第9話 俺、少しだけやる気だす②
「魔王討伐の、ね」
俺はいきなり現実に戻された。
やっぱりやらなきゃダメなんだな。
まあ、そりゃそうか、なんだか思ったより適当そうに見えてはいたが、この国にしてみれば魔王が現れて一大事だもんな。それにそのために俺を呼んだわけだし。
それに俺だってやっぱり日本に帰りたい。
「魔王ってやっぱり悪党なのか?」
「え? はい……そのように聞いています。魔王が現れると、まず魔物が強くなります。その兆候が見えて宰相閣下も、もしやと思われたんだと思います。それで他国との交易や国内の交通網にも影響がでて、まだ数は少ないですが、何件かの村が魔物に襲われたとの事例が出てきているようです。それを先導しているのが魔王です」
「そうか……じゃあ、やっぱり放ってはおけないんだな」
「はい、私の実家の領地……ではなくて、出身の土地の近くでも、そういった魔物に襲われた事例があって、私も不安なんです。いつ何時、強力な魔物が襲ってこないかと。私の家族や友人たちが襲われはしないかと……」
「……」
俺はアンネの真剣な顔を見てやっぱり深刻なんだ、と思った。
こっちに来たばかりで、あまり実感が湧かなかったが、アンネの表情が沈んでいるのを見ると、感じるものがある。
ただ、本当に俺で戦えるのか? アンネには悪いがまったく自信はない。
アンネは俺の顔色を呼んだのか、元気そうな声を出す。
「でも大丈夫です! 聞いたところですと、騎士団、教会、王立魔法学園と各方面からの達人が集められているとのことです。しかも紋章が発現するかもしれないといわれるほどの人たちと言っていましたので、きっと大丈夫だと思います!」
お? それは頼もしいな。そうか、考えてみれば国家の一大事だ。勇者一人で魔王倒してこいはない。紋章の発現? っていうのは意味が分からないけど、言い方から凄い人たち、ということだろう。
「本当に?」
「はい! それでそのリーダーが勇者様でありますマサト様になります。私、応援しかできないですけど、私も頑張ります! それに……それはちょっと……素敵です」
「え? 今なんて……」
「あ、なんでもないです! すぐに食事をご用意いたしますね!」
そう言うと耳を赤くしたアンネは食事の準備のためなのか慌てて出て行った。
言っておくが俺は物語の中に出てくる難聴、鈍感主人公とはわけが違う。
俺は確かに聞いた。
素敵です、って俺に。
年齢イコール彼女いない歴の俺に。
俺は無意識に鼻息が荒くなってきた。
これはあれだな、こちらの世界は空気が薄いんだな、仕方ないな。
ああ、そうだ、そうだ。俺はどんな理由であれ、この国では勇者ですわ。
勇気を持つ者ではなくて、呼ばれたから勇者っていうのもいまいち納得がいかんが、勇者は勇者だ。
それで皆が魔王で困っている。
それを倒した日にゃ……いや! このパターンでいけば、たとえ倒せなくとも魔王との決戦前夜に……アンネが俺の部屋に涙目でやってくるパターンも?
死ぬ前に俺は本物の男……いや、漢になれるのでは!
「ククク……ハハハ……ハッハッハー! ヒャッハー!! 待ってろよ、魔王! 男になった俺が貴様に会いに行くぞ! ああ、行ってやるよ! そうしないと決戦前夜が来ねーからな!」
天井に向けて高々と拳を突き上げる俺は魔王にではなく、人生に勝ったような高揚した気分を味わった。
その雅人のいるドアの向こうではアンネとマスローが向かい合っていた。
「すまんな、お前にこんな仕事をさせてしまって。これは信用のおける者にしか頼めんからの」
「いえ、伯父様……こんなものでやる気をだしていただければ安いものです」
「で、どうじゃった? 勇者殿は」
「まあ、ジャブは打っておきました。これから徐々にその気にさせていきます。でも……」
「うん?」
「あの人、本当に勇者なんですか? なんと言いますか、普通の人にしか見えないんですが」
「それは間違いないと思うのだが、あの召喚術は勇者のみにしか効果はないはずじゃからな。ただ、こちらも初めての召喚じゃったからのう……勇者といっても、その個性も能力の強さもそれぞれらしい。歴代の勇者の中には魔王にまったく歯が立たなかったのもいたとも聞いている……」
「え……じゃあ、その国はどうなったんですか?」
「あ、その国で集めた強者たちが勇者を助けて何とか倒したらしいぞ」
「……は?」
アンネは半目でマスローを見つめる。
「伯父様」
「な、なんじゃ?」
「それって勇者、必要だったんですか?」
「……」
「伯父様……」
「ほ、ほら、勇者が来て、魔王倒すとか国民も盛り上がるじゃろ? なんか燃えるし! それにそれで王国の必要性とか、正当性とか強化されるし! ……倒せればじゃけど」
アンネは眉をハの字に寄せて大きく息を吐いた。
「分かりました。とにかく私は勇者様にやる気を出してもらうように頑張ればいいのですね?」
「おお、すまんが頼む。やっぱり男は美しい女性の声援で盛り上がるからの! これからもジャブとかレバーとか、アッパーもかましてくれ。とにかく戦いに出てもらわねばならん」
〝ヒャッハー!!〟
と、その時、部屋の中からマサトの高笑いが響き渡ってきた。
「……どうやら、最初のジャブでノックアウトだったようじゃな」
「もう、ちょっと、ちょろ過ぎです。あの人」
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