第27話 マオの紋章③


 マオは俺の顔をジーと見ていたが、俺が帰ろうとするような態度を見せた途端、あたふたし始める。

 そして、マオはピンときたような顔をした。


「お姉さん! 麦酒2つちょうだい!」


「はーい」


「お、おい! マオ、俺はもう……」


「大丈夫だ、マサト。ここは……俺のおごりだ」


「え!?」


 本当に?


「ああ」


 じゃあ……もうちょっと飲んでも大丈夫?


「マオ、もしかして……全部?」


「……全部だ」


 おお!

 そういえば大企業の社長だもんな。

 さすが金持ち、しかも気前がいい!

 俺の表情筋が緩んでしまうぞ。


「ところで、マサト、この紋章を受け取ってもらえないか?」


「ああ! もちろんだ!!」


 お安い御用だぞ!

 後で捨てればいい……いや! マオの新しい自分探しの門出だから!

 目の前のマオはガッツポーズしている。

 何がそんなに嬉しいんだか。


「マサト! それで紋章を貼って見せてくれないか?」


「え? 今? それは……」


「ほらほら、いいから、いいから、多分、似合うから!」


「こ、こら! マオ、勝手に……あひゃひゃ、くすぐったい! 止めれー!」


 マオは俺の上着に手をやって、結構な力で俺の腹に紋章を押し付けた。


「あ! なんだよ! 変なところにつけんなよ!」


 紋章は俺の腹に沈むように張り付き、ボワッと光を放った。


「まあまあ! 後で貼る場所を変えればいいだろう? おお……よし!」


 マオは自分の両手を広げて、感動している。


「なんだよ……もう」


「はーい、麦酒、お待ちぃ!」


 お姉さんが麦酒のジョッキを俺たちの目の前にドンと置いた。


「おお! 待ってました! マオ、いいんだよな?」


「もちろんだ、マサト! どんどん飲め! 全部、俺のおごりだからな!」


「ヒャッホー!!」


「いやー! マサトに会えて良かった!」


「おいおい、こっちのセリフだぜ! マオ」


「「イエーイ! かんぱーい!!」」


 チーン! ジョッキを鳴らし、天に掲げるようにジョッキを持ち上げる。


「新たなる魔王に!」


「え? 何だって?」


「何でもない! マ、マサト! まだまだ飲めるか? いくらでもいいぞ!」


「マジでか!? いきつくとこまでいくぜ!」


 明日はたしかマスローさんが今後のことを決める重要な会議があるとか、なんとか言っていたような気がするが、これはいいだろう! お祝いみたいなもんだし!


「じゃあ! いくぞ! 向こう側まで! 俺の解放記念でもあるしな!」


「おお! そうだ!」


 俺とマオはニンマリとして目を合わせ、


「「ヒャッハー!」」


 と奇声を上げた。


「そこの二人、うるさいよー! 他のお客さんに迷惑!」


 お姉さんに怒られた。

 この後、俺たちはしこたま飲んだ。



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