第4話 仏壇からの召喚②


〝ははは、まあ、そんなに落ち込むなよ〟


 いや、普通落ち込むだろ。


〝俺はお前がいい奴だっていうのは分かってるから。だから紹介したんだしな。ただ、今回は諦めろ。入学したてで恋人が欲しくて前のめりになる気持ちは分かるが、さわやかさを演出できないようでは女の子は落ちないぞ。お前は自分磨きの旅でもしてこい。そうしたら、また紹介してやるから。じゃあな〟


 むべもなく田中君に電話を切られると俺は携帯を手から落とし、膝を折ってソファーのクッションに顔をうずめた。


「だってぇぇ、健康男子なら目ぐらい、いっちゃうだろ。これでも見ないように努力してたんだよぉ」


 こうして、俺の恋は終わった。相手にしてみれば始まってもないのかもしれないが。


「はあ~、冗談抜きで生まれ変わるか、俺でもちやほやされる価値観の国へ行きたい」


 これが何の生産性もない願いなのは分かっているがついぼやいてしまう。

大きく息を吐いた俺は和室にある仏壇に手を合わせに立ち上がった。

 意外だと言われるかもしれないが、俺は自分をここまで育ててくれた亡きばあちゃんへの感謝の気持ちだけは強い。

だから毎日、仏壇の前に立つのが癖になっていた。

 俺はハートブレイクの余韻で視界が滲んだまま、仏壇の観音開きの扉に手をかける。


「ばあちゃん、また振られたよ。頼むから、ばあちゃんの力でこの傷心な俺を癒す甘美な出会いをちょうだい。ああ、彼女ができますように。贅沢は言わないから可愛くて胸が大きい彼女が……うん?」


 何だ? 

 俺はいつものように手を合わせた途端、仏壇に飾られているばあちゃんの写真が光ったように感じて眉根を寄せた。


「き……気のせいか? おいおい、流石にばあちゃんが化けて出たのかと……」


 と、俺が言葉を漏らしたと同時に眩い光が目の前で広がりだした。

 ちょ、ちょ、ちょ、これ気のせいじゃない!?


「のわぁぁぁぁ!!」


 俺は思わずあまりの恐怖でひっくり返った。

 なんといっても場所が悪い。仏壇での怪奇現象ってストライクすぎる。

 そそそ、それにしても仏壇だよ? 自分の家の。うちの仏壇ってことは守り神的な方だろ? それが子孫の俺に何かするなんてことは……ねえ。


「うへ?」


腰を抜かしている俺は驚愕の目でゆっくりと見上げる。

 何故ならだ。

光の中からにゅう~と無数の白い触手のようなものが姿を現したので。


「な、な、な!?」


 本当の恐怖を感じると人は声が出ず、動けないってのは本当だったようだ。

だって出てくるわけがないだろう。

 いつも手を合わせている自宅の仏壇から、無数の……、


 白い手なんてな。


 その白い手が俺の頬を撫でるなんて……あはは、ないない。


「ウッギャーーーー!! 出たぁぁぁぁ! 化けて出たぁぁぁぁ!」


 俺は腰砕けになりながらも必死に逃げようと仏壇から走り去ろうとした。

だがおかしい。前に進まない。

 自分の体を見下ろすと白い手たちが伸びて俺の腰や肩を力強く掴んでいるではないか。


「うおいぃぃ! 嘘だろ!? 嘘って言って! 悪霊退散、悪霊退散! 成仏してなかったのか、ばあちゃん! 何故だ!? まさか、第一志望大学の受験費用でエロゲー買ったのが天界でバレたのか? それならごめん! 謝るから!」


 無数の白い手が頭も口も押さえつけてくる。抗えるようなものではないものすごい力だ。

しかもだ、それら俺を掴んだ白い手たちは仏壇に引っ張っていく。


「ムウーー! ムウーー!」


 マジか!? 嫌やぁ! 怖すぎる!

 俺はなりふり構わず全力で暴れるが、びくともしない。抗うことが出来ない。


「洒落になってねぇぇ! 痛い! 痛たたた! すんげー痛い!! 怖い! 超怖い!」


 ああ、きっとこれ、仏壇に引き込まれたら生きたままで地獄に! てやつだ。


「嫌ぁぁ!! ばあちゃん、許してぇぇ! 心を入れ替えるから! あぁあ! じゃあ、せめてPCのデータだけは処分させて! 死んだ後にあれを見られるのだけは、死にきれな……!?」


 という言葉を最後に、俺の体は……仏壇の中に消えた。




マジか……

 俺は今、立派な部屋に連れてかれ、重厚なテーブルに座り説明を受けた。


「マジか……」


「そうです、勇者ソウヤマサト殿」


「じゃあ、俺は本当に知らない世界に無理やり連れて来られて……」


「それは申し訳ないと思っています。どんな理由があるにせよ、我々の都合でお呼びましたのは事実。許してもらえるとは思っていません。ただ、こちらも、選択肢がなかったのです」


「それで俺に魔王を倒せって?」


「やっと理解してくれましたか……時間がかかったのう。ちょいと勇者殿は頑固じゃの」


「いやいや、俺の反応が一般的だと思うぞ。いきなり勇者召喚とか、魔王を倒せとか、どこの中二病だと思うわ。こっちはもう大学生だってのに」


「中二病? 中二病とは……? そちらの世界の重大な病なので?」


「あ、そこは気にしなくていいから」


 ここは異世界で勇者召喚をしたカッセル王国の王宮の中だ、と言われてすぐに理解する奴なんて普通はいないだろ。

 正直、恐怖しかない。

 部屋の中には大昔、偉大と謳われた魔導士の爺さんと大臣たちがいる。

 それで今、目の前でこの事態を説明してくれたのが、このカッセル王国の宰相であるこのユルゲン・マスローというらしい。

 このあり得ない状況で、最後の最後で何とか冷静でいられているのには理由がある。

ここが異世界であることを段々、事実だと理解をし始めたときに、脊髄反射かのように確認したことだ。

それは当然、元の世界に帰るのか? ということだ。

結論からすると帰れる方法はある、と教えられた。それが俺をパニックになるのを抑えていた。

ただ、なぁ。

その時の説明には気になる点が多々あるんだよなぁ。

 こんにゃろうどもめ。



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お読みいただき、ありがとうございます!

明日から毎日、19時前後に投稿するつもりです。

よろしくお願いいたします!



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