第10話 勇者の仲間たち
召喚された次の日の朝。
俺はアンネが出してくれた朝食を部屋でとり、着替えも用意してもらった。
最初はどこぞの貴公子か! というような衣服を持ってきたので、なるべく動きやすくてカジュアルなものを、と要望してそれを用意してもらっている。
まあ、そこまで変ではないと思う。
「そういえばさ、アンネ」
「なんでしょうか?」
「街に行ったら駄目? ずっとここにいるのは息が詰まりそうというか、まだ一日だけど、ずっと王宮の中ってのは……ね」
「あ、大丈夫だと思いますよ。お一人で、というのは難しいかもしれませんが、マサト様は別に監禁されているわけではないですから。それにお金もこちらである程度ならご用意できます」
「本当に!? やった! やっぱり見てみたいと思ってさ、こっちの街並みとか、住んでる人たちを」
「じゃあ、準備だけはしておきますね。出かける時には声をかけてください」
俺は「分かった!」と頷くと少々、塩っ気が足らないが、良い味を出している食事を平らげた。
朝食を食べ終わり、アンネが出してくれたお茶を頂いているとマスローさんがカルメンさんを連れて俺の部屋に訪れた。
用件は昨日、アンネが俺に言っていた魔王討伐に選抜された勇者のパーティーに入る面々の紹介だ。
「勇者殿、王宮の中にある訓練場にご案内します、こちらへ」
「おお、分かった」
これは俺にとっても大事なことだ。
魔王がどれだけ強いのかは正直、不安だが、運良く倒せれば元の世界に帰れるんだ。
俺はマスローさんの後についてき、紹介される仲間はどんな人たちか想像した。
これから相手をするのはなんといっても魔王だ。
この国でも指折りの精鋭が集められているだろう。
それともう一つ大事なことを調べることになっている。
それは俺に付与された能力のことだ。それも試すとも言っていた。
確かにそれは俺も知りたい。
能力自体の興味もあるが、どれだけ魔王に対抗できるものなのかも知らないと戦闘スタイルも作戦も決まらない。
いや、最初は逃げてやろうかと本気で思っていたけど、昨日のアンネの沈んだ顔は見たくないし、決戦前夜という大事なイベントがある。
「そうだ! 決戦前夜のために!」
「うわ! どうされました、マサト殿!?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと……そう、気合が入りすぎた」
「そ、そうですか。それならよいのですが」
「不思議と私は嫌悪感が湧いたのですが……」
カルメンさんは何故か俺のことをゴミを見るような目で一瞥してきたので冷や汗が出た。
訓練場に到着すると、魔王討伐のために召集されたらしい人たちが待っていた。
「さあ、こちらです、マサト殿。この者たちが勇者の仲間として集められたカッセル王国屈指の強者たちですぞ」
マスローが意気揚々とした顔で、そこにいる三人の男女を紹介する。
この人たちが俺と一緒に魔王と戦ってくれる人たち……か。
全員、女の子じゃなかった……まあ、そりゃそうだよな。
それと見れば何となく職業は分かる。
右から騎士、僧侶、魔法使いといったところかな。
それぞれはマスローさんを前にして、若干恐縮している。
あ、この人、偉いんだったな、宰相だっけ。
適当な勇者召喚をしやがったり、適当な説明をするもんだから忘れてたよ。
「では、紹介しますぞ。まず彼は……カッセル王国総騎士団長の推薦だ」
一番右の騎士然とした男が前に出てくる。
しかも、中々のイケメンだ。
男で長髪の金髪というのも小憎らしい。
このメンバーに選ばれているということは、それでいて実力者ということだろう。
こいつは好きになれそうにない人種だな、うん。
とはいえ、これからは頼もしい仲間だ。そんなことぐらいは分かってる。
よし、こいつは敵の盾に使うのが一番いいだろう、と俺の脳内で有力な編成案が完成した。
「僕はマッツ・ロイスだ。この度、勇者殿と共に魔王討伐に選抜されたことを光栄に思います。全身全霊をかけてお供いたしますので、よろしく頼みます、勇者殿」
「ああ、よろしく。俺のことは雅人でいいよ、これからは戦友だからな! みんなも雅人で」
さわやかに握手を求めてくるマッツの手を俺は自分でも分からないが必要以上に強く握り返した。
他意はない。
これは仲間を紹介されてテンションが上がっているからだ。
そのマッツは握られた手を怪訝そうな顔をして見ているが、達人の騎士にしてみればこれが普通ぐらいだろう?
「彼は我が国の名門騎士家系の者だ」
ほう……顔だけじゃなく家柄もいいのか。
それはなおさら仲良くしておかなくちゃな。
「マサト殿? ちょっと強く握りすぎでは。いや、気合が入っておられるのですな! ついに我が国に現れた魔王と雌雄を決するときが来たのです。ましてや勇者の一員にはいるとは武門の我が家の誉! 命を懸けて戦わせてもらおう、私の愛する婚約者レオノーラのためにも!」
婚約者とか……!
きっと綺麗な人なんだろう!
「あ、痛い! 痛たたた! 手が! 手がぁ! マサト殿」
「嫌だなぁ、殿はいらないよ、マサトでいいよ?」
こいつこの程度の握手で痛がるとか、意外と貧弱じゃないか? 騎士だろう。
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