第39話 勇者は勇者と出会う


 あ、まだまだ安心するのは早いな。

 成功するか分からんし……。

 それと一応、マオの情報収集もしておこう。

 まあ、知らないだろうけど、でも、一通りはやっておかなくちゃな。


「お姉さん、昨日さ、ここで俺と一緒に飲んでた人、どんな人か知ってる? マオっていうんだけど……」


「ああ、あのお客さん? 名前までは知らなかったけど、よく来るから知ってるよ? 最近は一週間はあけずに来てるし」


 へ……?


「本当に!?」


「うん、この辺で歩いているのも何度も見たことがあるから。なんの仕事をしているのかは分からないけど、払いもいいし、他のお客さんに迷惑もかけないから、この辺のお店では結構、知られてる人だよ。それにうちを気に入ってくれてるみたいで、一番、寄ってくれてるから、うちにとってはすごい上客なんだ!」


 え? あいつ、そんなに有名だったの?

 しまった……最初からこの辺で聞き込みすれば良かったんだ。


「まさかとは思うけど……居場所とか分からないよね?」


「あ、私は知らないけど、あれ? たしか……この辺の借家だったところを買い取って住んでるって聞いたことがあったな? 誰に聞いたんだろ?」


「マジで!? お願い! それを教えて!」


 何という情報……しかも簡単に足がつく魔王ってなんなんだ?

 あいつはアホなのか?


「えーと、誰だったかな~。あ! ジャクリーンさんに聞いたんだった! あの人はね、ああ見えて好きでね~、ジャクリーンさんの常連らしいのよ」


 ジャクリーンさん?

 ……どこかで聞いたことがあるような名前だな。

 それになんか、お姉さんの言い方が引っかかる。

 まあ、いい。これは重要な手がかりだ。

 そのジャクリーンって人に会ってマオの事を聞きださなければ!


「お姉さん! 俺、是非、そのジャクリーンさんに会いたいんだけど! 紹介くれない? どうしてもマオに会いたいんだよ!」


「やだー、紹介ってお兄さんのドスケベ! 女性の私になんてこと頼むのよ!」


 お姉さんは赤い顔で俺の肩を叩く。


「あ痛! へ? ドスケベ? あのー、そのジャクリーンさんって……」


「お・風・呂・屋さんよ!」


「お風呂屋さん……? お風呂……えー!!」


 そういうことか!

 あのエロ魔王はぁぁ!


「もう……! とりあえずお店の名前と場所は教えておくわ。お店の名前は『魅惑の極楽湯』でぇ、場所はこの通りの奥にあるわ。ジャクリーンさんによろしくね!」


 バチン! と、今度は背中を叩かれた。

 意外と力が強いな、お姉さん。


「うわあ~! ありがとう! って違うよ! マオのいるところを知りたかったんだよ!」


「あはは、そうなんだ。じゃあ、今度がジャクリーンさんが来たら聞いといてあげるわよ」


「本当!? でも……すぐに知りたいんだよ。マオに借りたものを返したくてね」


「そうなの? でもジャクリーンさん、結構、この店に来るから、すぐに聞けると思うわよ? だってそのマオって人もジャクリーンさんの紹介でここに来てたと思うし。それにここによく来るのもジャクリーンさんに会えるかもっていうのがあると思うんだよねぇ、その人」


 ……ほほう、それは大分、入れ込んでるな。

 それなら、まだマオはこの街にいる可能性がある。

 だったら、お姉さんに任せた方が確実かも……俺もここに通う必要があるな。


「分かった! お姉さん、お願いできるかな?」


「いいわよ。あ、じゃあね! はいはーい、お待ちくださーい!」


 俺は方針が決まると、麦酒を傾けた。


「くー、美味いなぁ!! よし、色々と方向性は決まった。あとは影丸にも協力してもらって……」


それにしてもさっきのジャクリーンさんや『魅惑の極楽湯』っていうのはどこかで……でも、俺がこっちの人知っているわけないし、何で聞き覚えがあるような感じなんだろう?

うん? 

うーん? お・風・呂?


「あ……ああああ!! それってマッツの持ってたカードにあった!?」


 ようやく思い出した。

 マッツの持ってた名刺に書いてあったんだ!


「あいつは……しょーもないところで絡んでくるな」


 まったく……


「隣は空いてる? お兄さん」


「え!?」


 突然、話しかけられて俺は驚き、顔を向けるとそこにはフードをかぶった二人の冒険者風の女性が立っていた。

 一人はいかにも歴戦の戦士といった感じのお姉さんで、もう一人は俺と同い年くらいに見える黒髪の女の子だ。


「ちょっと、お兄さんと話がしたいのよ」


 年上の戦士然としたお姉さんがそんなことを言ってきた。


「俺と?」


「まあ、厳密に言うとこの子があなたに用事があるんだけどね」


 そう言われて俺は後ろにいる黒髪の女の子を見ると、その子はフードをとった。

 顔が露わになり、大きな目に黒い瞳のその女の子で、それは、何というか……俺にとってとても親しみやすい風貌な子だった。

 俺がそんなことを考えていることが、まるで分かったようにその子はちょっと笑う。


「突然、ごめんなさいね……ただ、その……あなたは日本人じゃないかな?」


「ええ!? き、君は……一体」


「あ、実は私も日本人なの」


「ええーー!?」


 俺は驚きのあまり、それ以上言葉が出てこなかった。


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