第40話 勇者は勇者と出会う②


 お店のお姉さんに言って俺たちは空いているテーブル席に移動させてもらい、そこで話をすることになった。


「突然で驚かせてごめんなさい。私は藤崎奏(ふじさきかなで)よ。日本では高校3年生だったわ。それから二年経っちゃってるけど……」


「アタシはカナデと一緒に旅をしているオデットよ。よろしくね」


「俺は宗谷雅人です。あ、俺は先日、召喚されて日本では大学一年生だった。だから……藤崎さんの方が年上に……」


「……(ジー)」


「なんでもない。召喚された時の年齢が重要だと思うから、藤崎さんは後輩のような気がする」


 という挨拶を終えても、俺はまだ驚いていた。

 こんなところでいきなり声をかけられたと思ったら日本人だと言われるなんて思わないだろう? しかも、この二人は俺のことをどうやって見つけたんだ。

 偶然……ってことはないだろうな、多分だけど。

 俺はそう考え、つい藤崎さんの方に注意がいってしまう。

 高校三年生だったと言っていたけど、しっかりとした雰囲気を感じる。

 背は俺より少し低いくらいなのだが華奢な体をしているので、線が細く、冒険者風の格好をしているのに力強さは感じなかった。

 でも、何でこんなところに日本人が……。

 あ、まさか。

 俺がある質問を口に出そうとしたとき、逆に藤崎さんが口を開いた。


「宗谷さん、あなたは勇者……よね? このカッセル王国に召喚された」


「……! あ、それは……うん、一応そういうことになってる。じゃあ、やっぱり藤崎さんも?」


「うん……私も勇者よ。いえ、勇者でした、かな」


 そうだよな。俺もそれを考えていた。

 でも、勇者でした、というのは?


「藤崎さん、勇者でした、というのは……どういう意味?」


 俺のその質問にオデットさんは気づかわし気に藤崎さんに目をやると藤崎さんは軽く笑みを見せる。


「私は隣の国のオワーズ連合で召喚された勇者なの。呼ばれたのは今から二年前、それでなんとか、オワーズに現れた魔王をオワーズの人たちと協力して倒したのよ。だから、今はもう勇者は必要ないから、元勇者っていうこと」


「え? それは……」


「カナデ! お前が必要ないなんてことないぞ! お前は今でもオワーズを救った勇者だ、それに変わりはない」


「あはは……ありがとう、オデット」


「ちょっと待ってくれ! 藤崎さん。それはおかしくないか? だって魔王を倒したのに、何でこんなところにいるんだよ。魔王を倒したら、元の世界に帰れるんだろ?」


「あ……それが……帰りそびれちゃって」


「帰りそびれた!? そんなことあんの!? というか、何やってんだよ、藤崎さん」


「ひゃ! う、うん……そうなんだけど」


 俺が思わず立ち上がってしまうと、藤崎さんが体を仰け反らせた。

 藤崎さんの横に座るオデットさんは、藤崎さんの肩に手をやる。


「まあまあ、この子にも色々あったんだ。えーとショウヤ……マファトでいいか?」


「宗谷雅人だよ! もう雅人でいいですよ」


「じゃあ、こっちもオデットでいいよ、カナデもな!」


「雅人君、私も奏でいいわ」


 色々って何なんだ? 元の世界に帰るなんて最優先事項だろうに。

 帰りたくない理由でもあったのかな。


「まあ、ちょっと話が遠回りしたが、本題に入っていいか? マサト。もう既に察しているとは思うが、アタシたちはマサトを……というか、この国の勇者に会いにここまで来たんだ。最初は王宮に行って面会を希望する予定だったんだが、街の中でうろうろするマサトを偶然見つけてね、カナデがもしや、って言うもんだから、こうやって飛び込みで話しかけさてもらったんだ」


「じゃあ、やっぱり、元々、俺に会いに来たんだ。でも何のために?」


 俺の問いに奏が一瞬、気まずそうな顔になるが、こちらの目を見て口を開いた。


「雅人君に聞きたいことがあったの。あなたは……魔王を倒したらどうするの? やっぱり元の世界に帰るつもりかな?」


「……え? 当たり前だろ、こんなところにいつまでもいられねーよ」


「そう……そうよね。当り前よね。変なことを言ってごめんなさい」


 奏さんが目を伏せながら、体を小さくした。


「……? 奏さん、もしかして……元の世界への帰り方を探しているの?」


「う、うん……実はそうなんだ。それで色々と調べてみたり、各国にいる高名な魔導士のところに訪ねて回ったんだけど、帰り方が見つからなくて。なんでも召喚術には失われた魔法知識が数多く含まれていて、研究をしている魔導士は結構いるんだけど、まだ謎な部分が多くて、どうやって異世界とゲートを開いているのか解明されていないということらしいの」


「……」


「それでカッセル王国に魔王が出現して、勇者を召喚したって聞いて……」


「なるほど……ね。もし、この国の勇者が魔王を倒したら、ゲートが開くから。一緒に帰れないか、と思ったんだ」


 すると、奏さんは無言で首を振った。

 俺は、違うのか? と思い、眉を寄せる。


「帰れるのは、一人なの」


「……え?」


「召喚術は召喚した勇者を返すという術式がセットになっているんだけど、それは召喚しただけの人数以上を、元の世界には返せないらしいのよ。つまりチケットは一枚、だから私が話に来たのは……」


「譲ってほしいと……。その帰りのチケットを」


 奏さんは小さく頷いた。



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