第22話 悩める者たちは出会う②


 いいねぇ、このおっさん。


「おおー、おいちゃん、いい飲みっぷりだねー」


 俺はいてもたってもいられず、このおっさんに話しかけた。

 今、考えれば俺も相当、酔っぱらってたんだろうなぁ。


「……うん? 誰だ、貴様は」


 おっさんはあからさまに警戒心丸出しで俺を睨んだ。

 普段の俺ならここで謝ってひくところだが、今の気分最高の俺には通用しない。


「まあまあ、そっちも独りっぽかったからさぁ、ここは一緒に麦酒の乾杯といこうや! お姉さーん! 俺にも麦酒ちょうだい!」


「はーい!」


「おい! 何を勝手な! 無礼だぞ、貴様!」


「はいはーい、そんなこと言わずに仲良くしようぜぇ~、お、ありがとう、お姉さん! んじゃ、俺たちの出会いに……かんぱーい!」


 俺はおっさんのジョッキに構わず俺のジョッキを押し当てた。


「な! おいこら! 俺は別に貴様と飲むつもりは……」


 おっさんはそう言いながらも麦酒をあおる。


「ぷはー! ……おい! 貴様、こっちに来るな。俺は一人で楽しむ方が……」


「かぁーー! 美味いぜ! おっさんもそんなこと言って、いい感じに飲んでたじゃん! 恰好良かったよ!」


「き、貴様、だから俺の話を……」


「お姉さん! おかわりぃ! あ、2つね!」


「貴様ぁ!」


 十数分後……


「いやぁー! 美味い! 貴様もやるな!」


「いやいや、おっさんには負けるぜ!」


「そんなことはないぞ? これはあれだ、貴様と飲んでるのが、酒をより美味くさせているんのだな、うん」


「おいおい……おっさん。嬉しいこと言ってくれじゃねーか! お姉さん、おかわり持ってきて! これは俺のおごりだ!」


「はーい! 二人とも仲がいいわね!」


「「いえーい!」」


 すっかり意気投合しました。


               ◆


「それでさぁ、部下は好き勝手言うし、もう本当にストレスだわ!」


「そうかー、おっさんもなんか大変だなぁ」


 俺たちは段々、身の上話にまで発展し、今おっさんの愚痴を聞いている。

 どうやら、このおっさんは会社かなんかの社長みたいだな。

 こういうのはどこの世界も同じのようだ。

 さっきとは違っておっさんが肩を落としていて俺は不憫に感じた。


「まったく、こっちは好きでトップになったわけじゃないのに。相手を倒せとか、俺ならできる、とかこっちの身にもなってくれよな」


「ははーん、そら好戦的な部下たちだなぁ、競合会社を倒せって……。おっさん、たまにはトップとしてガツンと言ってやったらどうだ?」


「それがさあ、みんな俺より能力高いんだよ。それでいて勝手に俺の方がすごいに違いないと勘違いしててさ」


「うわ、そりゃ質悪いな。しかも自分より優秀な部下って、コントロール難しそうだわ」


 俺たちは麦酒をあおる。


「ぷはー! 分かってくれるか、貴様」


「クゥー! ああ! 俺の境遇も似たようなところがあるから、すげー分かるよ! おっさん」


「そうか、お前はいいやつだな。そういえば貴様は名はなんというのだ?」


「あ、そういえば話に夢中で名乗ってなかったな! 俺は宗谷雅人だ。雅人って呼んでくれ」


「マサトか、変わった名前だな」


「おっさんは?」


「俺か? 俺には名前はないんだが……」


「は?」


「いや、そうだな……まお……うーん、あ! ウサマ・マオだ。お前は特別にマオでいいぞ!」


「おお、マオよろしく!」


「マサトもな!」


 俺たちは互いのジョッキを当てて鳴らし乾杯をした。


 時間が経ち……、


「ウイ~、マサト、お前を気に入ったぞ! マサトは特別に俺の部下にしてやろう! フハハハ」


「ヒック! おいおい、そりゃありがてーな! しかも社長のお気に入りときた! ひゃははは!」


 俺たちは肩を組み合いながら、麦酒を飲み干した。


「それにしてもマサト? ヒック」


「何だマオ?」


「おまえさっき、お前も俺と似たような境遇とか言ってたが、あれはどういう意味だ?」


「おお! よくぞ聞いてくれました! お姉さん、おかわり~」


「俺も! お姉さん!」


「はーい、ふふふ、二人とも強いわね!」


「いやさ、俺もこの国の都合でさ、いきなり呼びだされてさ。挙句の果てに無理難題を押し付けられて、それで仲間を紹介されたんだけど、こいつらがまた能力は高そうなんだが……個性豊かで」


「ほほう……それは災難だな。確かに俺とよく似ている」


「それでそいつらと一緒に中心になって仕事をしろって言うんだよ!」


「うわー、ひどい話だ」


「しかも俺、大した力も能力もないんだよ! それなのに!」


「あ、それすごい分かる! それで周りが勝手に盛り上がってるんだろ?」


「そう! 俺の事情とか気持ちとかお構いなし! 俺もできればやってやりたいという気持ちもあるんだよ? 困っている人たちもいるみたいだし。でもさ……」


「ああ、なるほど……仕事を達成する実力も自信も持てない、と」


 俺はカウンターのテーブルを両手で叩いた。


「そうなんだよ……もう! マオ、俺どうしたらいいんだよ」


「まあまあ、マサト落ち着け。取り乱してもいいことはないぞ?」


 マオが俺の肩に手を優しく置く。


「ヒック……マオ……ありがとう。そうだな、それは俺もよく知っていることなのに……酒のせいかな。ちょっと、感情的になったよ」


「なになに、そんなときもあるさ、マサト。……ヒック」


 マオが俺にウインクをして、俺も笑みを返した。

 俺たちは麦酒の入ったジョッキを直角に傾けて飲む。


「「お姉さん! おかわり~!」」


「はいはーい」

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