第28話 魔王討伐会議
「……う」
俺は目を覚まして、ベッドの布団からモゾモゾと上体をあげた。
うげー、気持ち悪い。頭がガンガンする。
まだ覚醒しきってないのか、自分がどこにいるのか、分かっていない。
「目を覚まされましたか、マサト様。こちらをどうぞ」
俺は横から水を差しだされると、喉がカラカラなことに気づいて一気飲みをした。
「ふう……あ痛たたた。頭が痛い……って、あ……」
ここは王宮内にある自分の部屋だ。
「昨日は全然、お帰りならないので私も心配しました」
「あ、アンネ」
ベッドの横ではあきれ顔で俺を仁王立ちしているアンネの姿が。
「あれ? 俺はたしか……」
あ、思い出した。
あの飲み屋でマオと閉店で追い出されるまで飲んでたんだった。
しかも、途中から店の中にいた人たちとも仲良くなって、ドンチャン騒ぎをしていたような……。
「うわ、俺、どうやって帰って来たんだ!?」
「影丸が担いで連れてきてくれたんですよ。泥酔状態のマサト様を」
「ありゃ……」
アンネは形の良い眉を寄せて、明らかに不機嫌そうだ。
アンネは俺のお付きのメイドさんだから、責任もあるだろうし、ひょっとしたらとてつもない迷惑をかけたのかもしれない。
「マサト様は勇者様でもあるんですから、ハメを外すなとは言いませんが、もう少し自重してください。私も帰って来られるまで気が気じゃなかったんですよ?」
「……ごめんなさい」
俺は素直に謝る。
アンネに迷惑をかけたのはちょっと胸が痛い。
だって、よく見ればアンネの目は充血していて、明らかに昨日は寝ていないようなのだ。
「もう……逃げたのかと思いました」
「へ?」
「……いえ。マサト様、とりあえずお風呂にでも入られたらどうでしょう。その間にお食事の準備をしますから。それと今日は宰相閣下から今後の事でお話をしたいとの言伝を預かっております」
「マスローさんから?」
「はい」
なんか現実に帰った感じだ。
そうだった……俺はこの国の勇者だった。
どんな理由であれ、俺に魔王を討伐してほしいという基本方針は変わらない。
今後の事、というのは魔王討伐のことだろう。
それに俺としても、それを達成しなければ元の世界には帰れないんだよな~。
「分かった、とにかくお風呂に入ってくる」
「では、着替えを用意しておきますね」
この部屋に隣接するように客人用のお風呂があり、俺はすぐに重たい頭に手をやりつつ、一人で向かう。
実は当初、お風呂に入ろうとした際、アンネの同僚らしい侍女たちが、着替えやら何やらを手伝おうとしたり、お風呂の中まで世話を焼きに来ようとしたのを必死に断ったばかりだ。
お風呂ぐらい一人でゆっくりしたいんだよ。
しかも、この世界のお風呂は湯舟が充実していて、日本人の俺としては馴染みやすく気持ちがいい。
しかも、魔法なのか技術的なものなのかは分からないが、蛇口からはお湯もでてくるし、日本の時ほど穴は細やかじゃないがシャワーもあるのには驚いた。
俺は脱衣所で服を脱ぎ、素っ裸になると、まず体をお湯で流した。
「ふひー、目が覚めてきた……うん? なんだこりゃ」
俺は自分のへその上にある不思議な模様に気づいた。
「……あ! これマオにもらった紋章だ! そうだ! マオに無理やり腹に貼られたんだった」
俺はマオに譲られた腹にある紋章を摘まむと、ベリッとはがす。
「こんなもの貼ってたら恥ずかしいわ」
酔いも冷めて見ると、尚更こんなものを体に貼るのは恥ずかしい。
この世界の人間の常識はよく分からんが、俺は無理。
そう思って、マオには悪いがお風呂内にある排水口に流した。
まあ、この紋章と言っても紙とは感触が違うがシールみたいな感じだし、柔らかいし、詰まることもないだろうから大丈夫だろう。
おれは湯舟に首までつかる。
「ふい~、ああ、悪いものが出て行く感じがするよ~」
やっぱり風呂はこうじゃないとな。
気持ちいい。
「それにしても、昨日は盛り上がったなぁ。あのあと、マオはどうしたんだろうか? また会えるよな?」
あんな飲み屋で大企業の社長と友人になれたのは本当にラッキーだったな。
実際、お酒も奢ってもらっちゃったし。
ここまで考えて、俺はあることに気づいた。
「あああ!! どこの会社か聞くの忘れてた! これじゃ、どうやってマオと連絡を取るのか分らないぞ! しかも会社のロゴっぽい紋章も捨てちゃったよ! こんな人脈、滅多にないはずなのにぃ!」
なんて馬鹿なんだ俺は!
湯船から出て紋章を流した排水口を確認するが、もう流れてしまっていて姿も形もない。
「あちゃー、ううう、仕方ない……。また、飲み屋に行けば会えるかもしれないし」
俺は諦めて再び湯船につかった。
ようやく二日酔いの体と頭をシャキッとしてきた。
「よし、でるか」
俺は風呂からあがり、脱衣所に戻り着替えようとアンネが用意してくれた服に手をかけると、
「え!? これ……」
俺は驚いた。
というのも、俺の服の上に……マオからもらった紋章が置いてあるのだ。
「これ、さっき流しちゃったはず」
俺はワッペンのようになっている紋章を手に取り見つめる。
間違いない。
これはマオにもらった紋章だ。
「あれぇ? 誰か拾って持ってきた……いやいや、排水口に流したものを誰が拾ってくるんだよ。どこかで見つけたとしてもこんなに早く、しかも俺のものだとも分からないだろうし……ここには誰もいないし」
「マサト様、あがられましたか? 申し訳ないのですが、この後の予定もございますので」
出口のところからアンネの声が聞こえてきて、俺は我に返った。
「あ、分かった! すぐに行くよ!」
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