第35話 付与された力②


 ああ、特殊能力が役に立つものだったとしても、これじゃどうすればいいんだ。

 特殊……うーん? 特殊?


「リンデマンさん!」


「ど、どうされました? マサト殿、大きな声を出して」


「魔王の紋章って取り外し可能なの? それで他の人にあげられるとか、こちらが奪うとかできるのかな?」


「は?」


 俺の質問に呆気にとられたような顔のリンデマンさんは、マスローさんやカルメンさんの方に顔を向けた。

 するとカルメンさんが、ちょっとあきれ顔になった。


「そんなことは聞いたことがありませんし、あり得ないでしょう。魔王の紋章とは魔王の証であり、魔王の力の源と聞いています。いわばその紋章を持つ者が現れたとき、魔王が顕現したというのです。それがシールみたいにはがせたり、ましてや他人に渡すのなど出来るはずありません。それでは魔王が誰なのか分からなくなってしまいます。魔王は魔族やモンスターにとって唯一無二の存在なのですから」


「……」


 ……大体、分かってきたがするぞ。

 俺の能力って、まさか。

 特殊能力といえば、超特殊なんだろうな。

 発動条件とかは、さっぱり分からないが。

 つまり、俺の能力は……


 魔王の紋章を奪うことができる可能性があるってことか。


 他にどんな効力があるのかは分かんらんが。

 となると、重要なのは……


「もう一つ聞くけど、魔王の紋章は破壊できるのか? もし、できたとしたら、それで魔王を倒したことになるのかな?」


「勇者殿が何を狙っているのかは分かりませんが……ふむ。これは確実なことは言えませんが、そういった記録は聞いたことがありません。ただ、我が国の魔王の情報は少ないです。魔王討伐の経験のある他国には何か情報があるかもしれませんが」


 ぬぬう、それは難しいのか?

 それが出来れば話が簡単だったのに。


「なるほど……勇者殿の言いたいことが分かりましたぞ?」


「え、何が!? マスローさん」


 俺はドキッとして真剣な顔のマスローさんを見てしまう。


「勇者殿は……まさか」


 ゴク……


「魔王があまりに強かった場合を考えて、紋章を破壊できれば魔王を無力化できるのでは? と考えておるんですな!?」


 あ、良かった。

 でも、ちょっとだけ近い考えだけどな。


「そ、そうなんだよ! だって言い伝えだけで聞いても、魔王は相当強いだろ? 何だっけ? ほら、大地を切り裂き、大岩をも砕く、って言ってたよな」


 こちらも切り裂いて、砕いたメンバーいるけど。


「それにどんなレベルの魔王が来るかも分からないし、場合によっては言い伝えよりも強いかもしれない。であれば作戦の幅が広い方がいいと思ったんだよ」


「おお……! 分かりました! その辺は私も調べておきましょう!」


「う、うん、頼むよ、マスローさん」


 ふう~

 でも、実際、その辺ははっきりさせたい。


「さすがはマサトは勇者だな! この会議でそこまで考えるとは! よーし、私も決戦まで剣の鍛錬をしなくては!」


「マサトさん、すごいです! 私も魔法の鍛錬を怠りません!」


 マッツとミアが気合を入れる。

 あんたらは逆がいいんじゃない? 

 鍛錬の方向性というか……職業自体を。


「私も心しておきます、マサト殿」


 君はいいから。

 敵より危険だから。


「では、今日はここまでということで。それまで、それぞれに出来ることをしていきましょう。そうですね、具体的に動くのは勇者殿の能力の判明したあと……ということでよろしいですね?」


 カルメンさんが、そう会議を締めくくり、各々は解散した。


              ◆


 自室に戻り、ベッドの上で俺は考えていた。それは主に二つの点についてだ。

 もちろん、一つは紋章のこと。

 この捨てても戻ってきてしまう紋章は、おそらく本物の魔王の紋章。

 カルメンさんが言うには、この魔王の紋章は魔王の証であり、力の源だ。

 ということは、その意味をそのままとらえれば、これを身につけている俺はやはり魔王ということになる。まったく勘弁してほしい。

 それと、恐ろしいことにこの紋章の元々の所持者だったマオは本物の魔王だったことになる。


「あいつ……魔王であること隠してやがったな! ……あ、隠してないか、自分は魔王って呼ばれているって言ってたもんな。でも、そんな大事なもん、普通、他人にあげるか!? どんな魔王だよ! そんな魔王、聞いたことねーよ!」


 でも……そこで疑問が湧くんだが、その紋章を俺に渡して、今、マオはどんな立場になるんだ? 紋章が俺にあるんだから、あいつは魔王じゃなくなり、魔王の力を失ってるんじゃないのか? 

 それはマオにとっても困るだろう……うん? でも待てよ? 

 そういえば、マオはあの時……

 マオは社長、もとい魔王であることを嫌がってなかったか? 

 すげーストレスで好きでなったわけじゃないと……それに最後の方、記憶があいまいだけど、今、思えばやたら紋章を俺に譲ろうとしていたような。

 ということは……


「あんにゃろう! 俺に魔王を押し付けたのか! お、俺はそれで酒代に目がくらんで……くう! 卑劣な奴だ、マオ! まるで魔王みたいなやつだ!」


 あ……魔王だったっけ、その時は。

 と、とにかく、マオを絶対に探しださなくてはならない。

 探し出して、マオに紋章を返して、あいつが魔王に戻ったら倒して、俺は元の世界に帰る。

 これしかない。

 そんなに悪い奴には見えなかったけど……気も合ったしな。

 でも仕方ないんだ。

 だって俺は勇者なんだ。魔王を倒すのが仕事だ。

 魔王がいることでこの世界の住人も強くなったモンスターに被害にあっているらしいし、良いことはなにもないんだ。

 無理やり召喚されたが、元の世界に帰るためにも魔王を倒さなければならない。

 それに思い出してみると、マオは目つきが悪かった気がする。

 うん、ありゃきっと悪人だ。

 魔王だったんだし悪人代表に違いない。

 よし! やっぱり倒そう。きっと悪人代表だから。

 俺は勇者だから、善人の味方なので倒します。

 今は魔王でもあるけど。

 俺は今、勇者で魔王。

 ということは……俺は善人の味方で悪人代表?


「ええい、ややこしい! マオに紋章を返すぞ! それで倒せばいいんだ」


 俺が一人で息を荒くしていると、ドアがノックされた。

 ドアが開き、アンネが顔を出す。


「マサト様? 今、大きな声が聞こえましたが」


「え!? な、何でもないよ! ちょっと考え事をしてただけだから」


「そうですか……では、お茶でも入れますね?」


「あ、ああ、お願いするよ」


「はい」


 アンネはそう言うとドアを閉めた。

 俺はふう~、と息を吐き、ベッドから降りる。

 それともう一つ考えなくてはならないことがあるんだよな。

 それは俺の能力のことだ。

 おそらく高い確率で俺の能力は魔王の紋章を奪うことができるものだと思う。

 でも、考えなくてはならないのは、それだけなのか? ということだ。

 だって、この紋章は魔王の証であり力の源とカルメンさんは言っていた。

 魔王の力の源……それを今、俺は持っている。


「……使えないのかな? その力」

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