第30話 魔王討伐会議③


「おお、すごいな。これも魔法かぁ」


 俺が驚いていると、隣に座るミアから嬉しそうに補足の説明をしてくれた。


「はい、マサトさん。これは魔力と親和性の高い水晶などに映像記録を閉じ込めておく魔法技術なんですよ。昔は最高技術だったらしいのですが、今では魔法学園の教科書にも載っているぐらいメジャーな技術なんです。僅かな魔力でできますし」


「へー、すごいな。俺の世界でもこんなのは一般化してないぞ」


 ミアのニコニコしながら説明しているのを見ていると本当に魔法が好きなんだな、と思う。クリッとした目が可愛らしい。

 でもこう考えると、こちらの世界の生活レベルとかよく分からんな。

 今のミアの話だと、魔法を使えれば録画とかも結構簡単にできるってことか?

 見た目よりも洗練された生活を送っているのかもしれない。


「じゃあ、ミアもこんなの作れんの?」


「あ……いや……私は、やり方は知っているのですが……うまく魔力が」


「……うん? さっき僅かな魔力で簡単にできるって言ってなかった……はう!」


 ミアの目の周りに暗黒が形成されていくのが見えて、俺は仰け反った。


「あ! 俺にはよく分からないが、あれなんじゃないかな!? ミアの魔力は強大すぎて、こんな石ころに詰め込むのは難しいんだよ! うん!」


 ミアの顔の影が薄れていき、中から可愛い笑顔の少女が現れた。


「あ、そうなんですね!? 勇者のマサトさんが言うことが正しいのかもしれません! 学園では説明が難しくて、私に理解できるように言ってくれなかったんです。そうかぁ、それで私はこの簡単な魔法もできなかったのですね? 初めて合点がいきました。ありがとうございます! マサトさん! さすが勇者です」


「お、おう……」


 俺は魔法のド素人だけどな。


「ち、ちなみに学園ではどんな説明を?」


「はい……魔力が少なすぎる、って。本当に何を言っているか、難しすぎて分かりませんでした」


「……」


 それが分からないのは、魔法使い以前に人間としてどうかと思うぞ、ミア君。

 おそらく、脳が全力で拒否しているんだろうな、自分の認めたくないことを。


「よろしいですか? それでは今後の事を話し合っていきたいと思います」


 カルメンさんが映像に指示棒を向ける。


「まず、改めて現状をお話します。その上で色々とこちらにも準備が必要ですが、魔王討伐のための作戦を練っていきたいと思います」


 カルメンさんは眼鏡に映像を反射させつつ、説明をしていった。


 まず、半年ほど前からカッセル王国内のモンスターが明らかに強くなったことが報告されたのが、魔王の誕生を疑う発端だったという。


「既に魔王顕現の経験のある各国によると魔王が誕生するとその兆候が出てくると言われています。それはまず、その国のモンスターが強くなる。言語能力等のモンスターの知性が上がる。活動範囲が広がるということがあります。現在はこの段階だと考えます。そして、その後、魔王という盟主を得たことでモンスターたちは組織的な行動をとり始めます。また、それに合わせて居城を築くことが知られています。別名魔王城と言われていますね」


「ちょっといいか?」


 俺は手をあげた。


「どうぞ」


「現状でその魔王城が築かれている可能性は?」


「五分五分ですね。各国の魔王に関する文献では、魔王誕生から遅くとも一年以内に魔王城が完成すると言われています」


「もし、築かれたとしてその場所はどうやって見つけるんだ?」


「その辺は私から」


 リンデマンさんが口を開いた。


「その探知魔法が完成されている国がありましてな、かつて三回も魔王が顕現したカッセル王国の北にあるアルマディーン帝国で魔王の居場所を探知する魔法があったのです。完全に正確というわけではないが、大体の方角や大体の居場所が分かるというものです。それをマスロー宰相閣下の命令で研究していましてな、もうすぐ出来上がりそうだと報告を受けております」


「うわ、魔王が三回も現れたのかよ。その国、呪われてんなぁ。でもまあ、へー、よくもそういったもんが開発できたなぁ」


「はい、私もその辺は専門ではないですが、何でも魔王には共通した印があるそうで、それを探知することらしいのですが詳しいことは私にも……」


「ふーん」


「よろしいですか? では続けます。それでは今後の大目標ですが、これ以上、放っておけばモンスターは強くなるばかりで、また組織的になっていきます。ですので、手ごわくなる前に魔王をできるだけ早く倒すことが必要です」


 まあ、言っていることは分かるが、問題はその魔王を倒せるのかってことじゃないの?

 だって強いんだろう? 魔王自体も。

 それでこのメンバーが中心になってやれって……。

 俺はチラッとマッツたちを見つめる。


「おお! 私の剣で魔王に一太刀浴びせる時がついに来るか!」


 多分、来ないと思うぞ、未来永劫。


「私も魔法で皆さんを後方から援護します!」


 うん、出来れば最前線で拳を振るってほしいな。


「私は皆さまに補助魔法をかけつつ、悪しき敵に傷ついた皆さまを癒していきたいと思います。ハアハア……」


 お前のがいる限り死んでも怪我は出来ん。

 というか、何で息が荒いの?

 何を想像しているの? この変態プリースト。


「カルメンさん、言っていることは分かったけど、まあ、色々なことはこの際、省略して……」


 本当はこの省略したところが一番、大事なんだどな……はあ。

 俺の実力も今のところ一般人だしな。

 勇者として付加された力なんてものは、もう期待しないでいった方がいいな。

 魔王との戦いを急ぐならなおさらだ。


「魔王ってどんな姿をしてるんだ? 会えば必ず分かるのか? 決まった特徴とか、必ず名乗ってくれるとか」



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