第43話 状況の整理と今後②


「そうだなぁ、じゃあ、おごってもらおうかな。情報提供料として」


「オデット!」


「ああ、もちろん、そのつもりだ。まあ、俺のお金はもらったもんだけどね」


「おお、言ってみるもんだ! お前、見かけによらずいい男だな」


「見かけによらず、は余計だ!」


 オデットさんのさっきの行動は正直、衝撃的だった。衝撃的だったが、すごく腹に落ちた。

 日本とは違う世界に来ていることを頭では分かっていたはずなのに、心でそれを分かっていなかったのかもしれない。

 この俺の特殊能力と現状を伝えたのはこの二人以外では影丸だけだ。

 今、影丸にはマオの情報収集を続けてもらっているのでここにはいなかったのは幸いだった。

 ここに影丸がいたら、オデットさんと戦闘になる可能性もあったはずだ。

 いや……その考えも改めていく必要もあるかもしれない。影丸が俺以外に何かしらの指示を受けていれば俺を殺す可能性もあることを頭に入れておく必要もあると思った。

 まあ、影丸にはあとでいろいろと話そう。


「んで? マサトは何を聞きたいんだい?」


「何でも聞いて。オデットのお詫びも含めて、何でも話すわよ」


「じゃあ、遠慮なく。まずは魔王の紋章は破壊が可能か? ってことかな。もし可能なら破壊すれば魔王を倒すことになるのか、ということだ。それと勇者以外でも魔王を倒せるのか?」


「うーん、まず紋章だけど多分、それは無理だと思うわ。そもそも紋章は体の内側から浮き上がっているという感じだったし、紋章のところに傷を負わせても、傷の中で紋章が輝いていたのを私は見たもの」


「そうかー、じゃあ、この紋章を手っ取り早く破壊して終了っていうのは無理そうだな」


「そうだな、アタシも同じ意見だ。魔王自身を倒すしかないな。おいおい、そんな顔をするなよマサト。もうなんにもしないから。それと魔王は勇者以外でも倒せるぞ、とどめは必ず勇者じゃなきゃならないってことはないらしい」


「え? じゃあ何で勇者を呼ぶ必要があるんだ? その国で最も強い奴を勇者にすればいいじゃない。いや、他国だろうが勝てそうな奴を雇えばいいし」


「ああ、それな……」


「それは私も同じ疑問を抱いて聞いたことがあるわ。そしたらね……」


 二人がちょっと苦々しい顔を浮かべる。


「分からないんだって……」


「はあ!?」


「まあ、付け加えるとその理由があったらしいんだけど失われたって言われてるんだよ」


「何だそりゃ……それに普通、失われるか? 大事なことだろうが」


「まあ、そうなんだけどな。勇者召喚術を編み出した時代は今ある国家群が勃興するさらに前で大昔らしいんだよ。つまり、国が変わってしまっているんだ。それで召喚術は残ったのだが、それをする理由が曖昧になってしまったのではないかといわれている。一説には勇者は魔王の力に影響を受けるといわれていたりもするけどね」


「影響って? 何だ?」


「うーん、何でも顕現した魔王の力が強いと呼ばれる勇者も強くなったり、魔王の弱点特化の能力を持っていたりということはあったんだ」


「それでいくと、俺は何なんだよ。能力が特殊だから魔王も特殊だったとかか?」


「あはは、まあ、ここは正直、確固たることは分からないな。ただ基本、勇者は強い者が多い、その意味で手っ取り早く戦力を手に入れることができる、というのもあると思うんだけどな。マサトは例外っぽいけどな」


 グ……気にしてるんだから、俺のは明らかに使い勝手が悪い能力だよ。


「そうだ、俺の能力を調べる方法ってないかな? まだいろいろと分かってないことが多いし、使えるところもあれば知りたいんだよ」


「うーん、私は分からないなぁ。勇者は本来、召喚時に巻物に詳しく能力がでてくるものだし」


「大昔の勇者で相手の能力や強さを【鑑定】という特殊能力で知る者がいたっていうのは聞いたことはあるけど……」


「駄目か……自分で試していくか、リンデマンさんたちの成果を待つしかないか……」


 仕方ない。


「じゃあさ、ちょっと基本的なことなんだけど、魔王って各国にランダムで出現するって話だろう? その魔王たちって強さに差はあるの?」


「それはあるって話だ。もちろんそれぞれに特性も出身種族も違うが、文献で比べてみても明らかに力の違いがある。それにアタシたちがカナデと一緒に倒した魔王は歴代でも相当に強かったのではないか、といわれているんだ。アタシもすごい苦労したぞ」


「うわ、じゃあ、奏さん、すごい強いんだ。外見では分からないけど」


「あはは……女としては複雑だけどね。戦闘ばっかり強くても」


「そういえばマサト」


「何?」


「マサトはどうやって魔王の紋章を奪ったんだ?」


「ああ、それはね、こうやって……」


「え? え? 雅人君?」


「ほら、はがれたでしょう?」


「「……」」


 俺は紋章をテーブルの上に乗せると、二人は若干、椅子をテーブルから離した。


「な、なにそれ? そんなシールをはがすみたいに取るの?」


「それは、能力的に凄いはずなのに、これっぽっちも凄さが伝わってこないな。むしろ、ちょっと引いてしまうぞ」


 そんなに気持ち悪がらないでよ。

 少し落ち込むから。


「マサト、それは他の人に貼れるのか?」

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