第23話 悩める者たちは出会う③


「ウイ~、それでさマオにだけには言うけどさ、それで俺、みんなに勇者って呼ばれてんだぜ?」


「は? 勇者? マサトが?」


「……ああ、あなたは勇者だって」


「プッ! プププ! ギャハハハ! マサトが勇者って! ヒー!」


「な、何だよ、マオ! 笑うなよ! 俺だって好きで呼ばれてんじゃねーぞ! 周りが勝手に! 俺だって勇者なんて呼ばれたくねーよ! 誰かに代わって欲しいわ!」


「だって勇者だぞ!? それ、周りはお前のこと馬鹿にしてんぞ! ヒー!」


「何だよ! こっちは深刻に悩んでるのに!」


「プププ……クー、ああ、すまんすまん!」


 ああ、言うんじゃなかったよ!

 そりゃ、俺もこんなこと言われたら笑うかもしれんが。

 俺が頬を膨らませていると、泥酔気味のマオが腹を抑えながらこちらに顔を向けた。


「そんなに怒るなって。それなら俺も言うが、俺も魔王様って呼ばれてるからね」


「は? 魔王?」


「おお、魔王様だ」


 俺は呆気に取られてマオの顔を見ると、腹の底から湧きあがる衝動に耐えられなくなる。


「ブッ! 魔王? 魔王って! ギャハハハ! そりゃマオって名前からモジって言われてんだよ! ヒー」


「そ、そんなに笑うことないだろ! お前が言うから教えてやったのに!」


「だって! ヒー! マオ、それは部下に馬鹿にされてんぞ! 意外に部下に厳しいんじゃないのか!? マオは。それで変なあだ名を付けられてんだよ! ギャハハハ!」


「そ、そんなことはないぞ! それに俺も好きで呼ばれてんじゃねーよ! 勝手に呼んでんだよ! 俺だって魔王辞めたいわ! 誰かに代わって欲しいわ!」


 マオがそう言った途端、マオの左腕の辺りがマオの服の袖の中で光った。

 俺は何だ? と思ったが、今はそれどころじゃなった。

 俺はしきりに笑った後、ぶーたれているマオに謝りながら、肩に手をかけた。


「でもさ、それなら、俺は勇者でマオは魔王様。ということは……プッ」


「うん? ああ、それなら……俺たちは魔王と勇者! 敵同士ってか!」


 俺とマオは鼻を膨らませて互いに見つめ合うと、体が震えだす。


「「ギャハハハハハハハ!! 超ウケる!」」


「お姉さん! 麦酒おかわり!」


「あ、俺も、俺も!」


「はーい! ちょいお待ちぃ!」


「俺、ここに来て本当に良かったよ、マオ。何故ならマオに会えたからな」


「ああ、いい出会いだ」


「「かんぱーい! ヒャハハハ!」」


 さらに酒はすすみ、俺たちは完全に泥酔状態。


「うい~、いやあいい気分だな! マオ」


「そうだな、マサト! ヒック」


 俺とマオはカウンターに並べられたジョッキの山に埋もれていた。

 俺はマオをジーと見つめる。


「どうした? マサト」


「いやさ、さっきから気になってたんだが、うい~、このマオの左腕に光っているのは何だあ?」


 俺に指摘されてマオも初めて気づいたようで、虚ろな目で自分の左腕を確認した。


「ああ? ありゃ、魔王の紋章が光ってら、ヒック」


「うい~、魔王の紋章だあ? そんなもんあんの? この世界の常識はよく分かりゃん」


「お、おかしいな~? ヒック、これ普通、出てこないんだぞぉ~?」


「へ~、ヒック、いつ出てくんの?」


「そ、そんなの決まってるだろ、ヒック。俺が力を使うか、勇者に会ったときだけだぁ」


「……プッ、じゃあいいじゃん。俺、勇者だから」


「……プッ」


「だろ?」


「だな」


「「ぎゃはははは! ヒー! 超ウケる~!!」」




「そういえばさぁ、マオのところの部下ってどれくらいいるの? 会社はこの近く?」


「ああ? 会社? ヒック、ま、いいか。部下はな……うーん、そうだなぁ~、正式に数えたことはないが、俺の直属以外の連中もいるからなぁ」


「へー、子会社まであんにょ? それじゃ思ったよりマオって偉い人なんじゃ……?」


「まあ、全部含めれば万はいってると思うぞ? ヒック」


「マジか!? 超大企業じゃん!」


 うわー、ひょっとして俺、凄い人と友達になっちゃった?

 これは知らなかったとはいえ、とんでもない人脈できちゃったよ。

 勇者と大企業の社長が友人かぁ……。

 あ……なんか、あんまり良くない風聞が流れそうだな。

 勇者と企業の癒着みたいな?

 そんなことを考えていると、マオの左腕がさっきよりもさらに光量が増していることに気づいた。

 俺は段々、その紋章? ていうものが気になってきた。

 何なんだ? これは。

 俺の知らないこの世界での常識があるのか?

 しかもマオは魔王の紋章って……?

 いや、さっきまでの話の流れからすれば……。

 俺は酔いと戦いながらも、段々、頭をまとめてみる。


 ——ハッ!


 まさか……そうか!


「うん? どうしたんだ? マサト、変な顔をして……ヒック」


「マオ!」


「わ! ど、どうしたんだよ」




「自分の体に会社のロゴを彫っちゃうとか、すげーな!」




「は?」


「しかも、光るって超カッコいいじゃん! あ、魔法か? それってトップの証なんだろぉ~? 凄いよ! 俺って偉いからって見せつけてるんか? 部下とかに。それか自らが広告塔になるつもり? リーダーが率先していくタイプなんだな! マオは」


「何を興奮しているのか分からんが……そんなに凄いか? これ」


「すげーよ! 決まってんじゃん! 自分の会社にそこまで……というか、そんなところに紋章彫っちゃってバンドのリーダーみたいだな! マオは格好いいなあ!」



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