させて比べようとした。

 その時……奏さんの紋章に指が軽く触れてしまう。

 すると……


「え!? 何? 紋章が!」


「どうした、カナデ!」


「ちょっと、これを見て! 雅人君の指が紋章に触れたら……!」


「あ! それはマオの時と……同じ」


 なんと、奏さんの紋章が浮き出てきて、いかにもはがすことが可能な感じになっている。

 これは俺がマオの紋章に触ったときと同じ現象だ。


「まさか、勇者の紋章もとることができるの!? 雅人君の能力は」


「本当か!?」


「ちょっと、はがそうとしてみて、雅人君!」


「え? え? いや、うん、分かった!」


 俺はゆっくりと奏さんの右腕に触れて、奏さんの勇者の紋章を摘まみ上げる。


「と、とれた……」


「し、信じられない。ちょっと待って!」


 奏さんはそう言うと目を瞑り、ジッと動かなくなった。

 ボワっと奏さんが不思議な光に包まれたように見える。


「勇者の力は……消えてないわ」


「あ、ごめん! すぐに戻すよ」


「待って! 自分にその紋章をつけてみて、雅人君」


「う、うん」


 俺は言われた通りに自分の腕に張り付けた。

 すると、俺の紋章が軽く光ったように感じる。

 そして、先ほどと同じように奏さんが目を瞑る。


「……消えてる。勇者の力が消えてる!」


「え!? も、戻すよ!」


 俺は慌てて奏さんの紋章を自分からはがして、元の場所である奏さんの右腕に張り付けた。


「あ、戻ったわ。力が……」


「……ホッ」


 オデットさんがこの現象を真剣な顔で見つめ、そしてそのまま俺に視線を移す。

 しばらく、俺を見つめると、オデットさんは口を開いた。


「つまり……マサトの能力は、魔王だろうが勇者だろうが、相手の持つ紋章を奪うことで相手の能力と力を手に入れることができる……ということか?」


「そう考えていいんじゃないかしら……。それと雅人君の紋章を見た? 私の紋章を貼ったときの」


「いや……何かあったか?」


「私の紋章の文様が雅人君の文様に薄く写りこんでいたわ。多分……これは想像だけど、私の紋章を吸収したという証なんじゃないかしら。それと発動条件は紋章に触れること、ってだけで」


 奏さんの考察に俺は驚きを隠せずに、目を広げた。


「ちょっと待ってくれ……じゃあ、俺の能力って……」


 俺はワナワナと震えてしまう。

 だってそうだろ?

 この能力って簡単に言えば、


「人様の能力を拝借しないと何にもできないんかぁー!! 使えねぇぇぇぇ!!」


「ま、そういうことになるか……。しかし、こんなに勇者らしくない力は初めて聞くな……ククク……あはは! いや! 面白さなら、誰にも負けない勇者だぞ! マサト」


「そんな面白さ、いらねーよぉぉ!」

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