第8話 俺、少しだけやる気だす


「ふざけんなよ……人違いで勇者召喚とか」


 俺は引き攣った顔のマスローの指示であてがわれた部屋のベッドで豪奢な天井を眺めていた。

 リンデマンさんも体を震わせていた俺に、


「し、しかしながら召喚されたということはですぞ? 勇者の資質はあるということです! それは間違いないことですので大丈夫です! ……多分」


 と、宣いやがった。

 多分って何だ!? 多分って!

 しかも結局、俺に付与された能力は分からないままだ。

 勇者に与えられる力は個々に全然違うので、巻物の書いてある人物と違うということは、まったく異なった能力が付与されていることになるらしい。

 因みにあのまま、勇崎拓也兄さんが召喚されていた場合の付与される能力を見たところ【心眼】【見切り】【頑強】【疾風】【武技網羅】【極限退魔魔法】【上限突破】【状態異常無効】【魅了】だそうだ。

 聞けばこれは今まで各国で召喚された歴代の勇者の中でも最上位クラスに入る豪華ぶりだそうだ。

これを見たマスローを始めとしたこの国の重臣らしき連中が改めて驚いていた。

 それだけに、そのあと俺を見に見せたみんなの残念そうな顔が痛い。


「それは俺のせいじゃないだろう! 勝手に間違えて呼んでおいて!」


 なんか涙が出そうだ。


「それにしても、拓也兄さんが呼ばれた場合の付与される力はすごそうなものばっかりだったな。よくは分からんが、あれならすぐに魔王とか倒して、とっとと帰還できたんじゃないか?」


 しかも、リンデマンさんに【魅了】って何? って聞いたら、その場で調べてくれて、なんでも相手の好感度が初対面から非常に高くなるというものらしい。

 特に異性には効果がてきめんなもので非常に珍しい力だそうだ。

 なにそれ……超羨ましい。

 そんなのハーレムまっしぐらだろ。

 前の世界でもリアルチートだったのに、こちらに来ていたらどれだけのことになっていたんだ? 

 まあ、来てないけど。

 呼ばれたの俺だけど。


「とにかく、何とかして元の世界に帰えらないとな。方法は本当に魔王を倒す以外にないのか? だとしたら、どうすりゃ……俺にもすごい力が備わってればいいけど、今のところ何の変化も感じないし。【魅了】があったらなぁ、頑張る気にもなるんだけどなぁ。だって魅了って響きがまたエロ……カッコいいし」


 俺に【魅了】が付与される可能性は? って聞いたんだが、マスローとリンデマン、そしてカルメンさんを含めたそこにいる全員が俺をジーと見つめて、


「も、もちろん可能性はありますが……多分、付与されてませんな」

「そ、そうですな、付与されているようには見えないですな」

「それは無いように感じます。鳥肌がたちますから」

「……ぷっ」

「ペッ!」


 と言っていた。

 あいつら……それって俺の好感度が低いってことか! 

 それにあの時、誰か笑ったり、唾をはいてなかったか?

 ここに呼ばれた以上、一応、俺、勇者なんじゃないの?


「いかん……また涙が」


 そこに扉がノックされた。

 俺はすぐに涙をふき、何となくベッドからおりて返事を返す。


「はい、どうぞ」


「失礼します、勇者様」


おお……と思わず感動の声を漏らしそうになった。

 というのも、入室してきたのはメイドで赤毛の少女だったのだ。

 しかも……そう、すげえ可愛い。


「この度、勇者様の身の回りのお世話を命じられましたアンネと申します。よろしくお願いいたします。まだ王宮には来たばかりですが誠心誠意、働かせてもらいます」


 ちょっと緊張気味にアンネは背筋を伸ばし、赤毛を前に垂らしてお辞儀をした。


「あ! こちらこそよろしくお願いします! 俺もこっちの常識とか作法は知らないから、失礼なことがあったら教えてください!」


 俺も緊張がうつってしまい、アンネ以上に頭を深々と下げてしまった。


「え? フフフ……はい、分かりました、勇者様」


 自分よりも深々と頭を下げている俺の姿が可笑しかったらしく、アンネは笑みをこぼす。

 その笑顔も可愛い。


「私のことはアンネとお呼びくださいね」


「あ、はい、じゃあ、アンネ……さん」


「ふふふ、アンネでいいです」


「あ、じゃあ、俺のことも雅人でいいよ、勇者様って呼ばれるのは慣れないから」


「いえ、それは……」


「いいって、いいって、そっちの方がいいんだから。それにかしこまった話し方もしなくていいからね」


「はい……では、マサト様」


 あぁあ……か、可愛い。俺は思わず顔が熱くなる。

こういう時、女性にもう少し慣れていれば……といつも思う。

 それにアンネはアキバにいるメイドじゃない。

 何かを注文するたびに、オプション欲しさにお金を払わされるメイドとは違うのだ。

 今、目の前にいるのはまさしく本物のメイド、初めて見る本物のメイドだ。

 スカートは長くて残念とも思う。

 だが、それを補って余りある大きなブラウンの瞳に優し気な柔和な顔立ちで、肩まで伸びた赤毛も明るい表情によく似合っている。

 見てるだけで癒されるなぁ、こちらに呼ばれて良かったと今、初めて思ったよ。


「マサト様?」


「ハッ! うん? 何?」


「お食事の準備をご用意しましたので、こちらにお持ちしていいですか?」


「あ、すごい嬉しい! めっちゃお腹空いてたんだよ。それにこっちの世界の食事って興味あるし」


「ふふふ、では準備いたしますね。それと宰相閣下からのご伝言で明日にマサト様に紹介したい方々がいますので、朝食後に迎えにくるとのことでした」


「紹介したい人?」


「はい、なんでもマサト様の魔王討伐を補助するために我が国で選ばれた方々が来られるとのことです」

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