第25話 マオの紋章
「おお、これが! よく分からん幾何学模様だが、なんか格好いいな! 光ってる、光ってる」
「まあ、そうなんだがな~、でもこいつのせいで俺は毎日が憂鬱だ、ヒック。これが出てきたのが俺の不幸の始まりだし。もう、こんなもん、とれりゃいいんだけどなぁ」
「マオ、触っていいかぁ?」
「あ、触んなよ! 一応、これ大事なもんなんだぞ! それに触っても別に手触りは変わらんって、あ!」
俺が紋章に人差し指でつつく。
うん、確かに普通の腕を触っているのと何ら変わりはない。
おかしいな、彫ってるなら何らかの凹凸とかないのか?
まあ、入れ墨とかの知識は俺にはないからな、そんなもんなのかもしれない……うん?
今、光が増した?
「ってあれ!?」
「うん? あ!!」
俺たちは驚いた。
というのも俺が紋章に触っていると、紋章が浮き出てきたので。
マオも驚いてるってことは、あり得ないことなのか?
「何これ? 埋め込み式だったの? 何か取れそうなんだけど」
「そんなわけあるか! 紋章だぞ! しかも魔王の紋章! 魔王の証なんだから! あ、でも浮きあがってきてる!?」
え、取れないの? まあ、そりゃそうだよな。
最初に触ったとき、左腕に描かれているという感じだったしな。
でも、今は紋章はその形のまま、形状はバッジ……いや、厚みのあるワッペンみたいな感じにマオの左腕にまるで張り付いているみたいに見える。
俺はなんとなしに、その紋章を摘まんでみようと試みた。
あ……摘まめるぞ、これ。
「え? え?」
マオが目を剥いてこの現象を見ている姿が面白い。
マオの驚き具合が面白くて、俺は悪ノリしてきた。
ぷっ、驚かしてやろうか。
「えい!」
俺は摘まんだ紋章を勢いよく、引っ張ってみた。
すると、
紋章はベリッ! と音をたてて……
「「うわぁぁぁ!! 取れたぁぁぁぁぁ!!」」
「お客さん、うるさよ~」
紋章が取れてしまった。
◆
「うおい! 何てことしてくれたんだよ! マサト! というか何で紋章が取れるんだ!? こんなの聞いたことないぞ!」
血相を変えてマオが怒鳴ってきたが、俺もとれるとは思ってなかった。
「わわわ、ご、ごめん! だって本当に取れるとは思ってなかったんだよ!」
だって体に浮き上がってた感じだったのに!
でも……これ、普通のワッペンとかシールとか、そんなものにしか見えん。
ただ単に元に戻せばいいだけなんじゃないか?
「これ、また貼ればいいんじゃ……」
俺はマオの紋章のあった左腕にもう一度、張りなおしてみた。
すると……紋章が若干、光をまとい、
「ほ、ほら! 戻ったぞ!」
「あ……! あれ? 本当だ」
「おお、中に埋め込まれていって元の紋章らしくなっていくぞ?」
それをマオも不可思議なものを見るような目で凝視し、そしてホッとしたような顔になった。
俺も完全に元通りになった紋章を見る。
「不思議な現象だな、こういう紋章もあるのか? 取り外しが自由な感じの」
「いやいや! こんなのは聞いたことがないぞ? というより非常識だ。マサト……お前、一体、何をしたんだ?」
「何にもしてないよ! ただこうやって普通に」
俺はもう一度、紋章を摘まむようにして引っ張ってみた。
するとベリッと音がし……
「ほら、簡単に取れる」
「取るなぁ!!」
「でも、普通に取れるんだもん、これ」
マオが驚愕に染まり意味が分からない! という顔をしている。
俺は剥がした紋章を見つめ、なんとなしに自分の左腕に貼ってみた。
紋章は俺の腕に沈んでいくような感じで、マオの左腕にあったときのように馴染んでいく。
「おお、俺にも貼れるぞ、これ」
「はあああ!? んな馬鹿な! ……て、あれ? この感じ……」
「どうしたの? マオ」
「いやいや! そんなことが!? し、しかし確かにこの感じは俺が魔王になる前の感覚と同じ……?」
マオが俺を無視して自分の両手を見つめている。
「何だよ、どうしたんだよ」
「あ……魔王の力が、魔王になった時に得た魔王特有の力が出ない……?」
「何を一人でブツブツ言ってんだって、マオ?」
マオは考え込んだ仕草の後、俺に顔を向けた。
「マサト!」
「うわ! なんだよ!? 驚かせるなって」
「紋章をもう一度とって、俺に戻せるか?」
「う、うん? いや、そりゃできるだろう。これぶっちゃけシールかワッペンのようなものにしか見えんし」
俺は普通に、今は自分の左腕にある紋章を摘まんで剥がすと、マオの左腕に貼った。
「ほら、戻った」
マオは、おお! と声を出すと、また自分の両手を見つめた。
何をやってんだろう?
「……力が……戻った」
「マオ?」
「……ということは、まさか、紋章が取れれば俺は魔王を辞められる? 本当に?」
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