第34話 付与された力


「うん? さっきから何を悶えているんですか? 勇者殿は」


「え!? いや! 別に何でもないよ!」


「まあまあ、カルメン、そうはいっても勇者殿も緊張しているのじゃろう。確かに勇者殿の気持ちも分かる。まだ、勇者殿の付与された力が分かっておらんのだからな。ですが安心してくだされ、勇者殿」


「な、何が?」


 マスローさんはリンデマンさんに目をやると二人は互いに頷く。

 リンデマンさんは資料らしきものを出して説明をしてくれる。


「実は勇者殿に付与されたはずの力を調べる方法を探しておったのだが、少しだけ目途がたってきました」


「え……本当に?」


「勇者殿に付与された力が、ここまで色々やっても何も分からないということから、考えられることは一つしかありません」


「それは?」


「おそらく非常に珍しいケースでありますが、勇者殿……マサト殿の力は、特殊能力が付与された可能性があるのでは? というものです。特殊、と言ったのは、分かりやすい肉体強化や強力な魔力による魔法とは、違う能力のことです。すべてではありませんが、通常の能力は個々の才能を活かし、訓練や修練により後天的に手に入れるものがほとんどです。ですが、特殊能力はその逆で先天的なものが多いのです」


「……特殊?」


「はい、特殊能力というのは、我々の世界でもその力を持って生まれてくる者はほとんどいないほど希少な能力です。そのほとんどは常識や魔法力学から外れた力でございまして、使い方によっては非常に強力なものばかりです。たとえば、マサト殿の代わりにこちらに来るかもしれなかったマサト殿の隣に住んでた者がおりましたが、その者がいい例です」


 ああ、拓也兄さんのことか。

 うん? 

 おい……むしろ俺が拓也兄さんの代わりに来たんじゃ……。


「その者のことです! はい!」


 あ、誤魔化したな、リンデマンさん。


「その者は付与される力の中に【魅了】というものがありましたでしょう? あれは特殊能力のカテゴリーに入るもので、非常に稀な能力です」


「ああ……そういえばあったな、そんなの」


 確かに……あんな能力を持っている人がたくさんいたら、社会が混乱するわな。

 暴動が起きるわ、特に同性からの恨みで。


「特殊能力は多種多様で、まだまだ我々も知らないような能力があるとされています。それでいて、特殊能力を持つ者のサンプルも少ないので、調べようがないというのが現状なんです」


「……あ、なるほど。それで俺の能力が特殊能力ではないかと思ったのはそういうことか。知られている能力を調べても何も反応がなかったもんね。でも、調べる方法がないんじゃな……。しかも、分かっていない能力もあるかもしれないんじゃどうしようもない」


「はい。本来、勇者の場合は召喚の際に、それがすべて召喚巻物に記載されるはずなのですが、マサト殿の場合は例外ですので……」


 例外……あくまで自分たちのミスとは言わない気だな? リンデマンさん。

 この政治家め。


「それと、特殊能力が付与されたことを前提とすると、もう一つ調査が難しい理由があるのです」


「まだあんの?」


「特殊能力のほとんどは発動条件などがある場合が多く、条件が整わないと発動もできないのです。ですので、極端な話、自分に特殊能力があったとしても、それを知らずに一生を終える可能性もあるだろう、と言われています」


「うわー、マジかよ。じゃあ、どうやって調べんの? さっき目途がついたって言ってたけど」


「はい、それはヘルムート・ファイアージンガー先生にお願いして、改めてマサト殿を召喚するんです」


「お、おいおい、もう召喚されてんじゃん、俺」


「いえ、本当の召喚ではなく実は疑似的に召喚術をかけられないかと考えたのです」


「疑似的? 言っている意味が……」


「まあ、簡単に言いますと、召喚術っぽいものを再度実施して、マサト殿に付与された力を巻物に浮き上がらせられないか? というものです」


「うーん? なんか難しいなぁ」


 まあ、あれかな?

 コンピューター上のシミュレーションみたいなものかな?

 こうしたら、こうなるだろうというデータを算出するみたいなことかもしれない。


「まあいいや、俺には難しいことは分からないけど、お願いするよ。俺も自分の能力を知りたいし、知らないとただの人だからな。これじゃあ、魔王討伐するっていっても作戦が立てられないし」


「分かりました。準備も進んでますので、近日中にできると思いますぞ」


 それにしても、特殊能力か……

 それってどんなものか分かっても、役に立たないものだったらどうするんだろう?

 そうしたら、俺、魔王の紋章を探す探知機としてしか使えないんじゃないか?

 その紋章、多分、俺が持ってるけど。

 今は俺が魔王だけど。

 ううう、なんでこんなことに……

 異世界に勇者として召喚されただけでもあり得ない事態なのに、魔王の紋章も持っていて、結果、俺が魔王ってどういうことなの?

 勇者が魔王で、魔王が勇者?

 もうカオスすぎて何がなんだか……

 あ、胃が痛くなってきた。


「え? 泣いているんですか? マサトさん」


「泣いてないよ、ミア」


「でも、涙が」


「俺たちの世界ではこれを心の汗っていうんだよ」


「はあ」


 ミアは首を傾げているが、俺は放っておく。

 ごめんな、ミア。今、俺は正直、いっぱいいっぱいなんだよ。

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