第44話 紋章と共闘と不安
「あ! そうだった、それは試してないんだよ。もし貼れたとすれば話は簡単になるんだよな。ものすごい弱いやつに貼って倒せばいいんだからな」
俺の話を聞くとオデットが眉根を寄せる。
「ちょっとアタシに貼ってみろ」
「ええ!? いいの!?」
「オデット!?」
「馬鹿! 試してみるだけだ。もしできたらすぐにはがしてもらう」
オデットさん勇気あるなぁ。普通は嫌だろうと思うけどね。
「分かった。じゃ、じゃあ、腕を出して」
「う、うん」
オデットさんが左腕を伸ばしてきた。戦士系だから腕は筋肉ですごいのかなと思ったけど意外に細いんだな。さっき後ろをとられた時はすごい力だったし。
「貼るよ?」
「わ、分かったから、早くやれ」
俺は頷き、そっとオデットさんの上に紋章を置いた。
……ゴクリ、俺も緊張する。
すると……紋章はスルリとオデットさんの腕の横に落ちた。
「あ、くっつかない!」
「……む、つかないか」
「ちょっと、緊張しちゃったよ、私」
俺は紋章を摘まみ上げてヒラヒラさせる。
「となると、紋章を奪えるのは俺だけってことかな? それで貼り返せるのも紋章をとった魔王だけ」
「そうみたいね」
「となると……新たな問題があるなぁ、この能力」
「え? 雅人君、どんな問題?」
「うん、俺は今のところこの能力以外に付与された能力が分からないんだよ。いや、ないのかもしれない。実は今日の朝、この魔王の力をいろいろと試してみたんだけど、俺からみたらすごい強いんだわ。だから、魔王を見つけて紋章を貼り返したとしても、今度は相手が強くなっちまうんだ。そうしたら、俺では倒せない可能性があるんだよ」
俺はオデットさんをチラッと見る。
「今の状況を軽々しく、仲間には伝えられないし……さっきのオデットさんの教えから考えるとね……」
「……」
「……」
うーん、マオにこの紋章を戻した途端にマッツの魔法かミアの鉄拳を喰らわすことができればいいんだけど……。
「……雅人君」
「うん? 何? 奏さん」
「私が……手伝ってあげようか?」
「……え?」
「その魔王を倒すの……」
思いがけない奏さんの申し出に俺は驚いた。
「え!? いいの? でも……それはさすがに申し訳ないというか」
多分、奏さんは強いだろうことは想像できる。だって、歴代でも相当強い部類の魔王を倒したって話だ。まだ聞いてはいないけど、すごい力が付与されてるんだろう。
でも……俺は奏さんに助けてもらって魔王を倒したとしても、元の世界に帰るつもりだ。
それを、同じく元の世界に帰りたがっている奏さんに手伝わせるのはな……。
「あ、全然気にしないで。これも何かの縁よ! それに同郷のよしみじゃない。このまま、雅人君を放っていってしまうのも後味が悪いわ」
——結局、俺は奏さんの申し出を受けることにした。というのも、断るのも……ね。
それに実際、こんなにありがたいことはない。
俺は深々と奏さんに頭を下げた。
「ありがとう、奏さん。何とお礼を言ったら……」
「はー、本当にカナデはお人好しだよ……。何のためにここまで来たのか」
「いいのよ! それに召喚術の研究にもなるかもしれないでしょ?」
オデットさんは呆れ気味だったが、諦めたように息を吐く。傍から見ててもこの二人の関係性が見えるようだった。
「じゃあ、その前に雅人君の勇者の紋章を見せて。それで少しでも能力の予想が立てば、調べようが見つかるかもしれないし。魔王のもそうだけど、勇者のも外側の文様次第で系統が分かるかもしれないわ」
「……へ? 何それ? 勇者の紋章?」
「え? そうよ、あるでしょう?」
「ええー!? 知らないよ? 勇者の紋章なんて、今、初めて聞いたよ!」
「おいおい、マサト、何を言ってんだよ。うちの国では普通に知られている話だぞ? そもそも、魔王の紋章が勇者に反応するのは勇者の紋章に反応するっていうことも分かっているんだからな。それに完全に解明はされていないが、魔王の紋章の外縁部にある文様で、その魔王の持つ力の系統がある程度分かるように、勇者の紋章にもその勇者に付与された力の系統がでるといわれてるんだ」
「いやいや! オデットさん、聞いてない、聞いてない。言われたことといえば、勇者に付与された力は召喚巻物に浮き出てくるって話で、俺は召喚されるはずの人間と違ったから内容が分からないってことだけだ」
「そりゃ、そいつらの言っていることは間違いはないが、召喚された勇者は必ず体のどこかに紋章はあるはずなんだよ。まさか……そいつらも知らなかったってことはないよな」
「……」
……いや、あり得るな。
元々、この国には召喚術が失われていて、他国の召喚術を盗んだっぽい感じだった。
ということは、意外と分かっていないことが多いんじゃないか?
「ま、まあ、雅人君、いいわ。とりあえずどこかに紋章があるはずだから探してみて?」
「う、うん、分かった」
俺は立ち上がり、自分の服の中に目をやって探してみる。
ないよな……一度、風呂に入ったときも気づかなかったんだし。
あ……ということは、普通にしていれば気づかない場所にあるのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます