第2話 は? 召喚?


「あ痛たたたた……」


 俺はまだはっきりしない意識と頭重感を覚えながら目を覚ました。


「おお! 宰相閣下」


「落ち着け、まだ分からん。カルメン、どうだ?」


「あなたの名前は何ですか? どこの国から来たのです?」


 おいおい、国籍なんか聞くか? という考えが浮かぶが、まだ自分もクラクラしている。

しかし、耳元から凛とした女性の問いかけが何度もあると、ああ、意識レベルの確認かな、と次第に俺は考えなおした。

まだ頭が上手く働かないが、この状況は俺が何かの事故に巻き込まれて怪我でもしてしまったのかもしれない。

 ということは救急隊員の方か。

どこの国から? っていうのには大した意味はないのだろう。

俺はとにかく声を出そうと重く感じられる口をなんとか動かした。


「うう……、そう……や」


「ソウヤ? ソウヤ何です?」


「そう……や……宗谷です。に、日本……から来ました」


 どうやら今現在、自分は横になっているみたいだ。それにしても背中に当たる床が冷たく固い。まるで石畳の上のようだ。

 俺はようやく目を開けると名前を聞いてきた女性がバッと立ち上がる姿が見えた。

いかにも優秀そうな雰囲気を纏っており、理知的で整った顔をしている女性だという印象を受ける。


「宰相閣下! 彼の名前は『ソウヤ・ソウヤ・ソウヤ』です! ニホンという国から来たようです!」


「アホかぁ! ソウヤだよ! 宗谷雅人! 人をゴリラの学術名みたいに言うな!」


 あ、イキッたら目眩が。


「うげ……まだ気持ち悪い。体中も痛ぇ」


 俺は頭に手を当てつつ、上体をあげるおかしなことに気づいた。

 というのも自分のいる場所が大理石で敷き詰められて作られている石床だった。

 背中がひんやりしたのはそのせいか。

それにしても見覚えのない場所だ。

本当、どういう状況なんだろう。


 ……うん?


 俺はそこまで考えて意識がはっきりしてきた。

 待て、待て、待てぇぇ!

 確か俺は家の和室で仏壇に手を合わせようとして……あ! 


オカルト現象に巻き込まれたんだった!


 じゃあ……ここは? あの世か!?

 ここにきて俺は妙に周囲からの視線を感じた。辺りはシーンとしているのだが、なんというか息づかいのようなものが複数あるように……。

 ハッとした俺は顔を上げる。

 すると、俺の向けた視線の先には大勢の人間たちがこちらを凝視して立っている。

 ——え? 

 何だ? こいつら。

 妙な出で立ちをした連中がこちらに集中している。

 中にはファンタジーゲームとかで見るような甲冑を身につけた騎士のような人間たちもいた。

 コスプレイヤーの集会か?

 いやいや、どうしてそんなところにいるんだよ。俺は間違いなく自宅にいたはずだ。

しかも全員、外国人と思しき外見をしているし。

 周りを見れば、非常に広いホールのようなところに自分がいることに気づいた。


「セット……にしては、重厚な雰囲気だよ?」


 すると、自分を囲む人だかりの中からいかにも地位の高そうな服装をしている顎鬚を蓄えた爺さんが前に出てきた。

 何だ? コスプレイヤーも高齢化が進むんでいるのか? 一体、何のキャラだ?

 妙に似合っているおとについてはスゲーとは思うが。


「せ、成功じゃぁぁ! 我が国にも勇者が降臨されたぞぉ!」


「まさか、ついに我が国にも!」

「思っていたよりも普通に見える……いや! 勇者様の降臨に神へ感謝を!」

「これで魔王と戦う準備ができます!」


 突然、天に拳を掲げる大人たちを前に「ひっ!」と情けない声を上げてしまった。

 こんな大勢に突然、でかい声を出されると驚くだろ。

 それに今、何て言った?

 勇者?


「そうか……やっぱり夢だな。全員、外国人なのに普通に日本語を話しているところがその証拠。まあ、夢にありがちな何の根拠も繋がりもない映像ってやつだ。馬鹿馬鹿しい! 目を覚ますぞ!」


 実は俺は昔から夢の中でこれが夢だと気づくことが多かった。

だからこういうのは慣れてんだよ。起き方も身につけてる。

こういう時は、腹に力をいれて……。


「勇者殿、何をフンフン言っておられるのか? あ、こちらの言葉は伝わっておるかの?」


「あ? うるさい、爺さん。今、起きようとしてんだから話しかけんな」


「おお、言葉の転移も成功のようなじゃな! いやいや、流石は大魔導士ヘルムート・ファイアージンガー殿じゃ! 伝説は伊達ではないですな! いやー、心配したけど良かったぁ、あの人じゃ無理だと思ったけど本当に良かったぁ。勇者、来ないかと思ったぁ」


 偉そうな爺さんは感動したようにして、背後で大きな杖を持ってあらぬ方向を見ながらプルプル震えている超高齢者に手を振っている。

 まあ、そんなことはどうでもいい。早く目を覚まさなければ。

俺は周囲を無視して、目を覚まそうとしているんだが上手くいかない。


「あれ? いつもはもっと簡単に……フン! フン!」


「勇者殿? ああ、どうやらまだ混乱されておられているようですな。そうですな、他の国に呼ばれた勇者たちも最初は説明に大変だとは聞いておるし。よし、おい、お前たち!」


 爺さんが何かしらの合図をすると、騎士のコスプレイヤーたちが俺を囲む。


「勇者殿を応接室にお連れしろ。私はカッセル王に報告してから、そちらにいくのでな」


「ハッ! 宰相閣下!」


 騎士のコスプレイヤーたちが俺を支えて立ち上がらせようとする。


「お、おい、何すんだ!? ちょっと! え? すごいね、その鎧。まるで本物みたい」


 しかも、こいつら妙にいい体してんな。

 相当、鍛えているように見えるが、騎士コスプレの趣味が高じてその体をつくったのか?

 いやいや、これは夢の中だった。妙にリアルだから、勘違いしてしまうな。


「あ? ちょっ……なんだよ、放せよ。無理やり立たせられると腹に力が入んないだよ!」


 俺は妙に現実感のある触感に驚きつつも、無意識に直近の記憶を思い出そうとしていた。



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