第36話 付与された力③


 ドアが再び開き、アンネが茶器を持ってきた。


「マサト様、お茶を入れますね?」


「アンネ」


「はい?」


「ちょっと、外に出てきたいんだが」

「え、今日もですか?」


「いや、ちょっと試したいことがあってさ。城外の訓練場を借りたいんだ。いいかな?」


「あ……大丈夫だと思いますよ。訓練ですか? どなたかにお相手をお願いしますか?」


「いや……一人がいいんだよ」


「一人ですか……さすがにお一人というのは難しいです。マサト様は我が国の大事な勇者様ですので、万が一、何かありましたら大問題になります」


「そうかぁ……あ、影丸を連れて行くから、それでいい?」


「あ、それなら……」


「分かった! それと昨日ほどは遅くならないと思うけど、今日もご飯いらないから」


「え? また、街の方に行かれるんですか? またお酒を……」

 若干、冷たく目を細めるアンネに俺は慌てる。好感度が下がっていくのを肌で感じてしった。でも、情報を集めたいんだよ、マオの。


 ここはどうしても行かなくてはならない。


「あ! いや! 今度はそれが目的じゃなくて……ちょっと、用事があってね」


「……分かりました。ですが、日をまたぐ前に帰ってきてくださいね」


「分かった! ありがとう、アンネ!」


 俺はさっそく部屋を出て行こうとする。今は時間がもったいない。


「あ! マサト様、お茶は?」


「おお、そうだった」


 俺は一旦、テーブルに座り、アンネが入れてくれたお茶を一気飲みした。

 ちょっと熱いが、せっかくアンネが持ってきてくれたのだから、飲まないと失礼だ。


「あ、そんなに慌てなくても……」


「ごちそうさま! じゃあ、行ってくる!」


 俺は場外の訓練場に向かった。

 それで、色々試してみて、そのあとは飲み屋街に行ってマオの情報を集めるんだ。


                 ◆


「おいおい……本当かよ」


 俺は今、城外の訓練場で愕然としていた。

 何にそんなに驚いていたかといえば……、

 自分の力にだ。


「影丸、周りには誰もいないよな?」


 影丸がひょいっと現れて、相変わらずの細い目で何も言わずに頷いた。


「影丸……頼みがあるんだけど、このことはまだ内緒にしてくれないかな」


 影丸は無表情のまま頷く。


「ありがとう」


 俺はそう言いつつも、前面に広がる荒野を見つめた。

 そこには俺の放った魔法の跡が各所に残り、小さなクレーターを形成している。

 影丸も一緒にこの風景を見つめる。


「~~~~」


「え? なに? さすが勇者? いやいや、そんなことはないよ。影丸には打ち明けたけど、これは多分、魔王の力で俺の力じゃない」


 そう、俺は影丸を信じてすべてを打ち明けた。迂闊かもしれないけど、影丸は何というのかな、すごく信頼ができそうな気がするんだ。

 それで影丸は俺の話を黙って聞いてくれた。

 もし、バラされたらアホな話だけど、その時はその時だ。


「でも、紋章を意識してみて初めて分かったよ。これ凄いわ。どんな力が使えるのか頭に浮かぶんだよ。使い方まで分かるから魔法が俺でも扱える。それに、腕力だって半端ない」


 さっき、俺が持ち上げて投げた直径1メートル程の岩を見つめる。


「ふんふん、どうやら魔法の威力はマッツよりはるかに下、力はミアよりはるかに下って感じだけど、俺からしてみたら十分超人的な力だぞ、これ」


 俺はお腹で光る紋章を摩った。

 すごい能力だよ、これ。

 たしかに特殊能力だ。

 魔王の紋章とともに魔王の力が手に入るんだから。

 たださ……

 俺は目を半開きに力なく荒野を見つめ、緩やかな風を全身で受けた。


「全然、使えねぇ能力だな、これ……」


 おれがそう言うと影丸が、何で? というふうに首を傾げる。

 というのも、ものすごい欠点があるんだよ、この能力。

 だってさ、魔王の力が手に入るのはいいんだけどさ。

 問題なのは……


「俺が魔王そのものになっちゃうんだよぉぉぉぉ! 俺が勇者に倒される存在になってどうする!? しかも、魔王が消滅したわけじゃないから、モンスターたちは依然と強いままだろうし、なんの解決にもならねぇぇ!」


 俺は頭を抱えてしゃがみこんでいると、影丸が俺の肩に手を乗せた。


「影丸……」


 影丸は懐から折りたたんだ紙を取り出し、俺に差し出した。


「うん? これは……あ! これマオじゃん! 影丸が描いてくれたの!? すごいそっくりだよ! これなら情報を集めやすいよ! 全然違うよ!」


 影丸が親指を立てる。

 影丸……本当に頼りになるな。

 もう泣きそうだよ、俺。


「よーし! これでマオを探すぞ! 聞き込みをしてマオの足取りを追う! それでこのしょうもない紋章を返して、魔王に戻ったマオを倒す!」


 俺がやる気を出すと影丸も、うんうんと頷いた。



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