第42話 状況の整理と今後


「ええーー! 何それぇ!?」


「あははーー!! マジかよ! そんなの聞いたことないぞ!? こ、これは腹が痛い、痛たたたた! 魔王と一緒にお酒飲んで紋章を擦り付けられたって!」


「ちょっと! 笑い事じゃないんだよ~。俺、どうすればいいのか分からないんだから」


「でも、雅人君、その話は本当なの? ちょっと信じられない話だよ? 実際」


「じゃあ、ちょっと待って証拠を見せるから」


 俺は立ち上がると、ズボンの中から上着を出して、魔王の紋章を見せた。

 魔王の紋章はいつにもまして光り輝いている。

 あ、そうか、奏さん、元とはいっても勇者だから、きっとそれに反応しているんだ。

 俺と奏さんの二人分。


「こ、これは……確かに本物の魔王の紋章だわ。し、信じられない」


「うわ、この中央の形はまさしく魔王のものだわ。でもそれ以外のこの文様パターンは見たことがないな……。ひょっとすると今までにないタイプの魔王かもしれない」


「分かってくれた?」


 俺は服を整えながら座った。


「じゃあ、確認だけど、今、雅人君は魔王なの?」


「……多分、みんなにこの魔王の紋章を持つ者が魔王だって言ってたし」


「確かに私も召喚されてそういうふうに言われたけど……こんなことを想定して言ってたとは思えないけどな。こんな特殊能力なんて思いもよらないもの。ね、オデット」


「ああ、まったくだ。こんなふざけた能力あるとも思わないだろう。それでマサトのその力はそれだけなのか? 特殊能力っていうのは、シンプルなのは少ないんだ。一つの特殊能力で複数の効果を持っていることが多い。他にも紋章に関わる力があるんじゃないのか?」


「オデットさん、それが分れば苦労しないんだよ。これから調べてもらうことになりそうなんだけど、俺はそれが分かる前にこの紋章を何とかしたいんだ。これがこの国の人間にバレればどんなことになるのか、未知数ってさっきも言ったろ?」


「ああ、そうだな。でもマサトは……馬鹿だな。それでお人よしだ」


「は?」


 突然、オデットさんは立ちあがると俺の背後に回り込んだ。


「ひっ」


「オデット!?」


 気づけばオデットさんは俺の首に短剣を押し付けている。

 あまりに手際が良く早かったので俺はまったく動けなかった。


「アタシたちの目的を聞いてなかったのか? アタシはね、奏を元の世界に帰してやりたいと思っているんだ。それで今のこの国の魔王はお前ってことになれば、お前を殺せば帰りのゲートが開くだろう? しかも帰るべき勇者もいなくなる。まさに一石二鳥じゃないか」


「やめて! オデット! そんなことをしてまで私は帰りたくなんてないわ!」


「カナデは人がよすぎる。それに考えてもみろ、こいつは魔王でもあるんだ。魔王を殺して誰が非難する? むしろ喜ばれて終わりだ。それどころか、オワーズのみならずカッセルも救った勇者としてカナデの名前は永遠に語り継がれる」


「オデット! 悪い冗談はやめてって言っているの。私のいないところでそんな伝説が語り継がれたってなんのありがたみもないし、あなただって分かっているんでしょう? 今まで勇者が魔王と相打ちに終わったことなんてないわ。帰りのゲートの出現の条件は召喚した勇者が生きているという条件があるかもしれないのよ? 高確率でね! 早く雅人君を放して。もしやめないのなら……」


 奏さんが腰に下げている細身の剣の柄に手をかけた。

 並々ならぬ緊迫した空気が流れると……オデットさんは俺から手を放して両手を上げる。


「冗談! 冗談だよ! そんなにマジにならないでカナデ」


 俺は息をすることも忘れていて、オデットさんに解放されると咳きこんでしまった。

 それでまだ、恐怖が体に残り、自分の意思とは無関係に震えているのが分かる。


「だ、大丈夫!? 雅人君!」


「あ、ああ、大丈夫だ。ちょっと怖かったけど」


「まあ、マサト悪かったよ。ちょっと質の悪い冗談で申し訳なかった。ただ勉強にはなったろ? お前は今の現状をカッセルの仲間に話せないと警戒したのは正解。今のようになる可能性は高かったと思うぞ。ただ、それは他の連中にも言えるってことだ。様々な人間が様々な目的や意図を持っているんだ。カナデみたいな奴ばかりではないっていうことは知っておけよ?」


「ちょっと! オデット!」


「いや、奏さん、いいよ。オデットさんの言う通りだ。授業料として受け取っておく」


「……雅人君」


 俺は深呼吸をすると、姿勢を正して座りなおした。


「まだ、聞きたいことや相談はあるんだよ。最後まで聞いてほしいな、奏さん、オデットさん。俺はこの世界に来たばかりで、この世界の厳しさみたいのはまだ分かっていない。でも、真剣に元の世界に帰りたいとは思ってるんだ。二人からの助言は多分、それに役に立つ。だからもっと話をさせて欲しいな。まあ、酒でも飲みながら、ね」


 俺は笑って、二人に席に着くように促した。


「わ、分かったわ、雅人君。ごめんね、オデットって時折乱暴だから」


 オデットは俺を見て軽く口笛を吹くと、ニヤリと笑って元の席に座る。

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