第31話 魔王討伐会議④
「いえ、魔王はそれぞれ全く違う姿と違う特徴を持っています。たとえば先ほど言った三回も魔王が顕現したアルマディーン帝国の魔王はすべて得意能力が違ったと言われています。一番最初の魔王からいうと炎魔法、二番目は強化魔法、三番目は岩壁魔法でした。また、その姿も人型、牛人型、亀型だったそうです」
「おいおい、まったく共通点がないじゃん!」
「はい、近年、東の隣国オワーズで現れた魔王は悪魔型だったと聞いております」
「ああ、女勇者が倒したっていうやつか」
「はい」
「じゃあ、魔王がどいつか分からないじゃん! カルメンさん」
「確かに見た目ではそうですが、一つだけ共通点があります」
「え? ああ、さっきリンデマンさんが言ってた印? ってやつ?」
「そうです。魔王にはそれぞれ紋章がその体のどこかに刻まれているとの話です」
「紋章……か」
「はい、といっても紋章はそれぞれ特徴が違っていてまったく同じではありません」
「ええ!? それじゃ意味ないじゃん!」
「いえ、ですが、魔王の紋章には共通点があるんです。その文様の中心は変わりません」
「ほほう、どんなの」
「これがその形です」
カルメンさんが映像を切り替えると、テーブルの上にその魔王の紋章が大きく映し出された。
「紋章のこの中央の部分、これがすべての魔王に共通します」
「ふむふむ、なんか幾何学模様のような……うん?」
あれ? どこかで見たことがあるような……。
「はい、ただ、この紋章が体のどこに浮き出ているのかまでは分かりません。何をしているのですか? 勇者殿、汚い腹なんか出して」
「汚くなんてないわ!」
俺は腹を慌てて隠しながら言い返す。
「じゃあ、何をそんなに汗をかいているんです? しかも震えてますよ? 怖いんですか? 勇者殿」
「ななななな、何でもないよ? うん! ちょちょちょっと暑いなって思っただけで……」
「そうですか……まあ、どうでもいいですが」
カルメンさんはなんか俺に厳しいよな。
まあ、いい。
今はそれどころじゃない。
何故なら、何を隠そう、俺は今、視点が合わないくらい狼狽えているので。
だってさ……マオからもらった俺のこの腹にある紋章……、
これ……、
魔王の紋章そっくりなんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
◆
「ここからが本題です。今後の事ですが、魔王の居場所が分かり次第、勇者を中心にした討伐部隊を編成します。勇者殿、聞いていますか? 顔色が悪いですが」
「え!? ききき聞いてるよ!」
「……そうですか、では続けていきます」
カルメンは話を再開し、ミアたちも再び耳を傾けている。
俺はそれどころじゃないけど!
早く部屋かトイレにでも行って、この紋章をじっくり見てみたい。
もし、これが魔王の紋章だったら、俺はどうなるの? 何者なの?
いやいや、その前にこの紋章の持ち主はマオだ。
何故、マオがこんな紋章を持っていたんだ?
だってあの人、会社の社長だよ? しかも大企業の。
そんなやつが魔王の紋章って……それじゃまるでマオが魔王だったみたいじゃないか。
「………………うん?」
いや、待てよ?
あの時、酔っていて適当に流してたけど……
マオは部下から何て呼ばれてたって言ってたっけ……確か、
“俺も魔王様って呼ばれてるからね”
………………。
…………。
……。
あいつぅぅ! 本当に魔王だったのかぁぁぁぁぁ!!!!
じゃあ! この紋章は本物!?
いやいやいや、待て待て、さすがにそんなことはないだろ。
落ち着け、俺。
魔王が自分の紋章をくれるわけがないよな。
普通に考えてはがれる紋章なんて紋章じゃねーよ。
だってマオだぜ? あんなのが魔王なわけがないわ。
それに魔王って人族最大の敵だろ? とても邪悪な存在だろ?
そんな魔王があんな居酒屋にいるわけないよ。
俺は腹の中で光を放っている紋章に手を当てる。
うん、早く捨てよう。
偽物だろうが、こんなものあったら俺が魔王って疑われるわ。
「あ、ごめん、ちょっとトイレ」
カルメンさんが軽くムッとしたような顔をしたが、この際、仕方がない。
俺は立ち上がり、一目散にトイレに直行した。
王宮内の無駄に派手なトイレに入ると、すぐに俺は腹を出した。
「うわ……やっぱり間違いなく魔王の紋章に見えるな、これ。しかもよくできてるわ。体に沈んでると本物の紋章にしか見えん」
俺は紋章をはがして摘まみ上げる。
マオの野郎……とんでもない悪戯をかましてくれたな。
「ったく!」
魔法で作り上げられた、日本で言うところの水洗トイレに紋章をポイッと投げ捨てた。
勘弁してくれよ、心臓が止まるかと思ったじゃねーか。
マオめぇ、今度、会ったらとっちめてやるからな!
「ああ、ごめんなさい、カルメンさん」
俺は会議室に戻り、席に座った。
「いえ……では再開します」
ふう~、焦ったなぁ。でも、良かった。
あらぬ疑いをかけられたら大変だっただろうし。
俺はお尻のポケットにアンネが用意してくれたハンカチを出して汗を拭こうとした。
「ぬわぁぁ!!」
俺は思わず悲鳴を上げてしまう。
皆も驚き、マスローさんやリンデマンさんは椅子から落ちそうになり、ミアたちも大きく目を広げている。
「……何ですか? 勇者殿」
カルメンさんがイラっとしたように眼鏡に手を添えた。
「ご、ごめん! またトイレ!」
俺はまたしても一目散にトイレに直行した。
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